糖鎖担持カルボシランデンドリマー製剤の設計技術開発に関する研究

文献情報

文献番号
200300619A
報告書区分
総括
研究課題名
糖鎖担持カルボシランデンドリマー製剤の設計技術開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
照沼 大陽(埼玉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 松岡浩司(埼玉大学)
  • 幡野健(埼玉大学)
  • 名取泰博(国立国際医療センター)
  • 西川喜代孝(国立国際医療センター)
  • 平野弘之(株式会社ジーエスプラッツ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
42,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、ゲノム解析の手法が確立し、実際の医療にそれらの結果を生かすことが今後の課題となっている。また、生体内で、さまざまな毒素やウイルスの作用には機能性を有する特異な糖鎖が関与していることが明らかとされつつある。したがって、特異的な機能を発揮する糖鎖を有効に利用することが強く望まれている。我々は機能性糖鎖をカルボシランデンドリマーに担持して糖鎖の機能性をより効果的に発揮させる化合物を考案した。本研究では病原性大腸菌O157:H7が産生するベロ毒素に接着能を有するグロボ三糖誘導体をカルボシランデンドリマーに担持し、まったく新しい型の薬剤の開発を行うことを目的とする。
腸管出血性大腸菌の産生するベロ毒素/志賀毒素やコレラ菌の産生するコレラ毒素など、ある種の細菌性腸管感染症の病原因子は糖脂質を受容体とする菌体外毒素である。これらの毒素は毒性の本体である酵素活性を担うAサブユニットと、受容体結合活性を有するBサブユニット5量体からなり、Bサブユニット5量体が標的細胞の表面にある糖脂質に結合することが毒性発揮に必須である。またBサブユニット5量体には最大15個までの糖脂質結合サイトの存在が報告され、これらのサイトのいくつかが細胞表面の糖脂質クラスターに結合することが、毒素が強く細胞に結合するために重要と考えられている。このことから、分子内に複数の糖鎖を有する化合物(クラスター構造を有する化合物)はこれらの毒素と強く結合し、標的細胞への毒素の結合を阻害する可能性が考えられ、このアイディアによりいくつかの毒素中和剤が合成され、その活性について報告された。しかし現在に至るまで、実際に薬剤として開発が進んでいる化合物はない。
腸管出血性大腸菌感染症における主な死因は脳症などの合併症であり、それらは体内に浸入したベロ毒素が引き起こす。従って同菌感染後でも体内で毒素を中和し、合併症の発症を抑制する治療法が開発されれば、重症例や死亡例の減少が期待される。
ベロ毒素を認識する糖鎖はグロボ三糖(Gb3)であることが知られており、グロボ三糖を集積化することによるクラスター効果を期待してポリマー担持物等が合成され、その効果について検討がなされてきた。しかし、前述のごとく、これまでベロ毒素を個体中で効果的に中和できる明確な構造を有する化合物は見いだされていない。
我々は明確な構造を有し、これまでに知られていない機能を発揮することが期待されるカルボシランデンドリマーに着目し、グロボ三糖をカルボシランデンドリマーに担持してまったく新しいタイプの糖鎖クラスター化合物を創製した。カルボシランデンドリマーはその構造を自由に設計できることから、担持する糖鎖数、分子のサイズなどを標的に合わせて自由に構築できる点に特徴がある。さらにカルボシランデンドリマーはその対称性が高く溶解性も大きいことから、担持されたすべての糖鎖を同一環境下に配置できることも大きな特徴である。これらのことから対称性の高いベロ毒素Bサブユニットに対する認識・接着物質としベロ毒素中和剤の開発に有効であることが期待できると考え、実証してきた。さらに、このコンセプトは他の糖鎖(インフルエンザウイルスを認識・接着するシアリルラクトースなど)にも応用が可能と考えられることから、さらに種々の糖鎖について分子設計・合成を行う計画である。
研究方法
