情報ネットワークを活用した行政・歯科医療機関・病院等の連携による要介護者口腔保健医療ケアシステムの開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300205A
報告書区分
総括
研究課題名
情報ネットワークを活用した行政・歯科医療機関・病院等の連携による要介護者口腔保健医療ケアシステムの開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
河野 正司(新潟大学大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石上和男(新潟県新発田健康福祉環境事務所)
  • 片山修((社)新潟県歯科医師会)
  • 河内博((社)新潟県歯科医師会)
  • 野村修一(新潟大学大学院医歯学総合研究科)
  • 鈴木一郎(新潟大学医歯学総合病院)
  • 江面晃(日本歯科大学新潟歯学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
10,435,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
要介護者のみならず、高齢者の最大の生きがいは「食べること」であり、要介護者の摂食嚥下機能を維持・回復することは要介護者のQOLや健康状態を高く保つために必須である。このため、本研究では摂食嚥下に障害を持つ要介護者に対し、その予防・治療・リハビリテーションが効果的に提供されるよう、1)行政、介護保険サービス担当者、かかりつけ医、地域歯科診療所、大学等幅広い関係者による効果的な連携体制を確立するとともに、2)これを効率的に支援するためのITを活用した情報ネットワークを構築し、また、3)連携による実際の総合的口腔ケアの提供・評価を通じて、幅広い関係者が共有できる摂食障害要介護者用標準工程表(クリニカルパス)を作成することを目的とした。
研究方法
本年度は、昨年度に引き続き、新潟県内に設定したモデル地区内において1)連携体制の構築として、関係者連絡協議会を設置運営し、関係者のより緊密な連携体制確立に向けた協議・検討を行ったほか、口腔ケア研修会の開催、歯科医師、要介護者等への個別意向調査を実施した。また、2)情報ネットワークの構築として、関係者間で共有すべき情報等を明らかとするため、関係者17名を対象としたグループインタビューを実施した。また、要介護者の口腔ケア等を実施するうえで、実際に関係者間で交換される情報の内容等を把握・評価するため要介護者9名についてFAXによる情報の交換を行い、これを集積する情報ネットワークモデル事業を実施したほか、関係者が最新の必要な情報に常にアクセスできるよう口腔ケアに関するマニュアル等の情報を提供するホームページを作成した。さらに、3)標準工程表の作成として、工程表策定の基礎資料とするため、歯科衛生士による専門的口腔ケアの介入頻度を変えた群設定による専門的口腔ケアの効果測定および義歯治療による栄養摂取量の変化を含む効果測定に関する介入研究をそれぞれ38名、28名の要介護者を対象として実施した。また、介護施設等においても容易に実施可能な口腔機能リハビリテーションプログラムを作成し、デイサービス事業所において試行したほか、急性期病棟入院患者を対象とした看護師によるチェックリストを用いた歯科有訴状況の把握と、これに基づく口腔ケア指導・退院時指導を行い、退院後の歯科受診状況等をアンケート調査した。さらに、以上の研究の成果等を踏まえ、クリニカルパス作成委員会において摂食障害要介護者用標準工程表の原案を作成した。
結果と考察
1)連携体制の構築としてモデル地区内の郡市医師会、郡市歯科医師会、市町村保健福祉担当課、介護保険指定事業者等の代表者計25名からなる要介護者口腔ケア関係者連絡協議会を3回にわたり開催し、連携のための環境整備および要介護者・家族を含めた研修・普及啓発のあり方を中心に協議・検討を行い、その成果を「中間まとめ」という形で取りまとめた。また、痴呆のある要介護者への対処法、摂食嚥下障害者への間接訓練や食事介助法に関する実演、実習等、昨年の研究で明らかになった関係者のニーズの高い内容で構成した研修会を開催し、事後アンケートで高い評価を得たが、研修会の最後に実施した職種横断なグループ討議を評価する意見が多く、関係者の相互理解、連携を深めるためにはこうした研修方式も重要だと考えられた。また、歯科医師、要介護者等に対する個別イン
タビューにより、要介護者への歯科治療・口腔ケアを円滑に実施していくためには、前提条件として要介護者が家族の一員としてきちんと位置づけられていることが必要であり、また、単に治療や口腔ケアを行うだけでなく、要介護者やその家族との関わりを大切にする必要があること、きちんと効果が体感できるようなサービスを提供することなどが重要であることが明らかになった。
2)情報ネットワークの構築として実施したグループインタビューの結果からは、情報連携の不足は、歯科のみの問題ではなく保健・福祉全般に係わる課題であること、特に歯科診療や口腔ケアについては、歯科関係者以外の関心は低く、その有効性についても認識は不足していること等が明らかになった。情報ネットワークモデル事業では、約1か月半で計69件の情報交換が行われ、歯科衛生士からの情報発信件数が62.3%を占め、内容としては口腔ケアの実施内容を記載したものが35.1%で一番多かった。当初介護保険関係者からの情報発信、問い合わせは少なかったが、歯科衛生士からの情報提供が行われているうちに徐々に介護保険関係者からの発信が増加しており、歯科関係者からの情報発信の継続が重要であると考えられた。また、関係者が最新の必要な情報に常にアクセスできるよう本研究事業全体の成果を含め、口腔ケアに関するマニュアルや要介護者の歯科保健に関する事業の申し込み様式や問い合わせ先などの情報を提供するホームページ(http://www.dent.niigata-u.ac.jp/oral-care/)を作成公開した。
