関節リウマチの発症及び重篤な合併症の早期診断に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300685A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチの発症及び重篤な合併症の早期診断に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
江口 勝美(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・制御学(第一内科))
研究分担者(所属機関)
  • 三森経世(京都大学大学院医学研究科臨床免疫学)
  • 上谷雅孝(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科放射線生命科学講座)
  • 住田孝之(筑波大学臨床医学系内科)
  • 岡本尚(名古屋私立大学大学院医学研究科細胞分子生物学)
  • 土屋尚之(東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学分野)
  • 塩澤俊一(神戸大学医学部保健学科膠原病学講座・大学院医学系研究科病態解析学・附属病院免疫内科)
  • 中野正明(新潟大学医学部保健学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アメリカリウマチ学会は「RA 治療のガイドライン」を2002年に改訂し、RA管理の第一歩は早期に診断を確定し、臨床経過を予測することであるとしている。RAの早期診断と臨床経過、特に関節破壊の予測は薬剤のcost vs benefit、risk vs benefit、テーラーメイド治療を考える上で重要な課題である。私たちは、RAの発症及び重篤な合併症の早期診断や臨床経過の予測について指針を作成することを目的とした。
研究方法
Ⅰ)臨床検査、MRI画像、遺伝子解析、調節性T細胞からみたRAの早期診断と臨床経過の予測
Ⅰ-A)RAの自己抗体による早期診断に関する研究─診断未確定関節炎における抗CCP抗体の意義─
Ⅰ-B)RAのMRIによる早期診断、活動性及び予後判定に関する研究Ⅰ-C)RAの早期診断と臨床経過、特に関節破壊の進行予測
Ⅰ-D)NKT細胞によるRAの早期診断・制御に関する研究
Ⅱ)RA滑膜組織の性質・特性からみた早期診断と臨床経過の予測
Ⅱ-A)RA患者滑膜細胞の遺伝子発現プロフィール解析:Notchの活性化とその意義に関する研究
Ⅱ-B)RA滑膜組織内の遺伝子発現解析
Ⅲ)RA疾患感受性遺伝子解析
Ⅲ-A)ゲノム解析に基づくRA 病因・病態解析
Ⅲ-B)RAの疾患遺伝子DR3からみた早期診断と臨床経過の予知
Ⅳ)RAの重篤な合併症の早期診断と臨床経過の予測
Ⅳ-A)RAに続発するアミロイドーシスの遺伝要因の解析
結果と考察
Ⅰ-A)
1) 初診時の抗CCP抗体陽性35例中26例(74%)が後に RA と診断されたが、同抗体陰性65例の中から後にRAと診断されたのは11例(17%)にすぎなかった。
2)最終転帰において、抗CCP抗体は、RAにおける感度70%、特異度86%、診断確度80%と優れていた。
Ⅰ-B)滑膜炎は早期RA群で94.7%、非RA群で52.6%、骨髄浮腫は早期RA群で59.6%、非RA群10.5%、骨浸蝕像は早期RA群で50.1%、非RA群10.5%に見られた。骨髄浮腫は滑膜炎のある関節にのみ認められ、骨髄浮腫のある滑膜炎において有意にE-rateが上昇していた。
Ⅰ-C) 1)初診時診断未確定の関節炎症例に基づいてRAの早期診断案作成
早期RAと非RA群を鑑別する項目をSAS(Speeding Attitude Scale)システムを用いて抽出した。MRI所見の対称性手・指滑膜炎、②MRI所見の骨髄浮腫/骨浸蝕像、③抗CCP抗体陽性/IgM-RF陽性をSASシステムで解析すると、①、②、③の項目すべてにおいてRAと非RA群間で有意差が見られた。Odds比は①が5.2、②が9.6、③が7.7であった。この理由から①、②、③の3項目中2項目以上をRAと診断すると、感度86.8%、特異度87.5%であった。このRA早期診断基準案は感度及び特異度に優れ、今後汎用されることが期待される。
2)臨床経過、特に関節破壊の予測
早期RA症例の初診時検査では、骨髄浮腫はRF、抗CCP抗体、抗フィラグリン抗体、血清 IL-6値、HLA-DRB1*0405保有者と相関があった。
Ⅰ-D) 1)RA 症例においてNKT細胞、DN NKT細胞、CD4+NKT細胞数、sCD1dmRNA及びsCD1d蛋白量は有意に低下していた。
2)タイプⅡ誘導関節炎はalpha GalCerを投与したり、NKT及びCD1 KOマウスで抑制された。
Ⅱ-A) 1)TNF刺激6時間後の時点で、RAではNotch1、Notch4、Jagged2の発現が亢進していた。
2)RA滑膜細胞ではTNF刺激後にNotch1の細胞質領域(NICD)が核内に移行していた。RA患者滑膜組織でもNotch1、Notch4、Jagged2の蛋白レベルでの発現が増加していた。
