文献情報
文献番号
200300389A
報告書区分
総括
研究課題名
低出力体外衝撃波を用いた閉塞性動脈硬化症に対する非侵襲性血管新生療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
下川 宏明(九州大学大学院医学研究院循環器内科学)
研究分担者(所属機関)
- 前原喜彦(九州大学大学院医学研究院総合外科学)
- 松田武久(九州大学大学院医学研究院医用工学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我が国では、人口の高齢化や生活の欧米化などにより、虚血性心臓病・脳卒中・閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患が増加している。これらの動脈硬化性疾患は、国民の生命予後を悪化させ、日常生活のQOLを著しく低下させ、活力のある社会の実現に大きな障害となっている。これらの動脈硬化性疾患に対しては、これまで、薬物療法・カテーテル療法・バイパス手術などが行われてきたが、最近では、これらの治療法だけでは十分な治療効果が得られない重症の狭心症や下肢の閉塞性動脈硬化症の症例が増えてきている。これに対して、自家細胞移植や遺伝子導入を用いた血管再生療法が開発され、その一部は試験的に臨床応用され始めているが、これらの先端的血管新生療法は、その安全性が十分には確認されておらず、また侵襲的であり何回も繰り返し実施することは実際上不可能である。我々は、後述するように、低出力の衝撃波が血管内皮細胞から各種の血管新生因子の産生を促進するという研究結果に着目し、体外から心臓に衝撃波を照射することにより、動物(ブタ)モデルにおいて高度の心筋虚血を完全に回復させるほどの著明な血管新生を誘導することに成功した(論文投稿中)。副作用も全く認められなかった。この実験結果を基に、平成14年12月の九州大学医学部倫理委員会での承認を受けて、重症狭心症患者に対する非侵襲性の体外式心臓血管新生療法を開始し、虚血心筋の血流が改善し自覚症状が著明に改善するなどの良好な結果を得ている。これを受けて、国立循環器病センターの参加を得て、より大規模な臨床治験を開始すべく現在準備中である。この画期的な体外式血管新生療法は、麻酔や手術操作が一切不要なこと、必要ならば繰り返し実施可能であること、副作用がないこと、医療費が大幅に削減できること、など多くの特徴がある。本研究では、閉塞性動脈硬化症による重症下肢虚血に対する非侵襲性の体外式血管新生療法の開発を目指す。
研究方法
本研究は閉塞性動脈硬化症による重症下肢虚血に対する非侵襲性の体外式血管新生療法の臨床応用を目指し、以下の基礎研究、臨床研究を行う。
(1) ヒト培養血管内皮細胞における検討
血管内皮に対する衝撃波の血管新生作用を確認するために、1×105個の細胞に様々なエネルギーレベルの衝撃波を照射し、VEGF, bFGF angiopoietinなどの血管新生因子およびそれらの受容体の遺伝子発現を検討する。
(2) ウサギ下肢虚血モデルにおける検討
本研究では、下肢が衝撃波を照射できるのに十分な大きさがある家兎を用いる。
i.重度下肢虚血モデルにおける効果
ウサギの左大腿動脈近位部から遠位部まで、結紮後切除し、片側重度下肢虚血モデル(Takeshita S, et al. J. Clin. Invest. 1993)を作成する。本モデルは、虚血領域から重度の慢性動脈閉塞症患者に相当する。その後、同虚血部に衝撃波治療(200発/1ヶ所 20?30ケ所)を計3?6回施行し、4週間後に下肢動脈の血管造影検査、血圧測定、血流の測定を行う。
ii.軽度下肢虚血モデルにおける効果
ウサギの両側の両後肢において膝窩動脈、伏在動脈を結紮し、中筋枝のみを温存することでpoor runoffモデルを作成した。poor runoffモデル(Itoh H, et al. Atherosclerosis 1994)は、急性虚血モデルと異なり慢性動脈閉塞症の血行動態に極めて類似している。作成後1年においても低血流量、低シェアストレスの血行動態を維持しており、非常に安定したモデルとして確立しており、比較的軽度の閉塞性動脈硬化症患者に相当する。結紮後2週間目から、片側に衝撃波治療(200発/1ヶ所、20?30ケ所)を施行し、レーザードップラー法およびトランジット血流計をもちいて治療側と未治療側の血流を評価し、治療効果を検討する。
