個票データを利用した医療・介護サービスの需給に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300074A
報告書区分
総括
研究課題名
個票データを利用した医療・介護サービスの需給に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
植村 尚史(早稲田大学)
研究分担者(所属機関)
  • 松本勝明(マックス・プランク国際社会法研究所)
  • 江口隆裕(筑波大学)
  • 稲森公嘉(京都大学)
  • 山田篤裕(慶應義塾大学)
  • 金子能宏(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 泉田信行(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 菊地英明(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 佐藤雅代(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 宮里尚三(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 山本克也(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
9,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、医療の需給両面を同時に分析することにより、医療費の決定要因等について総合的、包括的な検討を行うものである。個票データを使用することにより、地域の医療、介護資源がどのような施設、事業に投入されているか、そのことが、患者、医療機関、介護事業者等の行動にどのように反映しているか等の実態を把握するとともに、政府管掌健康保険のレセプトデータを再集計し、診療行為の詳細な情報、医療機関属性に関する詳細な情報、市場環境に関する情報と合わせて分析することで、医療利用を評価する手法を開発することを目的としている。
とりわけ、保険者が、レセプトなどの個票データを分析することにより、医療利用を評価する手法を手に入れることは、保険者による情報提供や医療機関と交渉などの可能性に途を開くことにつながり、効率的で効果的な医療制度構築のための政策的選択肢の幅をひろげることに役立つものと考えられる。
研究方法
本研究の政策的・学術的な位置付けを明らかにした上で、埼玉県・千葉県・神奈川県・大阪府・福岡県の政府管掌健康保険の6年分のレセプトデータを用い、各県別、個人別、医療機関別に集約して、各指標の分析を行った。
さらに、レセプトデータを個人単位でのエピソード化作業を始めとし、分析目的に合わせて様々な再集計を行うことによって分析を行った。
また、医療供給側の分析を行うために医療施設調査等の個票等の再集計を行った。これらのレセプトデータ等の既存個票データでは把握しきれない現状については、インターネットアンケート調査システムを用いた調査、フィールド調査やヒアリングなど、様々な手法を用いて情報を補足し、調査・分析に供した。
結果と考察
日本の医療は、マクロ的にみると医療の優等生といわれてきた。しかし、多くの国民にとって医療が効率的に行われているという実感はないのが実態であり、政策的にも医療費抑制が重要な課題となっている。総医療費であるとか国民全体の平均寿命といったような従来の伝統的なマクロデータの分析だけではなく、提供される個々の医療サービスのレベルにまで遡ったマイクロデータに基づくきめ細かい分析の蓄積が求められている。近年のOECDにおける医療政策研究なども基本的にそうした方向をとっている。
個別の分析は保険者機能の分類に従ってそれぞれ患者受診行動の分析、医療供給に関する分析に大別できる。両者に分類されない論文もあるが、これは保険者自身のあり方に関する研究や制度間比較の分析となる。
患者受診行動の分析として、政府管掌健康保険について提供されたデータを用いて新しく指標を作成した。それらの指標はこれまでの分析がレセプト単位であった制約を取り除き、受診患者単位で分析を行っていることに意味がある。患者単位の集計を行うことにより、受診率が本来の意味(国民のうち医療機関を受診した人数の比率)を取り戻すことや、多数の患者が少数回医療機関を訪問しているのか、それとも少数の患者が多数回受診しているのか、等の実態が明らかになるとともに、政策効果を検討するために明快な指標を作成できることとなった。
また、患者の受診行動を把握することで、その行動を追跡することによって患者の医療機関受診の好みを明らかにすることが可能であり、患者の医療機関選好の情報を集約すれば保険加入者にフィードバック可能な情報を作成することが可能であることも示した。
個票データの利点はデータ生成プロセスに配慮すれば、多岐にわたる分析目的に合わせて様々に再集計することが可能となる点である。例えば、入院と外来の識別子や受診開始時の受診パターンに関する情報をレセプトの再集計により作成することにより、医療費自己負担率の引き上げは患者の入院パターンを変化させ、相対的に軽症な患者の入院から外来へのシフト、及び相対的に重症な患者の外来経由の入院から直接入院するパターンへのシフトをもたらした可能性について明らかにすることができた。
保険者が利用可能な情報であるレセプトを用いて医療機関の行動について評価する指標を作成することも試みられた。診療報酬の請求を目的とするレセプトデータを、具体的にどのように用いることにより医療機関の評価を行うための情報を作成することが可能になるかを示した。このような医療機関評価の情報が磁気データから作成可能であることが示されることは、保険者の事務の効率化につながることを含意する。現在の保険者の事務処理は人手に頼る部分が多いが、レセプトデータに簡便な統計処理を施すことで診療機関を分類する指数を作成することは可能であることを示し、実際に作成された具体的な指数についてその性能を評価することが可能となった。
さらには個人の受診行動が完全に把握できるという性質を利用して医薬分業の実態把握等、既存のデータでは把握することが比較的難しい医療機関間の関係についての分析を行うことが可能となった。
本研究班の分析結果はここで説明したものだけではなく、これらの分析内容や結果を他のデータから補足・補強する研究や関連する研究が実施されている。
今後のわが国の医療制度の改革にあたっては、ミクロ的な諸問題についてのエビデンスに基づいた議論が必要であるであると考えられる。その際に本研究で行われた内容の分析は保険者が保有するレセプトをベースとしたものであり、医療機関や患者に別途調査をするなどの特別な費用を払わないで利用可能なデータによっている。このように相対的に安価なデータを用いることが可能な状況は世界的にも珍しいケースである。そのため、より積極的に活用することにより医療制度改革、医療サービス提供等のコスト・ベネフィットを改善することが可能となろう。
本研究の意義は、個別の研究成果の含意はそれだけで意義があるがそれらに言及せずとも、レセプト等のデータを分析目的に合わせて再集計することにより制度改革等の議論や患者にとって有益な情報を作成することが可能となることを実際に示したことである。
結論
日本の医療政策を医療内容にまで関わるものとしていくために、個票データを分析することにより、医療利用を客観的に評価する手法を開発することが重要である。その際、保険者に蓄積されているレセプト個票データは、こうした分析にとって有益な情報データベースを提供することになる。本研究は、そうした全般的な研究の動向において、最近ようやくわが国においても端緒的な取り組みが始まっているレセプト個票データを中心とした医療・介護サービスに関するミクロ分析の1つの試みと位置づけることができる。様々な制約はあるものの、本研究ではレセプトデータから各種の保険者が利用可能な情報が『実際に』作成可能であることが示された。今後、保有する情報量が増大した、質の良い、大量のレセプトデータが分析可能となれば、分析にあたっての制約等は解消されていくと考えられる。

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