微細鉗子・カテーテルとその操作技術の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300613A
報告書区分
総括
研究課題名
微細鉗子・カテーテルとその操作技術の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
垣添 忠生(国立がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 小林寿光(国立がんセンター)
  • 荒井賢一(東北大学)
  • 植田裕久(ペンタックス株式会社)
  • 佐竹光夫(国立がんセンター)
  • 角美奈子(国立がんセンター)
  • 玉川克紀(株式会社玉川製作所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
58,275,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
低侵襲で効果的な診断・治療法はがん医療の理想である。侵襲的な手術は内視鏡やカテーテル手技により代替できれば素晴らしいし、内視鏡検査やカテーテル技術自体も、更に効果的で低侵襲な形に進化を遂げるべきと考える。しかしこれらの手技には高い技術が要求されるため、標準化が難しく、普及を急げば効果と安全性が犠牲となりかねない。
そこで気管支や血管、消化管などの管腔内において、適切な診断と治療を行うため、微細鉗子やカテーテル、微細内視鏡とその操作技術を、非接触で体外から動力を与えることのできる磁気の応用と微細加工技術を用い開発する。
本年度は、これまでに開発した磁気アンカー機器装置や微細内視鏡、自動誘導システムの試作と検証を繰り返して適正化と高度化を行う。特に磁気アンカーに関しては、臨床試験用機器装置の開発を行う。
研究方法
1.磁気アンカーの開発
胃がんの内視鏡的粘膜切除(EMR)は、外科的手術に代わり得る低侵襲治療である。この手技は一定の条件を満たす若干大型の胃がんに対しても、適応を拡大できる可能性がある。しかし切除に一本の内視鏡しか使用できないため、手術の難度が高く標準化が難しかった。胃の内腔で一周切除した粘膜片に微細な鉗子を付着させて病変を把持した後、体外から非接触で物体を制御できる磁気を加えることで固定、牽引できれば、EMRの難度は大幅に低減され、胃がんの内視鏡治療の普及が促進されると考えられる。
これまでに開発した磁気誘導微細鉗子(磁気アンカー)は、10mm×15mmの磁性ステンレス製ウェイトと、止血クリップをナイロン糸で連結していた。磁気アンカー駆動装置は、対象周囲の空間を周回できるように、盤状磁気誘導装置をベルト上に固定する形とした。
磁気アンカー機器装置は動物実験において、充分な力で粘膜を固定、牽引することが可能であった。また針状電気メスを使用して、直視下に、安全に、迅速に粘膜切除が可能で、術者の違いや技術の優劣にかかわらず切除操作を補助し、結果として切除時間の短縮が可能であった。またアンカーが磁力で引っ張られた結果、挙上された組織片の切除面を直視しながら操作を行うため、穿孔や出血が防止され、切除が難しい体部大弯側の切除も容易であった。
以上の動物実験から、新たに解決すべき懸案も示された。磁気アンカー駆動装置に関しては、小型化、単純化、低消費電力化、磁気強度と磁場範囲の適正化、制御能の向上、操作の簡易化、内視鏡検査台との適応性が挙げられた。磁気アンカーに関しては、把持力の適正化、小型化、内視鏡視野の確保、微細鉗子による連結糸の咬み込み防止構造の開発が必要であった。
2.微細内視鏡の開発
血管腔などの狭小領域では通常の内視鏡が挿入できないため、カテーテル等を挿入して検査している。そこでカテーテルにも挿入可能な微細内視鏡が開発されれば、体内に挿入されたカテーテルなどのチューブを介した診断・治療を、そのまま内視鏡検査とすることができる。この内視鏡は既に誘導されたカテーテル等の内腔に挿入されることを前提とすれば、先端の屈曲機構を省くことが可能である。必要であれば磁気誘導も可能である。また外筒のカテーテル等の内壁と微細内視鏡との間隙を、処置チャンネル代わりに利用することも可能である。この間隙は微細内視鏡内に処置チャンネルを装備した場合より遙かに広い。
この概念の基に5Fr.のカテーテルにも挿入可能な0.8mmの外径の内視鏡内に、画像用光ファイバー3000本を収めた微細内視鏡を開発した。カテーテルの内腔に挿入する際に問題となる挿入・抜去困難に対して、外皮をシリコンチューブとすること、またパラキシリレンを蒸着することで円滑な操作が可能となった。しかしカテーテル内で使用される場合には、ガイドワイアーと同様の強靱性と耐久性が要求されるため、新規の概念と構造、素材で微細内視鏡を試作し、検証と評価を繰り返した。
