高齢者における健康で働きがいのある就労継続の社会的基盤に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300248A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者における健康で働きがいのある就労継続の社会的基盤に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 博(桜美林大学)
研究分担者(所属機関)
  • 黒澤昌子(政策研究大学院大学)
  • 杉澤秀博(桜美林大学大学院)
  • 横山博子(つくば国際大学)
  • 杉原陽子(東京都老人総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,084,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①1998年に設定した全国55~64歳の男女に対する縦断調査に基づき、職業性ストレスの視点からみた高齢者の就労の質の評価とその規定要因や良好な就労継続・転職・再就職の社会的・心理的要因を解明すること、②中年・若年の高齢就労者に対する態度が、高齢者の就労環境に大きな影響をもつと予想されるため、中年および若年層を対象にした調査によって高齢就労者に対する意識、態度とその関連要因を解明すること、③シルバー人材センターが高齢者の健康で働きがいのある就労持続の面からみてどのような効果があるかを評価する。平成15年度の課題は、③の課題に関連して、シルバー人材センターの施策評価を実施すること、①に関連してパネル調査の解析とパネル調査の継続的に実施することであった。
研究方法
1)シルバー人材センター調査:調査対象となるセンターの抽出は、各都道府県のシルバー人材センター連合会に依頼し、国庫補助対象センターの30%を抽出してもらった。対象センターは、基本的に無作為に抽出されたが、無作為抽出が困難な場合には、センターの規模や地域のばらつきを考慮しての抽出や、連合会からセンターへの協力依頼に同意したセンターのみの抽出が行われた。その結果、46都道府県の279センターが抽出された。調査は、2003年11月に、郵送調査法(郵送配布・郵送回収・自記式法)にて実施し、センター職員に回答してもらった。249センターから回答があり、回収率は89.2%であった。2)シルバー人材個人調査:対象者の抽出個人調査の対象者は、センター調査の対象となった279センターに、現会員と退会員の各5%を抽出してもらい、11,073人が抽出された。調査は2003年11~12月に、郵送調査法(郵送配布・郵送回収・自記式法)にて実施した。郵送配布の方法は、①センターから調査事務局へ対象者名簿を送付してもらい、事務局が直接対象者に調査票を郵送、②センターから調査事務局へ対象者人数のみを報告してもらい、事務局が人数分の調査票一式をセンターに郵送し、各センターが対象者へ郵送、の2種類を用いた。5,602人から回答を得たが、うち49票は無回答項目多数のため無効票と判断し、有効回答数は、5,553(有効回答率50.1%)であった。調査不能者のうち、110人は、「住所不明」などで調査票が返送されたものであった。3)パネルの追跡調査1999年に初回調査を実施し、2001年に第1回追跡調査を実施したパネル(1999年に55~64歳)に含まれる対象(3,834人)に対して面接調査を実施した。
結果と考察
1)シルバー人材センターの各種施策の実施が、会員のセンターに対する評価やセンターの業務実績にどのような影響をもたらしているか否かを検証した。「安全就業対策」「健康づくり対策」といった就労の基盤づくりや、「未就労者対策」を推進しているセンターでは、そこに属する会員のセンターに対する評価が高く、生活満足度も高い傾向が見られた。さらに、「健康づくり対策」の推進は、高齢者に占める会員数の割合も向上させるなどセンターの事業実績にも貢献していた。他方、「就業拡大策」「ホワイトカラーの就業推進」「レクリエーション・ボランティア対策」あるいは「他団体と連携推進」などの施策は、会員やセンターに対してプラスの効果をもたらすものではなかった。以上のように、会員のセンターに対する評価や生活満足度を向上させたり、センターの会員数を増加させるには、施策の重点化を図り、中でも「安全就業対策」「未就業者対策」「健康づくり対策」を積極的に推進していくことが重要であることが示唆された。2)シルバー
人材センターの退会者の特徴を解明し、「仕事仲間」および「発注者側の態度・対応」に対する満足度が低い者、「事務職」の仕事を希望する者、センター以外での就業日数が多い者ほど、退会する確率が高いことが示された。多くのシルバー人材センターが設立後、それなりの年月を経たが故に、在籍年数の長い会員が仕事をなかなか手放そうとしないという問題が示唆される。この問題が、会員間の軋轢、ないし新入会員の「仕事がまわってこない」という不満につながっていると考えられる。3)近年増加傾向が見られるホワイトカラー出身会員の就業に焦点を当て、彼(女)らの就業状況及び特性を把握した上で、センターの具体的な施策とホワイトカラー出身会員の就業状況の関連性を検証した。ホワイトカラー出身会員は、他の会員と比較してセンターでの就業において就業率、仕事満足度のいずれも低く、入会理由や講習参加内容など、センターでの就業自体以外でも特性が異なることがわかった。これまでホワイトカラー出身会員へは、事務系職種の開拓に力が注がれてきたが、限定された職種の就業機会の開拓努力に加え、新しいスキルの開発などより総括的な対応が必要といえよう。4)1999年に55歳から64歳の男性サンプルを2年後の2001年に再調査して得られたパネル・データを用いて、同一人物をとりまく環境の変化が各人の就業意欲にどのような影響を与えるのかを分析した。分析結果より、わが国における高齢者の就業意欲は今後も高水準を維持するとは限らず、高齢者の就業継続意欲は健康状況や資産状況だけでなく、企業の雇用管理制度によっても変化しうるものであることが示された。今後、企業での雇用調整がますます進展し、その時々の業績や成果に応じて給与が支払われる成果主義へと処遇の在り方が変われば、高齢者の就業意欲は低下する可能性は十分ある。その一方で、これまでの「就業経験」よりも「学校」で学んだ知識を活かせるかどうかが就業継続意欲を高めるという観察事実は、高齢期においても基本的・汎用的な技能を身に付け、それを活かすことが就業意欲の促進につながる可能性を示唆しているといえる。
5)パネルの継続調査を実施した結果、実施完了数は3,011(回収率78.5%)であり、最終欠票数 823(未回収率は21.5%)であった。現在、データの点検・解析中であり、その結果を報告書に含めることはできなかった。
結論
1)シルバー人材センターの活動評価を評価した結果、シルバー人材センターの施策によって、会員のセンターに対する評価や生活満足度、さらにはセンターの事業実績までもがかなりの影響を受けていることが明らかにされた。会員およびセンターの活性化を図るには、施策の中でも特に「安全就業対策」「未就業者対策」「健康づくり対策」の推進に重点的に取り組むことが重要である。2)シルバー人材センターの退会者の分析、およびホワイトカラー出身者の就業状況の分析から、仕事の配分が適正に行われていない問題やホワイトカラー出身者に適した仕事の提供が十分に行われているとはいいがたい現状が浮かびあがってきた。3)パネルの分析の結果、企業での雇用調整がますます進展し、その時々の業績や成果に応じて給与が支払われる成果主義へと処遇の在り方が変われば、高齢者の就業意欲は低下する可能性は十分あることが示唆された。

公開日・更新日

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