免疫疾患の合併症とその治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200300676A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫疾患の合併症とその治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 博史(順天堂大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤啓文(北里大学医学部内科学V)
  • 猪熊茂子(都立駒込病院アレルギー膠原病科)
  • 熊谷俊一(神戸大学大学院医学系研究科生態情報医学講座)
  • 槇野博史(岡山大学大学院医歯学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学)
  • 広畑俊成(帝京大学医学部内科)
  • 鏑木淳一(東京電力病院内科)
  • 吉田雅治(東京医科大学八王子医療センター腎臓科)
  • 原まさ子(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター)
  • 諏訪 昭(慶應義塾大学医学部内科学教室)
  • 渥美達也(北海道大学大学院医学研究科分子病態制御学講座免疫病態内科学分野)
  • 岡田洋右(産業医科大学医学部第一内科学講座)
  • 亀田秀人(埼玉医科大学総合医療センター第二内科)
  • 萩山裕之(東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科)
  • 金井美紀(順天堂大学医学部膠原病内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年、膠原病の生命予後は飛躍的に改善してきているが、依然として重篤な臓器病変や合併症により不幸な転帰をとる症例が存在する。さらに、長期生存例の増加と治療の長期化に伴い、治療による副作用あるいは加齢に伴う合併症の増加は、生命予後あるいはQOLを障害している。これまでは重篤な臓器病変や合併症に関する研究は個々の施設で検討されたが、稀少疾患であるために各施設の裁量に委ねられていると同時に、予防対策も確立されてないのが実情であり、この問題を解決するためには多施設での共同臨床研究は不可欠である。本研究では膠原病の合併症を横断的に捉え、その中でも解決が急務と考えられる肺病変・腎病変・精神神経病変・血液病変・感染症・骨粗鬆症を重点課題と取り上げ、多施設の症例を集積して、実状を評価し、EBMに基づく治療法及び予防法の確立を目的とした。
研究方法
昨年度に引き続き6つの小委員会において重点課題の研究を進めた。
1.肺病変に関する小委員会(近藤委員長、猪熊、亀田、金井、萩山、原、槇野、各委員)
膠原病の間質性肺炎・肺高血圧症・肺出血の病態とその治療の実際、有効性、予後との関連を明らかにし、それに基づいた診療のガイドラインを作成するために1997年から5年間の肺病変を合併した膠原病患者の実態調査を行い解析した。
2.腎病変に関する小委員会(槇野委員長、渥美、亀田、金井、吉田、各委員)
(1) ANCA関連血管炎に対するシクロフォスファミド(CY)間歇静注療法(IVCY)とCYの経口連日投与との有用性の検討を行なうべく実態調査とプロトコール作成を行った。これに関し厚生労働省「進行性腎障害に関する調査研究班」と「難治性血管炎に関する調査研究班」との共同研究を行うべく、3班合同の会議を開催した。
(2) 高血圧合併ループス腎炎の特性を検討した。
3. SLEの精神神経病変の診断予備基準作成小委員会(広畑委員長、金井、原、各委員)
SLEの精神神経病変(CNSループス)の診断予備基準を作成するために、過去10年間の症例の集積を行い各種指標項目の感度、特異度を検討した。
4. 感染症に関する小委員会(猪熊委員長、岡田、熊谷、近藤、諏訪、金井、萩山、広畑、吉田、各委員)
膠原病に合併するカリニ肺炎の診断と治療、予防に関するガイドラインを作成するために多施設共同による実態調査、予測因子、危険因子、予防的治療の導入などを検討した。
5.免疫疾患に合併する血栓症などの小委員会(鏑木委員長、渥美、猪熊、熊谷、近藤、萩山、金井、各委員)
膠原病に見られる血栓症の鑑別診断と治療に関するガイドラインを作成するために、多施設共同による実態調査を行い、動静脈血栓症に関わる危険因子と病態、各種治療の有用性などについて検討した。また、膠原病に見られる血栓症とvon Willebrand因子切断酵素活性との関連を検討するプロトコールについて検討した。
6.ステロイド性骨粗鬆症に関する小委員会(熊谷委員長、渥美、岡田、金井、鏑木、亀田、諏訪、原、広畑、槇野、各委員)
