同性愛者等のHIV感染リスク要因に基づく予防介入プログラムの開発及び効果に関する研究

文献情報

文献番号
200300564A
報告書区分
総括
研究課題名
同性愛者等のHIV感染リスク要因に基づく予防介入プログラムの開発及び効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大石 敏寛(特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会)
研究分担者(所属機関)
  • 河口和也(広島修道大学)
  • 鳩貝啓美(特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全国各地で個別施策層である同性愛者に対する取り組みが進んでおらず、またどのような施策やプログラムが有効であるかについての指標や、それを評価する手立てが限られている。本研究は、①介入未実施の地域を含めた全国各地に予防啓発を実施し普及させていくために、NGOが行政と連携して行う有効な啓発手法を開発すること、②予防介入プログラムの実施効果を判断する指標とその方法論を提示すること、を目的とする。
研究方法
(1)啓発手法の開発では、①Kalichman(1998)らのモデルである個人・小グループ・コミュニティの各レベルで、手法の開発・実施を行いそれぞれプレ介入とする。②本年は主に小グループレベルに焦点化する。リスクアセスメント(大石,2002)を根拠とし、介入効果の確認された小グループレベルのプログラム(大石,2003)をもとにした介入プログラムを開発・実施し、あわせて普及へ向けた実施プロセスの記録と検討を行う。また、③開発されたプログラムを普及する上で欠かせないNGO-行政連携では、各地の自治体と連携関係の構築を実施・検討する。また、同性間対策の実施およびNGO-行政連携における課題と障壁を明らかにする質問票調査を実施し、今後の連携関係の構築に必要とされる観点を整理する。(2)効果指標とその手法では、①開発・実施された啓発手法毎に、個々の手法が持つ啓発の機能・目的・領域等との整合性に基づき、評価手法と評価指標を採用する。また、②実際に介入の効果評価を試みる。そして、③指標及び評価手法を適用する評価過程を通して、採用した各評価手法およびそこで用いた評価指標の妥当性について、考察・検討を行う。
結果と考察
以下、小グループ・コミュニティ・個人のレベル毎に報告する。(1)小グループレベルの、①啓発手法の開発では、介入空間として全国に存在する同性愛者等の集まるバーに着目した。43都道府県にあり、ワークショップ後にも啓発情報の発信基地になり得て、プライバシーが守られ安心して参加できるなど、多面的にバーでの介入の妥当性を検討した。その上でバーにおいて実施可能なワークショップ型プログラムを修正開発し、プレ介入として実施した。その結果、札幌・東京近郊・松山で前年度の約3倍にもあたる14店舗を含む計15回開催し、計360名の参加を得られた。プログラムを開発する上では、アメリカにおける普及理論とそれに基づく介入実践を参照した。普及理論という理論的仮説をもつ手法を開発したことも本年度の大きな成果である。この仮説では、バーが介入を実施するときのみに限定されず、各地域の啓発情報の発信基地として機能し得ることを重視している。そのために介入の前後も連続した啓発手法として位置づけ、バー経営者らとの協力関係構築をも扱い、普及へ向けた仮モデル化の作業に着手したこともまた大きな成果である。さらに、②効果評価の指標とその手法では、科学的な手続きを経た方法論であるプレ・ポスト・フォローテストを導入した影響評価は、十分な有効性が確認された。今後はプログラムが依拠する普及理論の内容に、より即した指標および効果手法の開発が期待される。なお形態評価では、扱われた情報量・質が適切で、リスク回避スキルが有益と認識されていることが示され、ほとんどの参加者がプログラムで得たエイズのことを友人に広めたいという意志を示し、バーを拠点に介入効果がその地域へ広がっていく、という普及理論の可能性が示唆された。(2)コミュニティレベルの、①啓発手法の開発では、マンガを活用した啓発資材を修正開発し、プレ介入を実
