介護サービスと世帯・地域との関係に関する実証研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300050A
報告書区分
総括
研究課題名
介護サービスと世帯・地域との関係に関する実証研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
白波瀬 佐和子(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 泉田信行(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
12,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、介護サービスを含む公的社会福祉サービスの供給主体である自治体とそこに居住する65歳以上高齢者の生活実態に着目し、これからの高齢保障について考察することを主たる目的とする。介護需要の発生が高齢者個人やそれを取り巻く家族にとってどのような影響があるのかを検討する。
研究方法
65歳以上高齢者の生活実態を自治体ベースで実施することで、介護のもつ意味を高齢者個人、高齢者が属する世帯、生活の場である自治体という異なるレベルで検討することを可能にする。本研究では、平成15年10月1日「高齢者の生活実態に関する調査」を実施した。調査実施の協力をいただいた自治体は、東京都稲城市、東京都品川区、千葉県鎌ヶ谷市であった。調査対象者は65歳以上高齢者で、介護認定を受けているもの(Aグループ)と認定を受けていないもの(Bグループ)に分けてサンプリングを行った。Aグループについては3自治体とも全数を原則とし、介護認定者への配布数は稲城市913、品川区6,108、鎌ヶ谷1,540であった。そのうち回収されたのは稲城市472、品川区3,062、鎌ヶ谷市911であった。未認定者への配布数は自治体ごとの65歳以上未認定者数でウェイトして算出した。その結果未認定者への配布数は稲城市813、品川区5,268、鎌ヶ谷市1,328で、回収された数は稲城市472、品川区2,974、鎌ヶ谷市863であった。
調査方法は、郵送による留め置き自計方式である。本調査は在宅で生活するものを対象としたので、入院中、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、有料老人ホーム等に入所中のものは分析から削除した。また、高齢者を対象とすることから、回答者について、1.本人が回答した、2.代読・代筆してもらって、本人が回答した、3.家族が回答した、4.その他の方が回答した、を明らかにした。調査の回答にあり、「本人が一人で回答した」と答えたのは全体の63.1%で、次に高い割合を示したのが「家族が回答した」とする19.6%であった。「代読・代筆で本人が回答した」のは12.0%で、「家族以外の人が答えた」としたのは0.3%であった。
結果と考察
「高齢者の生活実態に関するアンケート調査」は、大きく20の質問項目から構成されている。(1)高齢者の基本属性(年齢、性別、配偶関係)、(2)住宅状況、(3)仕事の有無、(4)健康状況と通院状況、(5)日常の様子(活動状況、家事参加、外出頻度、訪問者、連絡手段)、(6)頼りにする人、(7)将来希望する介護場所、(8)介護の必要性、(9)介護者、(10)主介護者との続柄、(11)介護期間、(12)介護保険サービス利用状況、(13)介護保険以外のサービス状況、(14)介護サービス利用における決定者、(15)介護費用、(16)介護費用の負担、(17)介護関連サービスに対する希望、(18)家族・親族との関係(きょうだい、別居のこども、別居の親等)、(19)世帯収入状況、(20)世帯構成。
対象者の配偶関係は男女間で大きく異なり、男性の82%が有配偶であるのに対し、女性は配偶者がいると答えたのは3分の1程度であった。介護認定者に限定すると女性の有配偶割合はさらに低下し25%となるが、男性は75.3%が有配偶者であった。健康状態をみると、未認定者の67.8%が医者にかかっていると回答し、健康で医者にかかっていないとしたものは26.5%であった。男女別に未認定者の健康状況をみると、男性の64.4%、女性の70.6%が医者にかかっていると答えていた。年齢を考慮にいれても女性のほうが男性に比べ医者にかかっている答えた者の割合が高い。受診頻度も、同じ年齢層で男性より女性の方がより多く医者にかかる傾向にある。
未認定者のみについて外出頻度をみると、対象者の45%は「ほぼ毎日外出している」としている。ほとんど外出していないとしたのは3.6%いた。年齢が高くなるにつれ外出頻度は低下してくるが、特に女性の間で加齢に伴う外出頻度の低下が著しい。90歳以上になっても男性の4分の1はほぼ毎日外出しているとしているが、女性になると9.2%に大きく減少し全く外出しない割合が45.6%に上る。この外出頻度の違いは、男性のほうが配偶者と共に生活する割合が高いのに対し、女性は配偶者と死別して一人暮らしあるいは子ども世代と同居する傾向が高くなることと関連している。
