ケアマネジャー向け住宅改修の研修プログラムの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300187A
報告書区分
総括
研究課題名
ケアマネジャー向け住宅改修の研修プログラムの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 晃(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本美芽(東京都立保健科学大学)
  • 蓑輪裕子(聖徳大学短期大学部)
  • 金沢善智(弘前大学)
  • 中祐一郎(名古屋女子大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
8,122,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険における居宅サービスのなかに住宅改修が位置づけられ、給付額は2003年10月時点で月額38億円と制度創設当初の約20倍の伸びを示している。ただしその内容についての検証は全体として行われておらず、必要な人に必要な改修サービスが提供され自立支援としての効果を十分にあげているかどうか疑問も残されている。本研究は住宅改修を支援する専門職のなかでケアマネジャーに焦点をあて、ケアマネジャーの支援に必要な視点や技術を明らかにし、それらを獲得目標とする研修プログラムを検討するとともに、研修に用いる教育媒体(研修ツール)を開発することを目的としている。
福祉用具や住宅改修といった住環境整備の支援というと、たとえば手すりの設置位置や段差解消手段の選定など住環境整備のプランニングと施工段階での関わりが想定されることが多く、ケアマネジャーの支援においてもその技術や知識が求められているかのような受け取られ方がなされ、実際に研修などでもそれらの情報が提供されていることも少なくない。当研究班では、住環境整備のプランニングや施工に関する技術はリハビリテーション技術者や建築技術者などが担い、ケアマネジャーはその調整役を果たすとともに、その前段階において自立支援としての住環境整備の必要性を評価するアセスメントを適切に行う必要があるが、その点が十分になされていない可能性があるという仮説に立っている。
住環境整備では、専門職が客観的に判断した必要性(ニーズ)と、当事者が感じとり態度で表明している要望(ディマンズ)には乖離がある。専門職がニーズを認めているものの当事者にディマンズがない、あるいはディマンズはあってもそれがニーズとは無関係に主張されることも少なくない。環境整備は手段であって目的は本来別に存在しているのだがその点が曖昧にされており、住環境を変えることで生活を変えるという発想があったとしても、改善すべき課題としてそれは具体化されていないことが多い。介護保険では市場化が図られたことで、自己決定すなわちディマンズが重視されるようになった。自立支援としてのニーズにもとづいたアセスメントがケアマネジャーによってなされる必要があるが、介護保険下ではとくに利用者のディマンズにたんに対応しているのが現状ではないか。
研究方法
目的の達成のため、1)ケアマネジャーに必要な住宅改修支援の視点と技術の解明、2)研修方法の検討、3)研修用媒体の開発、を具体的課題としてそれぞれ検討を行った。
1)については、以下の三つの調査分析を実施した。第一に、住宅改修が自立支援として妥当な改修だったかを評価し、妥当性のない改修がなされる要因をさぐるため、3地区で実施した事例調査データ(合計55例)を再分析した。第二に、住宅改修に関するケアマネジャー自身の課題認識を把握するため、東京都大田区の在宅介護支援センター(5ヶ所)のケアマネジャーを対象としてヒアリング調査を実施した。第三に、本来ケアマネジャーに求められる住宅改修支援の視点と技術を明らかにすることを目的に、先駆的位置にある地域のケアマネジャーの支援事例(8事例)を対象に支援経過・内容を分析した。
2)の研修方法については、以下の三つの調査検討を行った。第一に、都道府県等における住宅改修の研修実態を概略的に把握することを目的に、郵送アンケート調査を実施した。第二に、体験型研修に必要な実習設備の整備・開発状況および活用実態を把握するため、郵送アンケート調査と先行事例についてのヒアリング調査を行った。第三に、研修プログラムを検討するために、ケアマネジャーを対象とする研修を試行し(4ヶ所)、参加者のアンケートとヒアリングによって研修効果等を把握しようとした。
3)の研修用媒体の開発については、上記研究結果にもとづき住宅改修のアセスメント技術を獲得目標とする研修用媒体として、演習に用いるビデオ教材二編を開発することとした。アセスメントを行うに際して課題となる場面を設定し、そこでの情報を整理してシナリオ化を図った。
結果と考察
まず、ケアマネジャーに必要な住宅改修支援の視点と技術については、以下のことが明らかになった。住宅改修の質に関する現状は、ケアマネジャーによるアセスメントが不十分なことも要因となって、自立支援として妥当性のない改修が半数程度含まれている可能性がある。ケアマネジャーにとっては住宅改修が住宅の物理的改造として認識されているために、住宅改修の目的よりも改修手段・技術の問題が強調される傾向にある。しかし住宅改修の支援方法を検討してきた先駆的地域におけるケアマネジャーの支援経過・内容を検討すると、ニーズ発見やディマンズの確認・調整、場合によってはディマンズを育成する工夫といった支援がケアマネジャーの重要な役割としてなされていた。したがって、ケアマネジャーに求められるものは、当事者のディマンズに単に応じるのではなく、自立支援としてのニーズにもとづく住環境と生活を関連付けたアセスメント技術ということができよう。
研修の方法に関しては、以下のことが確認された。ケアマネジャーを対象とした住宅改修・福祉用具に関する研修は都道府県の7割で実施されているが、大人数での座学が中心であった。体験型研修が効果をもつと考えられるが、そのための実習設備については先進事例の工夫もみられるものの普及のためには課題があった。また試行した研修プログラムについては、「業務に役立つ」などケアマネジャーの役割認識には一定の効果が認められた。ビデオを活用した事例検討については、「理由書の書き方」を指導する研修課題とリンクさせる工夫によって、アセスメント技術とその活用方法を修得できる可能性が示唆された。
以上の研究成果をもとに、住宅改修のアセスメントの視点と技術を理解するための演習用ビデオを開発した。「ニーズ発見およびニーズとディマンズの調整についての視点」「住環境をベースにしたアセスメント技術」のそれぞれを獲得目標としているもので、グループ討議の素材を提供するものである。
結論
住宅改修においては、サービス提供事業者に関する指定業者制から例外的に除外されていることもあって、ケアマネジャーが個別サービス計画すなわち住宅改修のプランニングや施工についても一定の関与を求められるという現状がある。このことも要因となって、ケアマネジャーに求められる住宅改修支援に関する知識は改修手段や改修技術にあるかのように受け止められている側面もあり、本来ケアマネジャーが担うべきアセスメントについての役割認識、あるいはその技術の獲得が十分になされているとはいえない。ケアマネジャー向け住宅改修の研修においては、このような役割認識や技術を獲得目標としてなされる必要がある。研修方法は講義だけでなく体験型・参加型の工夫が必要で、グループ討議の内容を深めるためにビデオ教材の活用はそのひとつとなる可能性がある。今後さらに、開発したビデオを活用した研修を試行し、プログラムの具体化を検討する必要がある。

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