ヒト肝細胞キメラマウスを用いた医薬品の動態および安全性予測システムの構築(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300642A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト肝細胞キメラマウスを用いた医薬品の動態および安全性予測システムの構築(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
横井 毅(金沢大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中島美紀(金沢大学薬学部)
  • 吉里勝利(広島大学大学院理学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
77,061,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
広島県地域結集型共同研究事業(研究統括:吉里勝利)では、肝障害マウス(uPAマウス)と免疫不全マウス(SCIDマウス)とを交配させることによって免疫不全肝障害マウス(uPA/SCIDマウス)を作出し、uPA/SCIDマウスへヒト肝細胞を移植することにより、マウス肝臓の80%以上がヒト肝細胞で置換されたヒト肝細胞キメラマウスを作出することに成功した。キメラマウス肝臓におけるヒト肝細胞はヒト型薬物代謝酵素などのヒト肝細胞機能を保持しているため、キメラマウスは医薬品開発に重要なヒトにおける薬物動態および安全性を予測するモデル動物として利用できると予想される。
本事業の目的とするキメラマウスおよびキメラマウスから分離したヒト肝細胞が創薬研究に利用できるためには、キメラマウスの安定供給が必須である。本年度は日本チャールスリバー株式会社から供給されたuPA/SCIDマウスをホストとして用いて、ヒト肝細胞キメラマウスの安定供給方法の確立のための調査研究を行った。また、簡易、低コストでキメラマウス生産を行うために、遺伝子解析手法およびマウス血中ヒトアルブミン濃度測定法の変更を行った。さらに、本事業では、複数のドナーからなるキメラマウスを作製し、薬物代謝能の個体差の検討を行うことも予定しているため、これまで移植に用いてきたロット以外のヒト肝細胞がマウスに生着するかどうかについて検討を行った。
主要な薬物代謝酵素であるCYPは、in vitroの培養系では活性を十分に維持することが困難であることが知られている。薬物輸送トランスポーターは、その活性はin vitroの培養系においても、その機能が比較的維持されることが知られている。そこで本研究において、昨年度の予備的な検討に続き、本年度はヒト肝細胞キメラマウス由来肝ミクロソームを中心に、ヒト特異的な薬物代謝酵素活性を維持しているか否かについて、薬物代謝酵素CYPについてmRNAの発現レベルを、ウエスタンブロット分析によりタンパクの発現レベルを、HPLC分析により各種酵素活性レベルを検討し、ヒト肝細胞キメラマウスの有用性の確立を目指して実験を行った。さらにヒトCYP誘導能に関する研究についても行った。
さらに、当初の研究計画に従い、平成15年度は多くの製薬メーカーの研究所との共同研究を幅広く行い、各研究所でのデータを学会発表などで開示することにより、ヒト肝細胞キメラマウスの薬物動態研究における評価を確かなものにし、同時に一般化を諮ることに着手した。製薬メーカー7社の薬物動態の研究所および1大学の研究室と共に、「ヒト肝細胞キメラマウス研究会」を平成15年度に立ち上げた。参加企業は、山之内製薬(株)、三共(株)、武田薬品工業(株)、第一製薬(株)、エーザイ(株)、ファイザー(株)、(株)大塚製薬工場の7社と東京大学大学院薬学研究科製剤設計学研究室である。主任研究者の横井毅がキメラマウスの使用および研究内容の調整を全て行っている。本研究会は、公に開示できない研究内容は行わず、必ず速やかに学会発表等を行うことを前提としている。平成15年度末現在、順調に進行中である。平成16年度中には、全ての共同研究について、結果・結論を得て終了する予定である。本報告書では、現在進行中の主な共同研究5課題について、目的と経過および今後の予定について記す。
研究方法
ヒト肝細胞キメラマウスは、免疫不全肝障害マウスのホモ個体{uPA(+/+)/SCID}にIVT社より購入したヒト肝細胞、IVT-079を脾臓より注入することにより作製した。最近、Meulemanらにより、uPA遺伝子を導入することによりuPA/SCIDマウスに欠失する配列のプライマーとuPA/SCIDマウスに存在するhGHの配列のプライマーを混合し、マウスから採取したゲノムDNAをテンプレートとしてPCRを行うことにより、uPAヘミマウス、uPAホモマウス、uPA(-/-)/SCIDマウス(uPAネガティブマウス)を同時に検出する方法が報告された。この方法を導入し、平成15年9月以降はその遺伝子判定の結果を基にuPAホモマウスを選択しヒト肝細胞の移植を行った。また、IVT社から購入できるロットIVT-100、 IVT-59、IVT-QKR、IVT-XPK、IVT-NOGおよびIVT-NLRをドナー細胞として用いて移植を行った。なお、移植方法、移植した細胞数、注入量および予想置換率の判定はIVT-079と同様の方法で行った。
