大腿骨頸部骨折の医療ケア標準化における費用対効果(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300073A
報告書区分
総括
研究課題名
大腿骨頸部骨折の医療ケア標準化における費用対効果(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
川渕 孝一(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 森山美知子(広島大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
2,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における大腿骨頚部骨折急性期の治療にかかる費用及び治療のプロセスについて、費用対効果の視点から検討する一方、実際に急性期病院で大腿骨頚部骨折の入院患者に対する入院日数が治療成果(歩行能力の改善)にどのように影響を与えるかを検証する。
研究方法
調査1:まず日本及び米国の大腿骨頚部骨折に関する先駆的急性期病院をそれぞれ1施設選定し、診療報酬明細書、クリニカルパス等に関するデータを収集した。次に、日米の治療プロセス及びコストの差を詳細に比較・検討し、米国の治療にかかる費用を日本の診療報酬に当てはめて分析した。また、当該病院の医療スタッフに聞き取り調査を行い、治療プロセスの内容を確認した。
調査2:わが国の大腿骨頚部骨折治療のエキスパート13名にデルファイ法を用いて理想的な治療プロセスを構築してもらい、実際、当該エキスパートが行っている治療プロセスと比較・検討した。
調査3:全国にある4つの急性期病院で大腿骨頭置換術を行った患者データ(N=117)から、約100項目に患者属性、治療の特性及び医療費に関する指標を抽出し、順序プロビット・モデルによって、歩行能力に在院日数の影響と歩行能力の改善に影響を及ぼす因子を検討した。
(倫理面の配慮)データ管理は研究便宜上、患者番号で管理し、個人名のもれがないよう十分配慮した。
結果と考察
調査1では、日、米、英3ヶ国の在院日数はそれぞれ53.4日、6.6日、14.3日であり、この差を生む原因は、次の4点に起因する。まず第一は、わが国では、抜糸、膀胱留置カテーテル、創部のドレーン挿入、の3つの処置を全患者に施行しているが、米英の場合では、当該処置は存在しないことである。第二は、受傷から入院、入院から手術までにかかる時間は米英は個々24時間内で済むが、わが国では、それぞれ平均6.3日、10.5日かかることである。第三は、術後対応に対し、わが国は、全荷重歩行まで平均13.62日かかるのに対して、英は術後48時間内全ADL実行することがケアプランに定められており、米は術後24時間内部分荷重が原則とされていることによる。第四は、退院計画の立案にわが国は16.38日もかかるのに対して、米英では3日以内で済むことによる。全体的には、米英は治療が標準化されており、ばらつきは少なかった。
調査2では、エキスパートに治療プロセスを構築してもらった所、退院指示を出す日は現行の14~56日から5~21日へ、退院日も現行の7~80日から7~28日にそれぞれ短縮できることがわかった。また、人工骨頭置換術に関しては、部分荷重が1~5日へ、全荷重が1~7日に短縮できることがわかった。リハビリの部分は、入院日~術後7日から入院日~術後3日にモデル化された。結果的に、わが国で医療の標準化が進めば、在院日数は短縮され、約240~425億円の医療費の削減効果が推測された。
調査3では、在院日数の延長は歩行能力を改善するが、その影響の大きさは、痴呆や術後感染症の有無などの状態に依存することが分かった。しかしながら、在院日数を大幅に延長しても顕著な歩行能力の回復は認められない。治療成果に有意に関連している因子は、入院時歩行レベルの他に、①痴呆症状、②術後感染症、③退院先に関する変数であった。
わが国における大腿骨頚部骨折の治療は、抜糸と入院を切り離すことに加えて、感染しやすいプロセスの膀胱留置カテーテルの留置や、ドレーンの挿入を回避すれば、退院日の短縮が可能であることが明らかになった。
結論
患者の治療成果を改善するには、現存の治療プロセスに新たなガイドラインを導入する必要がある。

公開日・更新日

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更新日
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