(1) ステロイド治療を必要とする膠原病患者の骨粗鬆症とそれによる骨折を防止するためのガイドラインを作成するために、ステロイド中等量(PSL 0.5mg/日)以上投与されている膠原病患者の骨粗鬆症と骨折の実態を多施設共同で調査した。
(2) ステロイド長期多量投与例について、ステロイド性骨粗鬆症と骨折の予防効果に関するビタミンD3とビスフォスフォネートの前向き比較試験を行った。
7. 倫理面への配慮
遺伝子解析では、政府や科学技術会議で提唱されているヒトゲノム研究に関するガイドラインに沿って行った。疫学調査の実施、検体提供を受ける場合、前向き研究を行う場合には、患者さんに目的と方法を説明し文書による同意を得た。必要に応じ各施設の倫理委員会あるいは治験委員会の承認を求めた。
結果と考察
1.肺病変に関する小委員会
(1) 間質性肺炎(IP):457例のIP患者を集計した。基礎疾患は多岐に渡るが慢性型が多く、進行性と非進行性は半数ずつであった。治療により改善と評価されたのは34%であった。Amyopathic dermatomyositis(ADM)のIPではステロイド、シクロスポリン、シクロフォスファミドのIVCYの3者併用によっても反応しえない症例が存在した。
(2) 肺高血圧(PH):PHは94例集計され、MCTD,SLE,SScが多い。予後不良であるが、IPと肺血栓栓の存在有無による予後に有意の差はなかった。また、IPの存在が肺動脈圧に及ぼす影響は少ないと考えられた。早期診断による免疫抑制療法の導入が少なからず予後改善につながることが示唆された。
(3) 肺出血:32例が集計され、血管炎とSLEが多くを占め予後不良であった、
2. 腎病変に関する小委員会
ANCA関連血管炎に対するIVCYは連日経口投与(POCY)と比較し同等の効果が期待されているが、両者の有用性に関する前向き比較試験のプロトコールが検討された。これにより、「難治性血管炎に関する研究班」および「進行性腎障害に関する研究班」から既に提唱されている治療ガイドラインの検証を行う。一方、SLE患者における腎症の既往は高血圧の危険因子で、BMIや高脂血症の頻度が高いことなど動脈硬化の危険因子との関連も示唆された。
3. SLEの精神神経病変の診断予備基準作成に関する小委員会
髄液中IL-6値はSLEによる精神症状とそれ以外の精神症状との鑑別に有用で、これを含めた診断基準案を作成し前向き調査を実施中である。また、精神症状をきたすSLE患者の髄液中抗リボソームPO抗体は、Focal型CNSループスや他の疾患に比し有意の上昇が見られ、病態との関連が示唆された。
4.感染症に関する小委員会
感染症を合併する膠原病入院患者715人中54例にカリニ肺炎を認めた。カリニ肺炎をきたす危険因子を明らかにしたが、強力な免疫抑制療法をする場合には一次予防をすることが望ましいと考えられた。また、カリニ肺炎の特徴的画像を明らかにすると共に免疫抑制療法下における臨床的指標に抗βグルカン抗体の有用性が明らかにされた。誘発喀痰を用いたカリニ特異的DNA診断より一次予防をすることの有用性、危険因子から見た予防的化学療をすることの有用性、一次予防適応基準(案)が示された。
5. 血液疾患に合併する血栓症などの小委員会
膠原病に合併する血栓症の調査解析を行い、動静脈血栓に関連する因子として抗リン脂質抗体が再確認された。動脈血栓では、高血圧症、高コレステロール血症との関連も見られた。また、膠原病における血栓症、TTP、動脈硬化とvon Willebrand因子切断酵素活性との関連を検討する必要性を明らかにした。また、抗CD40L抗体陽性SLEは血小板減少が多く見られ、本抗体が活性化血小板膜上への結合を介して血小板クリアランスを高めている可能性が示唆された。内皮細胞や単球系細胞の活性化による血栓傾向を阻止する目的で、抗マクロファージ遊走阻止因子(MIF)抗体による組織因子発現阻止をin vitroの系で検討した結果、その可能性が示唆された。
6.ステロイド性骨粗鬆症に関する小委員会
中等量以上のステロイド投与例237例の解析で、圧迫骨折、特に閉経後の圧迫骨折例では骨密度の有意の低下を認めたが、少量投与例における骨折の病態と異なる可能性があり、より厳密な基準が必要と考えられた。さらに、ステロイド長期多量投与患者を対象にビスフォスフォネートの骨折予防効果
の前向き比較試験を実施中である。遺伝的解析では、TGF-β1-509 T allele, IL-6-634 G alleleが原発性骨粗鬆症と同様に危険因子である可能性が示唆された。
結論
 各々の重篤な合併症の実態調査に基づきそれぞれの危険因子を把握すると共に予測因子の検討を行った。また、各々の病態における各種治療法の効果と有用性、予防的治療の検討も併せ行った。
3年目に向けさらなる実態調査と前向き比較試験を継続し、それらの結果をふまえ合併症に対する早期診断と予防・治療のためのガイドライン作成を行なう。

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