健康寿命および ADL,QOL低下に影響を与える要因の分析と健康寿命危険度評価ケーブル作成に関する研究:NIPPON DATA80・90の19年、10年の追跡調査より

文献情報

文献番号
200300195A
報告書区分
総括
研究課題名
健康寿命および ADL,QOL低下に影響を与える要因の分析と健康寿命危険度評価ケーブル作成に関する研究:NIPPON DATA80・90の19年、10年の追跡調査より
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
上島 弘嗣(滋賀医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡山明(国立循環器病センター)
  • 岡村智教(滋賀医科大学)
  • 笠置文善(財団法人放射線影響研究所部)
  • 喜多義邦(滋賀医科大学)
  • 清原裕(九州大学)
  • 児玉和紀(財団法人放射線影響研究所)
  • 斉藤重幸(札幌医科大学)
  • 坂田清美(和歌山県立医科大学)
  • 谷原真一(島根大学)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 堀部 博(恵泉クリニック)
  • 簑輪眞澄(国立保健医療科学院)
  • 早川岳人(島根大学)
  • 大木いずみ(自治医科大学)
  • 小野田敏行(岩手医科大学)
  • 加賀谷みえ子(椙山女学園大学)
  • 門脇崇(滋賀医科大学)
  • 川南勝彦(国立保健医療科学院)
  • 玉置淳子(近畿大学)
  • 中村保幸(滋賀医科大学)
  • 松田智大(国立保健医療科学院)
  • 松谷泰子(椙山女学園大学)
  • 宮松直美(大阪大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
11,407,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民の老後の健康状態に関する願いは、「健康日本21」の基本理念ともなっている「健康寿命の延伸」、すなわち、年老いても出来る限り元気で自立した生活を営みたい、ということにある。そのためには、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を低下させずに長生きできる要因を明らかにする必要がある。その際、特定の地域、職域集団ではなく、国民を代表する集団における疫学追跡調査(コホート研究)によって、これらの要因を明らかにすることができれば、その結果は普遍性を持つことになり、公衆衛生施策の立案や推進に有用である。本研究の目的は、国民を代表する集団を長期間追跡した研究成績を用いて、健康寿命を決定する要因を明らかにし、同時に保健指導や健康診査の場で利用可能な健康寿命に関する危険度評価テーブルを作成することにある。
研究方法
NIPPON DATA(National Integrated Project for Prospective Observation of Non-communicable Disease and its Trends in the Aged)は、全国から層化無作為抽出された厚生省(当時)の第3次、4次循環器疾患基礎調査対象者、それぞれ、10,000人、8,000人を19年間、10年間追跡したコホート研究であり、ベースライン調査の年号をとって NIPPONDATA 80、NIPPONDATA 90と呼称されている。また65歳以上の高齢者には、5年間隔で2回にわたり、ADL、QOLの調査を実施した。本年度は、早世や健康寿命を阻害する候補要因である血圧、血清脂質、尿酸、腎機能、耐糖能異常、飲酒、喫煙、食習慣、就業環境等と死因別死亡の関連を、Coxの比例ハザードモデルで明らかにし、日常の保健指導や健診の場で普遍的に使用可能な危険度評価テーブルを作成する。現在、本邦におけるこの種のテーブルとしては、高脂血症患者を対象としたJ-LITチャートがあるが、一般住民を対象とした危険度評価テーブルは存在せず、これを作成する意義は大きい。また5年間のADLの推移についても明らかにすると同時に、死因別死亡者の内訳が明らかとなっていなかったNIPPONDATA 90の10年目の死因も把握する。
結果と考察
危険度評価テーブル作成の前提となる各リスク要因と死因別死亡、ADLの推移について検討を行なった。その結果、1)年齢、血圧(収縮期、拡張期)、喫煙は、冠動脈性心疾患、脳卒中、脳梗塞、総死亡の危険因子であった。2)高コレステロール血症は、冠動脈性心疾患とのみ有意な正の関連を示した。3)随時血糖値区分別の検討では、冠動脈性心疾患死亡率は、第1quartile(99mg/dl以下)と比較して、第3quartile(110-122 mg/dl)で2.3倍(95%CI:1.05-5.15)、第4quartile(123 mg/dl以上)で2.8倍(95%CI:1.35-6.12)であった。4)心電図高度異常群(Q・QS型:1-1,ST高度低下:4-1,T波高度逆転:5-1,心房細動:8-3、数字はミネソタコード)は、いずれの年代でも正常群に比し総死亡率が高く、特に40~50歳代の働き盛りの年齢層で相対危険度が高かった。5)男性のがん死亡には、年齢、
喫煙、飲酒、血清総コレステロ-ルとアルブミンの低値が有意な要因として関連していた。女性では、年齢と総コレステロ-ルの低値のみががん死亡と有意に関連していた。総コレステロ-ルやアルブミンの低値は、肝がん死亡との関連が強く、がん死亡から肝がん死亡を除外すると、これらとがん死亡の有意な関連は消失した。血清総コレステロ-ルやアルブミンの低値は、がん死亡の原因というより、肝臓がんの前がん状態である肝硬変や慢性肝炎の存在による因果の逆転現象によるものと考えられた。6)±以上の尿蛋白を有すると、-の場合に比し、男では2.2倍(95%CI:1.39-3.38)、女では2.4倍(95%CI:1.51-3.84)心血管系死亡のリスクが高く、総死亡でも同様であった。7)以上の成績を参考に、総死亡、冠動脈性心疾患、脳卒中、がんについて試験的に危険度評価テーブルを作成した。8)65歳以上の対象者について、1994年から1999年の5年間の基本的ADLの推移をみた。自立者が5年後も継続して自立している割合は、男性で71.1%、女性で76.7%であった。またこの間にADLが低下した者は、男性で8.1%、女性で13.2%、自立者の5年間の累積死亡率は、男性で20.7%、女性で10.2%であった。1994年のADL低下者のうち、5年間で回復(自立)した者の割合は男女とも20%であった。9)NIPPONDATA90の10年目の死因の確定作業が完了した。健康度評価テーブルは、個人の危険因子の状態に基づき、何らかの原因で死亡する確率や脳卒中・心筋梗塞等の死亡確率を色分けして示すものである。これにより、生活習慣や健診所見から、自らの健康度を容易に判定でき、その結果に基づき、個人が適切な生活習慣や予防対策を講ずることができる。類似のテーブルは、米国フラミンガム研究などでも心筋梗塞や脳卒中に関するものが存在するが、これらを日本国民にそのまま当てはめることはできないため、本研究の意義は大きい。
結論
国民の代表集団のコホート研究であるNIPPONDATAを用いて死亡に関する健康危険度評価テーブルを作成した。次年度は、ADL低下も加えた健康寿命予測テーブルを作成する予定である。またNIPPONDATA80の追跡期間を延長やNIPPONDATA90の知見を加えることにより、現在の危険度評価テーブルを更に精度の高いものに改良していく予定である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-