グロボ三糖(Gal-a-1,4-Gal-β-1,4-Glu-β)構造を有するオリゴ糖である。グロボ三糖をクラスター化するためには糖鎖の末端にカルボシランデンドリマーに結合させることができる官能基を導入する必要がある。我々は結合させる官能基として、求核性が強いチオラートアニオンを選択し、末端に官能基としてハロゲンを有するカルボシランデンドリマーに作用させて、グロボ三糖担持カルボシランデンドリマーを調製することとした。カルボシランデンドリマーの特徴は形状、サイズおよび末端官能基数などを自由に分子設計・合成できる点にあり、機能性糖鎖をさまざまな受容体の形状、サイズに合わせて配置することが可能となる。ここでは、我々がベロ毒素中和活性がもっとも高いこと明らかとしたDumbbell(1)6型をリード化合物としてグロボ三糖担持カルボシランデンドリマーを系統的に合成し、その中和活性評価を行うこととした。
結果と考察
まず、グロボ三糖担持カルボシランデンドリマーの系統的合成を行った。すなわち、グロボ三糖担持カルボシランデンドリマーのベロ毒素中和活性に対する構造最適化を行うことを目的として、これまでにもっともベロ毒素阻害活性の高い効果を示したグロボ三糖担持カルボシランデンドリマー・Dumbbell(1)6をリード化合物として以下の3項目に分類し系統的に合成・活性評価を行うこととした。
1. 糖鎖担持数の異なるカルボシランデンドリマー(グループ1)
2. デンドリマー中心部鎖長の異なるカルボシランデンドリマー(グループ2)
3. グロボ三糖とカルボシランデンドリマー間鎖長の異なる糖鎖(グループ3)
本年度、これら3グループの合成をすべて完了した。
これまでに、グループ1の結果が判明している。その結果、in vitroにおいてはグロボ三糖担持数が4以上でベロ毒素阻害活性が急激に上昇することが明らかとなった。しかし、in vivoでは担持数4および5のものはほとんど効果が認められず、担持数6のものが強い阻害活性を示した。以上の結果、デンドリマーに担持する糖鎖数が阻害活性に大きな影響を与えることが明らかとなり、糖鎖担持数は6以上が必要であること、および、これらの手法がまったく新しい形のベロ毒素中和剤開発の手法となりうることを証明することができた。
このように、グロボ三糖担持カルボシランデンドリマーが効果的にベロ毒素を中和可能であることが判明したことから、グロボ三糖の大量合成について検討した。
これまで本研究で使用したグロボ三糖誘導体は、まず、ペンテニル基を導入する経路で行ってきたが、ペンテニル基の存在により、合成中間体であるベンジル保護基の除去をBirch還元によらなければならなかった。また、一般に糖鎖誘導体は結晶性が悪く、これまでのグロボ三糖誘導体合成経路においては、その中間体の多くの合成段階においてクロマトグラフィーによる精製が必要であった。そこで、アノマー位およびその他の水酸基をより結晶性の高いベンジル保護基を用いる経路を立案・検討し、上記難点を克服できる経路を確立した。
以上述べたように、グロボ三糖担持カルボシランデンドリマーが新規ベロ毒素中和剤として有効であることを明らかとすることができたことから、次の段階として、このコンセプトを他の糖鎖に適用し、より広い薬剤の開発を行うこととした。
まず、HIV(表面)のモデルとしてマンノースのその二糖(Man-a-1,3-Man)誘導体を合成し、カルボシランデンドリマーに担持させクラスター化することでマンノースの人工的な集積場を構築し、従来の「酵素を標的」とする抗HIV剤ではなく「糖鎖を標的」とする新規の薬剤開発の可能性の検討を行った。今年度は、マンノースおよびその二糖誘導体の合成と、それらを導入した糖鎖担持カルボシランデンドリマーの合成を行いそれらを完了した。
さらに、インフルエンザに対し高い接着能を有すると期待されるN-アセチルラクトサミン(Galβ1-4GlcNAcβ1)の新規合成法の検討を行った。今回、糖鎖のアノマー位へのアグリコン導入反応には、新たに相間移動触媒を用いる2相反応を取り入れた。この反応の生成物のアノマー位の立体配置は常に特異的であるため、他の糖鎖合成においても有用であること確認した。
結論
平成15年度の研究の結果以下の成果を得た。
1. Dumbbell(1)6型グロボ三糖担持カルボシランデンドリマーをリード化合物として3種のグループに分けた系統的な合成を完了した。
2. 担持糖鎖数の異なるグループ1に関する中和活性評価の結果、in vivoで活性を得るためには6個以上の糖鎖を担持することが必要であることが分かった。
3. グロボ三糖誘導体の大量合成経路を確立した。
4. 機能性糖鎖をカルボシランデンドリマーに担持するコンセプトの有効性を証明した。このコンセプトを他の糖鎖に適用することによって、新しい型の薬剤の実現が期待される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-