施した。(4種類の交渉スキルを含め、バーなど商業施設等約190ヶ所に3万部を配布)②効果指標と手法では、交渉スキルの認知・自己効力感・性行動を指標として、資材(チラシ)読了群と非読了群二群間の差の検定で影響評価を試みた。その結果、単独の介入では性行動の減少をもたらすほどではないものの、スキルの認知および自己効力感において一定の効果が見られた。コミュニティレベルのプログラムは単独では、リスク行動の規定要因に多少影響を与えうる程度だが、他の介入プログラムと連携しながらリスク行動の減少を促進する役割を担うことは可能ではないかと考える。今後は、各レベルの啓発手法が単独で完結するものかという検討が課題となる。(3)個人レベルの、①啓発手法の開発では、フリーダイヤル型電話相談(2003年4月~12月に249件の相談)と、インターネットを活用した介入(2003年4月~12月、1日平均アクセス数は500~600件)を継続実施し、手法の修正と新たな開発を念頭に検討を行った。②効果指標と手法では、電話相談の実施記録をもとに相談内容・疾病など機能の評価を行い、形態評価の一助とした。また、ホームページ上でアンケートを実施し、提供情報の重要性・利用しやすさ・利用者のニーズに応えているかなどを指標に影響評価を行った。その結果、ゲイ向けのサイト以外からのアクセスが増加したこと、男性間のオーラル・アナルセックスに起因する症状および病院の選び方に関する相談ニーズが高いこと、概ね9割の利用者が、使いやすいホームページで知識が増えた、と受けとめていることが明らかとなった。(4)NGO-行政連携では、行政関係者への質問票調査の結果、同性間対策を進める上での障壁として、性的指向に対する知識不足・関心の低さ・同性愛者のおかれた状況が不明・同性愛者にアプローチする方法論不足があることが確認された。またNGO-行政連携上の障壁・課題として、連携先の不在・活動内容の未認知・行政内部の連携に消極的な態度が存在することが明らかになった。以上から、担当部署および相談・検査担当者を対象として、同性愛者を取りまく社会・文化的状況、啓発手法を含めた研修の機会および方法論の開発が必要であると考える。また、地元にNGOがない前提で、他地域のNGOとの連携モデルを構築し提示しておくことが、同性間未介入の自治体との連携・支援をする上で有効な方法であろう。
結論
(1)啓発手法の開発では、①主に小グループレベルで、同性間対策に未着手の地方自治体などにおいても予防啓発を普及していけるよう、全国に存在している同性愛者の集まるバーで介入可能なワークショップ型のプログラムを修正開発し、プレ介入を実施することができた。あわせて、バーの経営者らとの協力関係構築の仮モデル化の作業にも着手した。今後は、さらに普及理論を応用発展させ、バー経営者や店員の協力を得て顧客に影響を与える介入プログラム(オピニオンリーダー型介入)の開発を視野に検討をする。②個人・コミュニティレベルでは、開発したプログラムの一部を修正・実施し、今後の新プログラムを開発するための文献および資料研究・データ集積を行った。③NGO-行政連携では、啓発手法の実施と行政との連携実践を行い、連携プロセスの記録化を開始した。また、自治体の同性間個別施策およびNGO連携に関する調査を実施した。今後は、この調査で明らかになった同性間対策を進める上での障壁を踏まえ、NGO-行政連携のプロセスや視点などの記録化およびその分析・検討により、複数のNGO-行政連携のモデルを提示していくことが課題となる。(2)効果指標と手法では、開発された4つの啓発手法に対応した効果評価手法を選定・開発し、その指標と評価手法を実際に適用する過程を通して、方法論の有効性および実践性を検証した。ワークショップ型プログラムの効果評価手法は、プレ・ポスト・フォローアップテストの計3回質問票調査を実施し、形態評価・影響評価を行う手法であり、十分な有効性が確認された。その上で、普及理論に基づいた効果評価指標の測定を強化するために、ワークショップの介入効果が、開催後に地域にいかに影響(伝播)
するか検討する必要がある。また、実施記録を素材に機能の評価を試行したフリーダイヤル型電話相談では、機能の概要を把握し形態評価の一助としての役割は果たせたが、介入の影響評価は困難であり、課題となった。インターネットを活用した介入では、利用者の目的達成度等などを指標に、プログラムに対する機能の評価を行った。マンガを活用した啓発資材では、3つの評価指標(スキル認知、自己効力感、性行動)を設定し一定の効果が確認された。資材の読了群と非読了群の二群間で比較を行い、資材の意義が認められたものの、コミュニティレベルの介入モデルとしては、現在の広範囲なコミュニティ全域での影響を捕捉できる調査方法論ではないため、今後はコミュニティ規模での配布形態・協力体制の検討など、啓発手法とより緊密な検討が課題となる。

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