ヒト肝における主要な薬物代謝酵素CYP全てについて、タンパク発現量をウエスタン
ブロット法にて、肝ミクロソームにおける酵素活性をHPLCなどを用いて測定した。ま
た、キメラマウスに誘導剤を投与することにより、タンパクレベルおよび酵素活性レ
ベルでの定量について実験を行った。
キメラマウス研究会での課題では、1.代謝経路に種差が知られているアモスラロールを経口投与する。24時間尿についてHPLC-MSにて分析した。2.毒性発現の種差の検討として、ヒト肝細胞キメラマウスの低置換率と高置換率それぞれに化合物Aを、1日1回7日間反復経口投与し、GOT, GPT, 化合物Aの血中濃度、ヘマトクリット値を測定した。3.トランスポーターの発現を中心に組織学的検討を行った。4.置換率が約20、40,50,60%のキメラマウス由来のヘパトサイトをについて、CYP3、CYP1 familyの誘導について検討した。5.CYP3Aを誘導する 化合物E5110を経口投与し、投与後0-24、24-48,48-72時間の尿を採取し、その後コルチゾールを投与し、その16時間後の尿を採取し、CYP3Aの誘導と代謝の関係を検討した。
結果と考察
IVT-079をuPA(+/+)/SCIDマウスへ移植したところ、マウス肝臓におけるヒト肝細胞の予想置換率が70%以上のキメラマウスが約4割得られた。しかし、置換率1%未満のマウスも約3割認められ、安定して高い割合でヒト肝細胞に置換されたマウス生産を行うためのさらなる技術改良が必要である。また、新たな遺伝子解析法に変更することにより、簡易かつ低コストで確実に遺伝子解析を行うことが可能となった。新たな遺伝子解析法を導入以降、予想置換率80%以上のマウスの割合が導入以前に比べて約2倍に向上した。今後、予想置換率が1%未満であるマウスの割合を低減させる方法の開発が必要である。
これまで、ドナーの年齢が生後9ヶ月のIVT-079および13歳のIVT-NLRが、他の30代以上のドナーに比べて高置換率のキメラマウスを多く得られたことから、ドナーの年齢が若い程、キメラマウス作製に適している可能性が考えられる。しかし、今回、ドナー年齢35才のIVT-QKRと45才のIVT-NOGから、割合は低いものの70%以上置換率のキメラマウスが得られたことから、30才以上のドナーの中にも、キメラマウスに適したヒト肝細胞も存在する可能性も示唆された。これらのことから、キメラマウス生産のドナー細胞としてIVT-NLRが利用できると考えられた。
主要な薬物代謝酵素であるCYPの代謝能および誘導能について検討した結果、ヒト肝細胞キメラマウスはヒトCYP代謝能およびヒトCYP誘導能を示すことを明らかにした。キメラマウスを用いた誘導実験はヒト肝細胞を用いた場合に比べ、活性が低い分子種についても検討が可能であり、さらにより生体に近いin vivoの状態で検討を行うことができるなど多くの利点があると考えられる。
研究会における各課題の詳しい結果の記載は字数の都合上割愛するが、ヒト特異的な代謝物の予測が明確に可能と考えられた。組織学的検討およびキメラマウスから調製したヘパトサイトの誘導能など、期待したデータが得られている。
結論
キメラマウスの作製については、IVT-079をドナー細胞として、安定したキメラマウス生産が可能となった。異なるドナーの肝細胞として、IVT-NLRがキメラマウス生産に用いることが可能であることが示された。さらに、マウスの遺伝子解析法を改良したことにより、簡易・低コストでしかも正確にuPAホモマウスを選択することができるようになり、高置換マウスの割合を増やすことができた。
ヒト肝細胞キメラマウスにはヒトCYPが発現しており、ドナーと同程度の薬物代謝能を有することを明らかにした。また、キメラマウスはドナーと同一の遺伝子多型を有することも明らかにした。さらに、ヒト肝細胞キメラマウスはヒトCYP誘導能を示すことを明らかにした。今後、例数を増やすとともに、さらに様々な誘導薬に関して検討を行う必要があると考えられる。
ヒト肝細胞キメラマウス研究会として、製薬メーカー7社と1大学研究室との共同研究を13課題について開始した。そのうち主な5課題について報告書にて説明した。これらの課題は全て現在進行中であり、速やかに学会発表、論文発表までの研究を遂行する予定である。さらに、誘導剤感受性の種差、抱合系の酵素活性、安全性試験およびDNAマイクロアレイによるヒト遺伝子の網羅的解析を開始した。平成16年度には全ての課題を終了し、ヒト肝細胞キメラマウスの有用性について、確実な評価をだすことができると考えている。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-