3)標準工程表の作成として、口腔ケアによる効果に関する介入研究では歯肉炎指数(GI)、歯肉出血指数(GBI)、舌苔付着度、咽頭粘膜の肺炎起因菌の菌種数等が介入頻度が増加するに従い改善する傾向を示し、GIとGBIについてはコントロール群と月4回群の間で有意差が認められ(P<0.05)、専門的口腔ケアが効果を発揮するためには月4回以上の介入が必要となることが示唆された。義歯治療による効果に関する介入研究では治療前と義歯治療直後で、食物の粉砕能力、栄養摂取量、健康状態の自覚、幸福感、ADL、アンケートによる主観的義歯満足度等が改善傾向を示した。しかし、すべての項目で義歯治療直後と比較して治療2ヶ月後では低下傾向を示しており、義歯治療においても継続的な管理指導が必要なものと考えられた。また、介護関係者でも容易に実施可能な舌、口腔周囲筋、頭頸部のストレッチ等を含めた口腔機能リハビリテーションプログラムを作成し、試行的に3カ所のデイサービス事業所で実施したところ、唾液分泌能と舌突出長さ、「イー」発声時の口角間の長さ等において実施前と比較して改善が認められ、有効であると考えられた。看護師によるチェックリストを用いた歯科有訴状況の把握により、調査対象入院患者29名中23名(79.3%)になんらかの歯科治療および口腔ケア指導の必要性を認め、このうち歯科治療が必要だと判断された15名に対し、退院時にかかりつけ歯科医での受診等の勧奨を行ったが、退院後の郵送アンケート調査により歯科受診等が確認されたのは3名(受診勧奨者の20.0%)に留まった。しかし、チェックリストや把握した患者のフォロー体制を検討することにより、急性期入院患者に対して病診連携により早期に歯科的対応を行うことは十分可能であると考えられた。以上のようなこれまでの本研究事業の成果等を踏まえ、摂食障害要介護者用標準工程表(クリニカルパス)の原案を作成した。クリニカルパスは全体像を示した「基本クリニカルパス」と、各個別分野毎の「歯科治療のクリニカルパス」、「口腔ケアのクリニカルパス」、「摂食リハビリテーションのクリニカルパス」および関係者が口腔問題を把握しやすくするための「チェックリスト」から構成されている。
結論
1.要介護者口腔ケア関係者連絡協議会を設置、協議を進め、その成果を中間まとめとして取りまとめたところ、連携を進めるための環境整備などに関する関係者の役割と今後の対応方策が示された。2.研修会のなかで実施した職種横断的なグループ討議を評価する意見が多く、現場関係者間の相互理解と連携を進めるためにはこうした研修方法も有効だと考えられた。3.歯科医師、市町村保健師および要介護者、家族に対する個別意向調査により、要介護者への歯科治療・口腔ケアを円滑に実施していくためには、前提条件として要介護者が家族の一員としてきちんと位置づけられている必要があること、単に治療や口腔ケアを行うだけでなく、要介護者やその家族との関わりを大切にする必要があること、きちんと効果が体感できるようなサービスを提供することなどが重要であることが明らかになった。4.グループインタビューおよび情報ネットワークモデル事業の結果から、情報の共有化は歯科に限らず他の分野でも課題となっていること、介護保険関係者の口腔ケア等に対する認識を高めるためには、ケアマネージャーに対する情報発信を中心に歯科保健医療関係者側からの積極的な情報発信が望まれること、その際には歯科衛生士の役割が重要と考えられること等が明らかになった。5.歯科衛生士による専門的口腔ケアの介入頻度を変化させた介入研究により、歯肉炎指数(GI)等が改善し、介入頻度が増すにつれて口腔保健に関する意識・行動等も有意に向上するなど、専門的口腔ケアの効果が示されるとともに、専門的口腔ケアは月4回以上の頻度で実施されることが効果的であることが示唆された。6.治療前、治療直後、治療2ヶ月後で義歯治療の効果を測定した研究により、治療直後は食物の粉砕能力、栄養摂取量、ADL等の各種指標が改善を示したものの、治療2ヶ月後ではそれらが低下することが明らかになり、義歯治療の
効果が示されると共に、継続的な管理が必要であることが示唆された。7.デイサービス事業所で容易に実施可能となるよう配慮した口腔機能リハビリテーション(お口の体操)プログラムを作成し、デイサービス事業所で試行したところ、唾液分泌能、舌突出長さ等において改善を認めた。8.入院患者を対象とした看護師によるチェックリストを用いた歯科有訴状況の把握と指導の結果から、今後、チェックリストの内容および把握した対象者の歯科的フォローアップを確実に行う体制を構築することにより、急性期入院患者に対して、病身連携による早期歯科的対応をしていくことが可能となると考えられた。9.これまでの本研究事業の成果等を踏まえ、摂食機能障害要介護者用標準工程表の原案を作成した。今後、モデル地区内での試行を通じて改良を加えることにより、関係者の連携による口腔ケアの推進に資することが期待される。

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