介護者負担感、充実感に関する簡便な尺度の開発と介護サービス利用に関する調査研究(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200300245A
報告書区分
総括
研究課題名
介護者負担感、充実感に関する簡便な尺度の開発と介護サービス利用に関する調査研究(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
池上 直己(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,084,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険の施行は、高齢者の生活の質(QOL)を向上させると同時に、家族介護者の負担を軽減させることも目的である。従って、介護者を適切に支援するためには、負担感が要介護者の特性や介護サービス、ケアマネジャーの対応によってどのように影響されているかを把握する必要がある。こうした観点から簡便な介護者の負担感・充実感尺度の開発とケアマネジャーによる対応効果の検証が、ケアの現場においても、政策レベルにおいても求められている。そこで、昨年度の北九州市での介入研究による家族介護者への介護負担感軽減効果の結果を踏まえて、平成15年度は、ケアマネジャーへの介入方法を改善し、「家族介護者のための介護負担感改善マニュアル」を作成し、家族介護者の束縛感・孤立感・充実感の改善効果とそのためのケアマネジャーの対応内容、対応時間について分析することを目的とした。特に、家族介護者への支援は、負担感の重い介護者のみに対応することが有効であるか、また、ケアマネジャーの家族介護者への対応の組み合わせはどのようなものがあるのか、さらにはその対応の組み合わせの実施状況と束縛感、孤立感、充実感への改善効果について分析した。15年度介入方法の変更点は下記のとおりとした。第1に、介入効果の測定期間について、14年度は3ヵ月から4ヶ月であったが、15年度は1ヶ月とし、介入後すぐに2回目の測定を実施した。これは期間が長期間となると実際に対応した時期が異なる場合には同じ条件で測定できないため変更したものである。
第2に、ケアマネジャーの研修方法を、14年度は一日講習会の実施としたが、15年度は、「家族介護者のための対応マニュアル」を配布した。多忙なケアマネジャーが一同に講習会参加することは困難で、また学習効果は多様である。従って、手軽に参照し、対応に活かせることを狙いとし変更した。マニュアルの内容は、①尺度の使い方、②スクリーニング方法、③家族介護者への介入内容一覧、④介入のコツ、⑤典型的な成功事例集等である。なお、これは14年度北九州市調査で得られた自由回答文や事例から作成された。第3に14年度は調査対象者すべてに一律に対応したが、15年度は、マニュアルにスクリーニング基準を設定した上で、介護負担感の重い介護者のみにケアマネジャーが対応を実施した。
研究方法
調査対象は、山形県内の酒田市と小国町、新潟県内の両津市、新津市、柏崎市、十日町市、塩沢町と、北海道札幌市内にある21の居宅介護支援事業者を利用する要介護者と同居家族介護者358名である。調査に先立ち4箇所においてケアマネジャー対象の調査説明会を実施した。説明会終了後、平成15年9月から10月に家族介護者対象を各ケアマネジャーが訪問順にスクリーニングし、基準に該当する家族介護者のみに約1ヶ月間、新しい対応を実施し、対応の終了後に順次、介入後の調査を実施した。介入期間は平均36.10 日(SD8.04)であった。家族介護者への調査項目は、年齢、性別、副介護者の有無、就業状況と介護束縛感・孤立感・充実感尺度(12項目)である。ケアマネジャーからの情報収集は、要介護度、痴呆度、寝たきり度(JABC)などの要介護者に関する基本的情報や、介入前後の調査月の給付管理票・別表、並びに、ケアマネジャーに、介入前月と介入月の対応回数や対応時間、対応内容や要介護者の認知機能尺度(CPS)ADL尺度(ADL Long Scale4))に記入を依頼した。
家族介護者358名にスクリーニング調査が実施され、最終的に、202名(56.42%)の家族介護者が基準に該当したが、要介護者が介入期間中、死亡や入院などで介入が中止をなった24ケースを除外して、173名(43.32%)に介入が実施された。スクリーニング基準値は、14年度のデータを用いて上位25パーセントタイル値を設定した。また束縛感、孤立感、充実感尺度得点の各々の分布とスクリーニング状況については、束縛感で31.00%(111人)、孤立感で33.24%(119人)、充実感で24.30%(87人)であった。
結果と考察
第1に、ケアマネジャーによる負担感予測とスクリーニング調査の結果は一致しておらず、また半数が介護者にあまり対応していないと自己評価したことから、従来の関わりの中では家族介護者の状況を見落とす可能性があることが示唆された。第2に、介入効果については、介入前後で3つの得点を比較してみると、束縛感得点は9.51から8.69点に有意に軽減した。また孤立感得点も6.86から6.13点に有意に軽減した。さらに、充実感得点は、9.21点から9.99点に有意に増大した。従って、ケアマネジャーの対応により、束縛感、孤立感、充実感ともに改善効果があった。このことは、全ての介護者に対応するのではなく、介護者をスクリーニングし、対応すべき対象者を選び出すことにより、効率的、効果的に介入が実施できることを示すものである。第3に、ケアマネジャーによる家族介護者への対応は、実質的に複数の対応内容を組み合わせて実施されており、その組み合わせ種類の傾向を明らかにする必要があった。そこで因子分析を用いて、6つの対応因子を抽出した結果、「地域資源の利用促進対応」「仲間づくり対応」以外の4因子「介護サービスの量・質の向上対応因子」「サービス提供内での精神的受容対応因子」「まとまった休息確保対応因子」「定期的休息確保対応因子」では、介護者のニーズに合わせた従来の介護サービスの提供と、その実現のための連携や介護者との話し合いや情報提供などであった。特に「介護サービスの量・質の向上対応因子」「サービス提供内での精神的受容対応因子」の2因子においては、ケアマネジャーの対応時間の「大幅増大群」、因子得点による「高得点群」で、他群より、多く対応が組み合わされ実践されており、ケアマネジャーの中心的な対応因子と考えられる。従ってケアマネジャーによる家族介護者への対応は、従来の介護サービスの提供状況をより充実させることを中心に実践されていることがわかった。第4に、その6対応因子の実施状況別の家族介護者の束縛感、孤立感、充実感の改善効果は、すべての対応因子において、高得点群では、束縛感、孤立感、充実感ともに多面的に介護者の社会心理的状況を改善する効果をもたらしていた。今後は、ケアマネジャーによる6つの対応因子に関して、複数の対応の組み合わせの実施状況に関する分析や、対応の組み合わせと要介護者要因、家族介護者要因との関連等の多変量解析が必要と考える。
結論
以上の結果から、束縛感・孤立感・充実感尺度を用いて、家族介護者のスクリーニングを実施し、ケアマネジャーが対応すべき介護者を選定し、特に負担感の重い介護者のみに対応することは有効と考えられた。また、ケアマネジャーの具体的な家族介護者への対応には、6つの方向性があり、従来の介護サービスの提供をさらに家族介護者のニーズに合わせて効果的に提供することで対応していることがわかった。その上、その6つの対応因子によって、束縛感、孤立感、充実感得点を多面的に、効果的に改善できることがわかった。

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