(1) ヒト培養血管内皮細胞における検討
血管内皮に対する衝撃波の血管新生作用を確認するために、1×105個の細胞に様々なエネルギーレベルの衝撃波を照射し、VEGF, bFGF angiopoietinなどの血管新生因子およびそれらの受容体の遺伝子発現を検討する。
(2) ウサギ下肢虚血モデルにおける検討
本研究では、下肢が衝撃波を照射できるのに十分な大きさがある家兎を用いる。
i.重度下肢虚血モデルにおける効果
ウサギの左大腿動脈近位部から遠位部まで、結紮後切除し、片側重度下肢虚血モデル(Takeshita S, et al. J. Clin. Invest. 1993)を作成する。本モデルは、虚血領域から重度の慢性動脈閉塞症患者に相当する。その後、同虚血部に衝撃波治療(200発/1ヶ所 20?30ケ所)を計3?6回施行し、4週間後に下肢動脈の血管造影検査、血圧測定、血流の測定を行う。
ii.軽度下肢虚血モデルにおける効果
ウサギの両側の両後肢において膝窩動脈、伏在動脈を結紮し、中筋枝のみを温存することでpoor runoffモデルを作成した。poor runoffモデル(Itoh H, et al. Atherosclerosis 1994)は、急性虚血モデルと異なり慢性動脈閉塞症の血行動態に極めて類似している。作成後1年においても低血流量、低シェアストレスの血行動態を維持しており、非常に安定したモデルとして確立しており、比較的軽度の閉塞性動脈硬化症患者に相当する。結紮後2週間目から、片側に衝撃波治療(200発/1ヶ所、20?30ケ所)を施行し、レーザードップラー法およびトランジット血流計をもちいて治療側と未治療側の血流を評価し、治療効果を検討する。
結果と考察
(1) ヒト培養血管内皮細胞における検討
VEGF, Flt-1は血管新生において重要な働きをもつことが知られており、すでにこの血管新生因子を用いた臨床応用が始まっている。今回の検討では、ヒト培養血管内皮細胞に対して、低出力の衝撃波エネルギーレベル(0.05 mJ/mm2)VEGFとその受容体であるFlt-1のmRNAレベルの発現亢進が認められた。
(2) ウサギ下肢虚血モデルにおける検討
i.重度下肢虚血モデルにおける効果
衝撃波治療により、患側の下肢血圧/正常下肢血圧の比および血管造影上確認できる血管数の増加を認める傾向にある。
ii.軽度下肢虚血モデルにおける効果
レーザードップラー法、トランジット血流計において、衝撃波治療側の下肢が、未治療側と比べ血流の改善傾向を示している。
これらの結果は、衝撃波治療が新生側副血管の再生を亢進させて、下肢の血流を改善させることを示唆している。今後も実験標本数を増やし、効果を統計学的に示すとともに、虚血筋肉中の毛細血管数、様々な血管新生因子について検討する予定である。
VEGF, Flt-1は血管新生において重要な働きをもつことが知られており、すでにこの血管新生因子を用いた臨床応用が始まっている。今回の検討では、ヒト培養血管内皮細胞に対して、低出力の衝撃波エネルギーレベル(0.05 mJ/mm2)VEGFとその受容体であるFlt-1のmRNAレベルの発現亢進が認められた。
(2) ウサギ下肢虚血モデルにおける検討
i.重度下肢虚血モデルにおける効果
衝撃波治療により、患側の下肢血圧/正常下肢血圧の比および血管造影上確認できる血管数の増加を認める傾向にある。
ii.軽度下肢虚血モデルにおける効果
レーザードップラー法、トランジット血流計において、衝撃波治療側の下肢が、未治療側と比べ血流の改善傾向を示している。
これらの結果は、衝撃波治療が新生側副血管の再生を亢進させて、下肢の血流を改善させることを示唆している。今後も実験標本数を増やし、効果を統計学的に示すとともに、虚血筋肉中の毛細血管数、様々な血管新生因子について検討する予定である。
結論
ヒト培養血管内皮細胞において、衝撃波治療が血管新生因子であるVEGFとその受容体である Flt-1の発現を亢進させ、血管新生を惹起する可能性が示唆された。ウサギ下肢虚血モデルを用いた動物実験では、現在までに衝撃波治療により側副血行路の増加傾向および血流の改善傾向が示されており、血管新生作用により閉塞性動脈硬化症などの虚血性疾患に対する有効な治療法となる可能性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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