3.カテーテル等の自動誘導機構の開発
微細鉗子やカテーテル、微細内視鏡といえども、末梢領域では微細な誘導が難しく、究極の解決は将来の自動誘導であると考えられる。これまでに磁気による自動誘導が可能であるかを検証するため、可能な限り条件を簡略化して実験系を構成した。被誘導物として強磁性体チップ(2.5×2.5×5.0mm、円筒形炭素鋼片、S40C)を使用し、誘導経路として可視光透過性の2次元気管支樹模型を製作した。誘導には4極磁気誘導装置を使用し、磁極を水平方向として二次元平面上で誘導実験を行った。誘導路面と強磁性体チップの摩擦対策として、誘導経路に振幅0.5mm、周波数80Hzで加振を行った。
この結果、強磁性体チップは気管から目的の末梢気管支まで、平均4.5±1.9mm/sで誘導され、必要な電流は単極あたり0~18A(磁極中心部で0~2.5×10-2T、被誘導物への駆動力0~2×10-4N程度)であった。しかし磁気誘導の可能性を検証するため実験系を簡易化していたため、今年度は徐々に自動化度を高めるためのプログラム開発を行った。
結果と考察
1.磁気アンカーの開発
懸案の解決のために、電磁石の外径の変更と複数化(~3個)、馬蹄形状電磁石装置の開発、側方ヨーク電磁石の開発、磁場連動制御装置の開発を行い、機器の試作と評価を繰り返した。この結果及び操作の容易さに配慮して、外径400mm、厚さ200mm、磁極径150mmの水冷電磁石を上下に配置し、患者及び内視鏡検査台をCアームX線透視装置型の挟み込む構造をした磁気アンカー駆動装置を開発した。
磁気アンカーの小型化に関しては棒状ネオジウム磁石の使用も検討した。しかし安定性に配慮して、既存の磁気ウェイトの形状を適正化して内視鏡視野を確保すると共に、微細鉗子も把持力と操作性を向上させて新たな磁気アンカーを開発した。
今年度に臨床試験用モデルとして開発された機器装置は、動物実験(ブタ)において各種懸案に対する対策の効果が確認され、術者の技術の優劣や切除部位にかかわらずEMRを補助し、切除時間の大幅な短縮と安全性が両立されていた。更にこれまでは磁気アンカー駆動装置の操作には専門の担当者を要していたが、内視鏡医が容易にコントロールすることが可能となった。
今回の機器装置を基本装置として倫理審査委員会の承認の後に、臨床試験を開始する予定である。
2.微細内視鏡の開発
これまでの内視鏡構造によって製作した微細内視鏡を使用して、ガイドワイアーのような操作を行えば挫屈や外皮の剥離、断裂は免れず、また腰もないために外筒を目的の方向に誘導することもできない。そこで概念を根本的に変えて、新規構造と素材を使用して試作、評価中である。現在のところ強靱性の点では改善が認められているが、まだ均一性、ファイバーの損傷、連結部のずれなどの問題があり、更に試作、評価を重ねて開発を進めていく。
3.カテーテル等の自動誘導機構の開発
システムを簡略化した結果として、昨年度は誘導経路をマニュアルで指定しなければならなかった。そこで被誘導物を置いた二次元気管支樹模型に可視光線を透過させて、ビデオカメラ(640×480ピクセル)で撮影して二値化することで、誘導可能な気管支樹の内腔を自動検出した。なお透過可視光はそのままX線透視に応用可能であると共に、被曝が発生しないために使用した。認識された気管支腔内で誘導基準点との距離を測定して、段階的な最短経路探索を行うアルゴリズムを開発した。経路上で誘導の節目となる点では、誘導節点を最適処理した。更に誘導速度の向上と安定化のために、実験結果に基づき誘導ソフトウェアの変更を行った。
以上の結果、二次元気管支樹の目的の部位への強磁性体チップの自動磁気誘導が、ルートの検出、探索、誘導節点の設定を含め、高速(37%向上)かつ安定して可能となった。
ところで血管内においてカテーテルなどを誘導する場合には、被誘導物は血液中で浮遊に近い形で存在しており、そのために重力の影響、特に静止摩擦力に対する対策は重要ではない。しかし気管支腔内などの空気中の誘導では大きな問題であり、誘導経路に対して加振を行ってきた。しかし生体への加振は難しいため、今後は臨床的に応用可能な摩擦力低減のための機構の開発を行っていく。
結論
磁気アンカーは臨床試験用モデルが開発された。臨床試験の開始によって磁気誘導医療による低侵襲治療が具現化されつつある。更に磁気誘導医療の概念の早期導入によって、微細内視鏡を介した新たな医療技術や更に発展的な医療技術の開発が期待される。

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