インフルエンザ予防接種のEBMに基づく政策評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300546A
報告書区分
総括
研究課題名
インフルエンザ予防接種のEBMに基づく政策評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
廣田 良夫(大阪市立大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 森満(札幌医科大学)
  • 鷲尾昌一(札幌医科大学)
  • 大久保一郎(筑波大学)
  • 秦靖枝(牛久市民福祉の会)
  • 山口直人(東京女子医科大学)
  • 大日康史(国立感染症研究所)
  • 鈴木幹三(名古屋市港保健所)
  • 清水弘之(岐阜大学)
  • 渡邊能行(京都府立医科大学大学院)
  • 小笹晃太郎(京都府立医科大学大学院)
  • 下内昭(大阪市保健所)
  • 田中隆(大阪市立大学大学院)
  • 尾形裕也(九州大学大学院)
  • 井手三郎(聖マリア学院短期大学)
  • 田中恵太郎(佐賀大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
疫学専門家を中心に、医療経済学、老人医療などの専門家、行政担当者、および市民団体代表からなる研究班を組織する。そして、顧問グル-プの意見を聞きながら、ワクチンの有効性、適応性、社会認容性などを調査研究し、インフルエンザ予防接種についてEBMに基づいた客観的評価を行う。
研究方法
インフルエンザ予防接種制度全般に関しEBMに基づいた総合評価を行なうため、以下の班構成のもとに研究を進めた。
1)有効性評価分科会(第1分科会) 豊富な実績を有し、且つ感染症研究の経験がある疫学者で構成する。インフルエンザワクチンの有効性や接種後の抗体応答、およびミクロ経済の視点からワクチンの医療費低減効果を検討する。
2)情報調査評価分科会(第2分科会) 若手の疫学者で構成する。高齢者および乳幼児に関して過去に行われたインフルエンザワクチンの有効性や有用性、および経済効果に関する文献調査を行ない、セミナ-形式により共同で内容を評価し抄訳する。
3)適応評価分科会(第3分科会) 老人医療の専門医、医療経済学者、行政担当者、市民団体代表などで構成する。地域住民や施設の入所者・職員を対象に、ワクチンの適応性、社会認容性などを調査するとともに、マクロ経済の視点から高齢者に対する接種の費用対効果を検討する。
4)顧問グル-プ インフルエンザに関する専門知識を上記1)~3)の分科会に提供するため、呼吸器内科、小児科、老人医療、および呼吸器系ウイルス学の専門家からなる顧問グル-プを組織する。
結果と考察
1)有効性評価分科会(第1分科会) ①説得力に富む2つの施設調査結果が報告された。まず第1は「前向きcohort study」によって、発熱(37.8℃以上)に対する接種後HI価(A/H3N2に対して)1:40以上の者の相対危険が0.44(antibody efficacyは56%)であり、これよりvaccine effectivenessを31.4%と推定している。これは米国予防接種諮問委員会の勧告が示す、施設入所高齢者での発病防止効果30~40%と近似した値である。接種率が高い集団では(非接種群を設定できないので)antibody efficacyが重要な効果指標になるであろう。第2は、「後向きcohort study」によって有意差を認めるには到らなかったが、臨床診断インフルエンザに対するワクチン接種の相対危険が0.4であること、また接種群と非接種群の平均医療費(保険点数)が18.7と 34.1であることを報告している。個人レベルで実際の医療費に関するデータを積み上げて、ミクロ経済の立場からワクチン接種の医療費低減効果を調べた研究は、わが国で初めてである。両研究とも、診療録などの記録をもとにインフルエンザ様疾患の発生を観察しており、結果測定における誤分類を最小にすることの重要性を示している。 ②地域住民を対象とした2つの「後向きcohort study」では、有意なワクチンの発病防止効果を検出できなかった。シーズン終了後に、発病状況を自記式調査票によって調査する方法では、発病状況に関する誤分類が大きく生ずるためと考えられる。しかし、この方法はワクチンの有効性を継続的にモニタリングする場合などには極めて有効と考えられる。標本数を増加させることにより検出力を上げることが今後の課題である。 ③547施設を対象とした「ecologic study」で、「入所者のワクチン接種率が低い」、「職員の罹患あり」は「施設内流行あり」と有意な関連を示した。本研究デザインは仮説の検証には不向きであるが、他の観察研究で得られる結果を補強したり、入所者における接種率のレベルと施設内流行の予測に関する仮説を導くこと、などには有用である。