3)胎生15日マウスの関節の滑膜組織と軟骨形成予定領域の両者にNotch1、Notch4、Jagged2の発現がみられた。関節が完成している生後1日目ではこれらの蛋白の発現は滑膜組織に限局して認められ、その量も減少していた。
Ⅱ-B)遺伝子導入によりId3を過剰に発現させたHUVECでは、走化性、MMP2やMMP9産生、管腔形成のいずれもが亢進していた。これは、Id1及びId3に対するshRNA導入により、ほぼ完全に抑制された。
Ⅲ-A)LILRB4に15個所の多型・変異を検出し、うちプロモーター領域のSNPに、RAとの有意な関連を見い出した。TNFSF13Bのプロモーター領域とTNFRSF13Bの3'非翻訳領域のSNPの組み合わせに、RAとの有意な負の関連を検出した。
Ⅲ-B)DR3遺伝子上にSNP4個所及び核酸欠損1個所の変異を見出した。この変異型DR3分子が正常DR3分子とヘテロ三量体を形成し、変異DR3分子は正常型DR3によるアポトーシス誘導をドミナントネガティブに抑制した。変異はRA多発家系の10%に見出され、RA家系に遺伝的に集積していた。DR3遺伝子変異陽性RA症例は、関節置換術を受けた者の頻度が高かった。FISH及びfiber FISH法を用いて、DR3遺伝子が近傍に重複して存在し、遺伝子重複の頻度がRA患者で健常者よりもより高頻度であることを見出した。
Ⅳ-A)ApoE4陽性例の割合はアミロイドーシス合併群(26.5%)で、非合併群(14.6%)に比較して有意に高頻度であった。RA発症後の累積生存率ではApoE4陽性群が陰性群と比較して、予後不良の結果が得られた
結論
初診時にRA分類基準を満たさない関節炎症例で、抗CCP抗体が陽性であれば、後にRAと診断される可能性が高い。両手・指MRI所見を、後にRAと確定診断された症例(早期RA)とRA以外の疾患と診断された症例(非RA)で比較した。骨髄浮腫と骨浸蝕は早期RAにおいて感度が50?60%であり、特異度が90%であった。初診時の検査所見とMRI所見から、SASシステム解析を実施し、早期RAの寄与因子について検討した。早期RAとしてOdds比が高い項目は、①MRI所見における対称性滑膜炎の存在、②MRI所見における骨髄浮腫/骨浸蝕像の存在、③抗CCP抗体/RF陽性、であった。これら3項目中2項目以上陽性である場合を早期RAとする診断基準案を作成した。この診断基準案は感度が86.8%、特異度が87.5%と優れており、RAの早期診断に有用であることを明らかにした。骨髄浮腫は活動性が高い滑膜炎を伴い、CRP、MMP-3、RF、抗CCP抗体、抗フィラグリン抗体、血清IL-6とHLA-DRB1*0405保有者と相関した。骨髄浮腫とこれらの検査所見は臨床経過、特に関節破壊の進行予測に有用であることが示唆された。NKT 細胞、可溶性 CD1d 分子は RA の早期診断に関して補助的マーカーになりうると考えられた。
RA患者の滑膜細胞の遺伝子発現プロフィール解析を実施した結果、RA滑膜細胞は、発生期における運命決定因子であるNotch1、Notch4、Jagged2をTNFの刺激により特異的に発現した。この結果は、RA滑膜細胞が発生期の増殖性に富んだ形質を改めて再獲得していることを示している。RA滑膜組織内血管内皮細胞は転写制御因子Id1、Id3を強発現していた。また、Id1、Id3を強制発現させると、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に血管新生を誘導した。この血管新生はId1、Id3のRNAiによってほぼ完全に抑制された。この理由から、IdがVEGF誘導性血管内皮細胞の活性化、血管新生に必須の因子であることが示された。RA疾患感受性遺伝子についてSNP解析を施行した。LILRB1多型がHLA-DRB1* shared epitope陰性RAと関連がみられた。LILRB1に隣接するLILRB4プロモーター領域のSNPにRAとの関連を見い出した。またBLySとその抑制型受容体であるTACI多型との組み合わせがRAに関連することを見い出した。第1染色体に位置するRAの疾患遺伝子としてアポトーシスシグナル受容体DR3の遺伝子変異をDNAレベルで確定した。変異DR3分子は正常型DR3によるアポトーシス誘導をドミナントネガティブに抑制した。変異は多発RA家系の10%に見い出され、RA家系に遺伝的に集積していた。DR3遺伝子変異陽性症例は関節置換術を受けた頻度が高いことから、DR3遺伝子変異がRAの疾患の発症でなく進行に関わる疾患遺伝子であることを証明した。さらに、DR3遺伝子が近傍に重複して存在し、遺伝子重複の頻度がRA患者で健常者よりも高頻度であることを見い出した。
RAの重篤な合併症である反応性AAアミロイドーシスの発症において、遺伝要因としてApoE4が重要と考えられた。ApoE4陽性例は陰性例に比べて、RA発症以後の生命予後が有意に不良であった。

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