未認定者のうち、女性の92.8%、男性の65.8%が家事をしていると答えている。そのうち女性78.8%、男性29.6%は主として家事を担っているとした。わが国の家庭内性別役割分業は極めて女性に偏重しているといわれるが、高齢期において家庭内役割分業のジェンダーラインが揺らぐ傾向にあることがわかった。
女性は男性に比べて概して訪問客が多い。別居の親族・家族からの訪問が全くないとしたものは、男性12.1%、女性10.5%であった。近所の人からの訪問については男女差が大きくなり、まったく近所の人からの訪問がないとした男性は40.6%、女性33.5%であった。近所の人や友人からの訪問は女性の方が男性よりも多い。また、介護認定者に限定して民生委員、ヘルパーなどの訪問についてみても、女性の方が男性よりも多く訪問を受けていた。
誰を頼りにするかを、(1)家族・親族(同別居)、(2)近隣・友人、(3)その他(保健師、かかりつけ医、行政の相談窓口員等)の3つに大きく分けて、(ア)洗濯・食事など日常生活の助けを頼みたいとき、(イ)急病や事故など緊急時、(ウ)入院や介護など長期的なケアが必要となったとき、(エ)経済的に困ったとき、について質問した。どの状況においても家族・親族に頼る割合が高く、特に緊急時においては対象者の9割以上が家族・親族を頼ると答えた。配偶関係別に頼る人との関係を見ると、有配偶男性は家族・親族に頼る割合がどの場面でも高い。特に、長期的なケアについては男性92.7%、女性86.8%が家族・親族に頼るとしている。しかし、配偶者がいない男性についてはどの場面でも家族親族に頼る程度が低くなる。
介護を希望する場所については、男女共に自宅と答えたものの割合が6割以上と高いが、対象者の4分の1は介護老人保健施設や老人ホームなど家庭外施設での介護を希望していた。自宅での介護を希望する割合は男女ともに高齢者ほど高く、特に女性は年齢による違いが大きい。
さらに研究協力者を含む個別研究から次のようなことが明らかになった。「介護と世帯構造に関する一考察」(白波瀬論文)では、介護サービス利用状況は介護者が属する世帯との関係が重要であることがわかった。「高齢期世代およびその直前の世代における世帯構造および健康の推移」(泉田論文)では、自覚症状や通院状況によって健康水準を測定し、健康格差が世帯構造と関連していることが指摘された。「介護サービス状況の利用動向」(植村論文)では、介護サービスの利用率が50%を下回っている理由として利用者側で利用抑制がかかっている可能性と、介護サービス利用に際しての自己裁量、自己決定の有無が重要であることが指摘された。「地域において高齢者を支える制度・政策のあり方―在宅介護支援センターを取り巻く問題を中心として―」(阿萬論文)は、高齢者支援制度の成立過程を歴史的に提示しながら、今後の高齢者を支える政策は市町村の力量にかかっており、ますます市町村の役割が重要になることを述べた。「高齢期の転居に及ぼすサポーティブネットワークの影響―自立高齢者の保有するサポートネットワークの転居ストレス緩衝効果に着目して」(坂野・澤野論文)では、高齢期における転居は高齢者に一様に否定的な影響をもたらすわけではなく、すでにどのようなサポートネットワークを保有しているかによってストレス量が異なることを指摘した。「介護保険事業の動向(稲城市の場合)」(石田論文)と「所沢市における高齢者福祉」(鏡論文)は、自治体行政について現場の立場から貴重な報告がなされた。「インフォーマルケアと介護者―近年のイタリアにおける外国人不法就労の動向から」(宮崎論文)は、家族機能に大きく依存する福祉国家として日本と共通点をもつイタリアを題材に、女性に偏重したインフォーマルセクターのサポートに依存することの問題性を示した。
結論
2003年においても、家族・親族は最も信頼する支援ネットワークであることに違いはなかった。しかし、ジェンダーによりまたライフステージにより、支援を期待する対象に違いが見られた。男性は配偶者によって介護が提供されることが多く、支援ネットワークは配偶者に集中する傾向がみられた。一方、女性は自ら介護が必要となる頃には配偶者がいない場合が多く、配偶者のみならず子どもやきょうだいといったより広範な親族ネットワークを保持していることが確認された。男性は配偶者がいなければ、家族・親族以外に支援を求める傾向があるが、女性は配偶者以外でも親族に頼る度合いが高い。
近所づきあいは女性の方が活発で、企業戦士として地域とのつながりが全くないままに高齢期を迎えた男性が配偶者にのみ支援を期待するのも不思議ではない。これまでどのような生き方をし、家族、地域とどのような関わりをもってきたかが高齢期における生活実態に反映されることも示唆された。

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