2)情報調査評価分科会(第2分科会) インフルエンザワクチン有効性に関する、成人対象の文献37編、乳幼児対象の文献48編を、研究デザイン、疾病定義などの視点から評価し、抄訳集としてまとめた。これらの活動を遂行するため、分科会員を20人に増加した(前年度18人)。また、今年度は乳幼児関連の文献抄訳も行ったことからワークショップを2回開催した(前年度1回)。本分科会活動を通じて、インフルエンザ研究に関心を持つ疫学者の裾野が着実に拡がっている。
3)適応評価分科会(第3分科会) ①北海道の施設調査では、(1)入所者の接種率70%以上の施設が80%、 (2)職員の接種率70%以上の施設が62%、但し、9%以下の施設が11.7%、(3)職員の接種費用を全額補助する施設は49%、全額自己負担の施設は31%、であった。職員に対するワクチン接種率を更に向上させることの必要性が提起された。 ②名古屋市の通所サービス利用者調査で、非接種理由は、有効性に疑問19%、かからない24%、副反応が心配11%、であった。牛久市における65歳以上無作為抽出標本でのインタビュー調査によると、自己負担額2,000円と回答した者が約半数、であった。ワクチン接種の必要性、有効性、副反応などについて理解しすい情報を、高齢者本人はもとより家族や介助者に対しても提供したり、接種を受けやすい自己負担額(2,000円程度)を設定すること、などが必要である。 ③システム分析および数字モデルによる推計で、現行政策は費用効果的である、基礎疾患を有するハイリスク高齢者に重点的な補助をする制度は現行制度より費用効果的である、という結果を得た。今後は、個々人の医療費調査を加味するなど、より科学的な医療経済学的推論が必要である。
結論
①発熱(37.8℃以上)に対する、接種後HI価1:40以上の者の相対危険(RR)は0.44 (95%信頼区間:0.20-0.99)であり、これよりvaccine effectivenessは31.4%と推定された(前向きcohort study)。 ②臨床診断インフルエンザに対するワクチン接種のRRは0.4(0.41-1.82)であり、発病防止効果は境界域の有意差を示した。接種群と非接種群の平均医療費(保険点数:平均±SE)は18.7±8.0と 34.1±22.9 であり、ワクチン接種の医療費低減効果は境界域の有意差を示した(後向きcohort study、診療録データによる)。③発熱(38.0℃以上)に対するワクチン接種のRRは、男性 で1.04(0.63-1.74)、女性で0.70(0.37-1.33)であった。別の報告では、発熱(37.0℃以上、38.0℃以上)に対するワクチン接種のRRは、0.94(0.55-1.60)と0.86(0.41-1.82)であった(後向きcohort study、自記式調査票デ-タによる)。前記②の場合と異なり、自記式調査票を用いた後向き調査では、結果の誤分類のため検出力が低下する。 ④「入所者のワクチン接種率が低い」と「職員の罹患あり」は、「施設内流行あり」と有意な関連を示した(ecologic study)。⑤インフルエンザワクチン有効性に関する、成人対象の文献37編、乳幼児対象の文献48編を、研究デザイン、疾病定義などの視点から評価し、抄訳集としてまとめた。 ⑥北海道の施設調査では、(1)入所者の接種率70%以上の施設が80%、90%以上の施設が59%、(2)職員の接種率70%以上の施設が62%、90%以上の施設が45%、一方9%以下の施設が12%、(3) 職員の接種費用を全額補助する施設は49%、全額自己負担の施設は31%、であった。 ⑦名古屋市の通所サービス利用者調査では、非接種理由は、有効性に疑問19%、罹らない24%、副反応11%、であった。牛久市における65歳以上住民無作為抽出標本に対するインタビュー調査では、自己負担額2,000円と回答した者が半数であった。

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