要介護状態に応じた介護サービスに関する実証研究―立案された介護サービス計画の質の評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300215A
報告書区分
総括
研究課題名
要介護状態に応じた介護サービスに関する実証研究―立案された介護サービス計画の質の評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
遠藤 英俊(国立療養所中部病院)
研究分担者(所属機関)
  • 益田雄一郎(名古屋大学大学院医学系研究科老年科学)
  • 野口晴子(東洋英和女学院大学国際社会学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
10,985,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険が実施されてもなお、ケアマネジメントの適切なあり方に関する科学的な方法論が確立しているとはいえない現状においては、ケアマネジメントが適切に行われているのか、もし適切でない部分があるとすればそれはどの部分であるのか、適切でない部分が生じている理由は何であるのか、そしてその改善策はどうあるべきなのか、改善策の実効性は如何ほどであったか、等々を実証的に検証されなければ信頼性の高い、再現性のあるケアマネジメントの手法を確立することはできない。そこで介護保険において要介護認定をうけた高齢者の介護サービス計画を実際に用いられている膨大なデータをもとに、在宅介護サービスの提供を適切に行い、それにより利用者の問題が解決され身体・精神・社会的な機能を含んだ生活能力の維持・向上があったかどうかをモニタリングする。その上で介護保険制度のもとで行われているケアマネジメントの具体例としてのケアプランについて、その現状と問題点を実証的に明らかにすることが目的である。同時に介護サービスの提供に伴う経済的負担が介護サービスの需要に与える影響等を検証していく。初年度はその目的を達成するために必要不可欠なデータベースの構築を行った。二年目の今年度はさらにデータベースの構築を継続するとともに、その一部を利用して、在宅介護サービスの提供を受けた高齢者個人のケアプランの内容を明らかにし、そのサービス提供方法の特徴やサービスの選択の特徴を明らかにする。
研究方法
対象は我々の開発したパソコンを用いたケアマネジメントシステムを使用している居宅介護支援事業者のうち、データの収集に協力した施設を対象とした。そして2000年4月から2003年3月までの利用者の、1)要介護度、2)基本情報を含めたアセスメント情報、3)在宅介護サービス利用状況(サービスの種類、利用頻度、サービスの組み合わせ等)、4)保険給付額、自己負担額、5)事業所のスタッフの構成、6)事業所の提携サービス機関、等の情報を収集した。データの収集にあたっては、まずデータの収集の際に使用するソフトウエアとして個人データを全て匿名化するソフトを開発し、収集するデータの完全な匿名化を可能にした。今回はそのうち愛知県内の24ヶ所の事業所を対象に2000年4月、2001年4月、2002年4月のケアプラン作成者の1)年齢、2)性別、3)要介護度、4)利用サービスの種類・内容、そして2002年4月の5)平均利用回数、およびその6)平均利用額を集計した。さらにはサービス利用量と要介護度あるいは年齢との関係、さらには経時的な要介護度の変化がサービス利用量の変化にどのような影響を与えるかを検証した。
結果と考察
研究対象者はデータとして使用できるケアプラン非作成者数は2000年が293名、2001年が682名、2002年が689名であった。それぞれの平均年齢は要介護度別に要支援が81.4歳、要介護Ⅰが82.0歳、要介護度Ⅱが82.2歳。要介護度Ⅲが82.8歳、要介護度Ⅳが83.4歳、そして要介護度Ⅴが80.3歳であった。利用サービスの種類であるが、どの要介護度においても1種類の利用が圧倒的に多い。特に要支援ではその傾向が顕著であり、2002年4月における要支援の1種類のサービス利用者は全体の96.0%であった。ちなみに要介護度Ⅴの場合、2000年、2001年、2002年4月における1種類のサービス利用者の割合は22.8%、73.5%、71,8%であった。さらに2002年4月に各要介護度において1種類の在宅介護サービスを利用した利用者538名を対象に、利用したサービスの種類と割合、そして利用したサービス
の平均利用回数(月平均)、および平均利用額(月平均)を集計した。通所介護および要介護度Ⅴを除き訪問介護が、要介護度の悪化とともにサ-ビス利用量が増加している。さらには要介護度の悪化、年齢の高齢化は介護サービスの利用量を増加させ、要介護の悪化も利用量を増加させる因子となった。調査対象者の要介護度の分布は、要介護度Ⅴ が最も多く、続いて要介護Ⅰとなっている。厚生労働省の調べでは、2002年4月末の要介護度別の認定比率は、要支援13.1%、要介護Ⅰが29.4%、要介護Ⅱ18.9%、以下13.0%、13.0%、そして要介護Ⅴが12.9%となっている。今回の我々の対象者は要介護Ⅰが少なく要介護Ⅴが非常に高い比率になっているが、これは今回の対象事業所が比較的要介護度の高い、介護サービスを必要としている高齢者をクライアントとしていることを示す。平均年齢は医療経済研究機構等、他の研究機関の結果と大きく変わらないが、女性の比率はやや高い。提供されたサービスの種類であるが、1種類の提供が最も多く、2002年の要支援にいたっては96%が1種類の提供となっている。この結果は他の研究機関の結果に比し、大きく異なっている。また要介護度Ⅱを除いて、各要介護度において2000年から2002年にしたがって複数のサービスの利用が減少する傾向にあった。この結果が、事業所側が要介護者に必要なサービスを選定した結果なのか、あるいは要介護者側が利用サービスをより限定した結果であるのか、明らかではない。さらに1種類のサービスを利用した者を対象に如何なる種類のサービスをどの程度利用したのかを検証したが、通所介護サービスにおいて要介護度の重症化にともなう利用量の増加の関係がみられたものの、他のサービスにおいては一様な傾向は特に見出せなかった。介護給付費実態調査月報で報告されているような訪問看護、および短期入所サービスの重症化にともなうサービス利用量の増加は我々のデータでは見られなかった。この理由としては要介護度の重症化のみが介護サービスの利用量の増加につながるのではなく、1)地域の特性(サービス機関等の社会資源の充足といった問題も含む)、2)利用者の意識の問題、3)居宅介護事業所の特性、4)ケアマネの属性に伴うケアプランの差異などがサービス利用量の増減に影響を与えている可能性を考えなければならない。さらには年齢の高齢化、要介護度の経年的な悪化は、サービスの利用量を増加させる主要な因子であることが今回実証され、介護予防の重要性が示唆される結果となった。サービス利用のあり方に存在している法則性を見出すことは、そのあり方に影響を与えている因子の多様性を考慮しなければならず、容易でないことが示唆される。我々のデータは各事業所において個人に特定のIDを与えてあるので、今後は個人単位での要介護度の変化、利用サービスの変化等を検証し、利用したサービスが要介護度の変化に与えた影響を評価していきたい。
結論
分析は愛知県内の24ヶ所の事業所を対象に行い、2000年4月、2001年4月、2002年4月のケアプラン作成者の1)年齢、2)性別、3)要介護度、4)利用サービス、5)サービスの平均利用回数、6)サービスの平均利用額を集計した。その結果、要介護者の平均年齢は80歳から85歳、要介護度によらず1種類のサービスの利用が最も多く、その傾向は2000年から2002年に至るまでより顕著になった。また通所介護サービスにおいて要介護度の重症化にともなう利用量の増加の関係がみられたものの、他のサービスにおいては一様な傾向は特に見出せなかった。

公開日・更新日

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