人事・財務面から見た企業年金等退職給付プランのあり方に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300033A
報告書区分
総括
研究課題名
人事・財務面から見た企業年金等退職給付プランのあり方に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
臼杵 政治(財団法人年金総合研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 枇杷高志(あずさ監査法人)
  • 箕輪和夫(株式会社企業年金研究所)
  • 北野敦也(財団法人年金総合研究センター)
  • 鈴木英典(財団法人年金総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生年金基金等の企業年金や退職一時金等を内容とする退職給付プランは、財務及び人事政策の両面から大きな変革を迫られている。
本研究の初年度においては、大きな変革に直面した企業の人事・財務の両面が退職給付制度に与える影響について企業等を対象に実態を調査し、各制度の問題点、意義等を明らかにするとともに、各企業の特性に応じた退職給付プランのあり方を提示することを目的とした。
その結果を踏まえ、当年度(最終年度)においては、先進諸外国の退職給付プランに関する比較研究やゆとりある老後生活を保障するために必要な私的な年金の内容、老後の安心のためには不可欠と考えられる終身年金の推進方法についての研究を実施した。
研究方法
まず、昨年度のアンケート対象338社に対し、従業員10名にアンケートを配布いただくよう依頼した(調査対象企業に調査票を郵送し、郵送で回収する郵送調査方式で調査依頼)。その結果、各企業の従業員計1,564名より回答を得た。
このアンケートの分析結果の他、文献調査及び現在のわが国の退職給付プランの現状分析やその打開策について、内外の研究者や実務家からのヒアリングを通じて海外の退職給付プランの動向との比較を行った。
それらの結果を踏まえて、企業に対して人事・財務両面から見た場合の企業年金等退職給付プランの改善点を指摘するとともに、税制や制度設計における政府の関与についての考察し、また厚生年金基金を中心した企業年金の財政的問題に関する打開策を政策提言として提示した。
結果と考察
退職給付プランの現状及び問題点等に関する研究結果は以下のとおりである。
1.ゆとりある老後を送るための企業年金のあり方及びそれを推進する政策について
〔1〕海外諸国及びわが国における企業年金の内容や支援策の比較
海外諸国における企業年金の内容やその老後所得保障としての位置づけ、支援策の内容等について調査を行った。その結果、わが国の企業年金においても、税制などの支援策や制度への関与では海外諸国を参考とすべき点が多いように見受けられた。
〔2〕「ゆとりある老後」のための望ましい企業年金
公的年金のスリム化の流れを受け、企業年金等私的年金にその補完の役割を担わせるなら、一体「ゆとりある老後」を送るためにはどの程度の年金額が必要となるのか、税率・運用利回りの各条件をパラメータとして変動させ、二つの視点から試算した。
まず、今回の公的年金改革によって見込まれているモデル所得代替率の低下(59.3%から50.2%へ)を補い、2025年に公私の年金を合わせて6割のネット所得代替率を確保するためには、平均的な所得の専業主婦モデル世帯では収入の3.7%~7.3%を拠出する必要があることが分かった。
さらにもう一つの目標水準として「現役時代の手取り収入(税・社会保険料控除後)と公私の年金を合わせた引退後の手取り収入(税金控除後)が等しくなること」と仮に設定してみた。この水準については、平均的な所得の専業主婦モデル世帯では収入の10.2%~17.3%、他の所得や世帯類型でも現役時代に各自の収入の10%弱~10%台後半の拠出を続ければ満たすことができるという結果となった。
〔3〕年金(特に終身年金)の効用
本来、年金給付においては終身年金が望ましい。今回実施した従業員向けアンケートでも、同じ結果となった。
そこで、わが国の企業年金において、定年時に支給される退職一時金額を終身年金化した場合の年金額がどの程度になるのかを試算した。その結果、企業規模や職種・学歴や運用利回りにも影響されるが、4万円を上回る年金月額を準備することが可能であることが確認された。
2.厚生年金基金を巡る諸問題とその対策―代行制度と財政問題
〔1〕わが国の厚生年金基金の代行の問題
代行制度(厚生年金基金制度)が果たした貢献として、企業年金制度の普及に大いに役立ったことが挙げられる。また、終身年金を普及させたことや、証券市場の高度化に役立ったことが評価される。今後、終身年金などのより手厚い年金制度の普及を図る意味は残るものの、規模のメリットを活かして資産運用をより効率化できる点が評価の中心に据えられていくことになろう。
〔2〕厚生年金基金の現状の財政問題とその(短期的な)打開策
近年の財政運営基準の弾力化措置や2004年の制度改革案について、一定の効果を挙げていることを確認した。ただ、情報開示についてはさらに充実させるべきと考えられた。また、総合型厚生年金基金が抱える問題についても言及し、情報開示の充実など今後の運営のあり方について提言を行った。
最低責任準備金割れ基金の問題に対しての政府の関与のあり方や、企業の盛衰が年金制度に与えるリスクを防止する対策として支払保証制度などの工夫について言及した。
3.企業人事・財務両面から見た退職給付プランのあり方について
〔1〕退職給付の実態
企業年金など退職給付を実施している企業の割合は概ね増加傾向にあったものの、直近では企業規模(従業員数)によっては減少に転じているところも存在している。次に退職給付額では、学卒後定年まで勤めたものとして各々の学歴でみるとやはりその差は明白である。また、企業規模別でも格差がある。
〔2〕退職給付の動機付けとしての有効性・退職給付に対する期待
今回従業員向けに実施したアンケートの主な結果は以下のとおりである。
・企業年金は老後の生活費として重要視されていた(86.9%)。
・老後生活費の不安は漠然として持っているものの(73.0%)、実際にその準備をしている従業員の割合は低い(39.5%)。逆に、準備を始めている従業員ほど老後不安は低かった。
・入社時点だけでなく、入社後も退職給付制度への理解度は低い。ただし、年代が上がるにつれ理解度は高まっていた。
・退職給付制度に成果主義を導入するか否かについては従業員の意識は大きく分かれる。
・希望する退職給付の受取形態は約半数が一時金での受取りを希望しており、3割程度が年金、1割程度が前払いを希望していた。
・退職給付の受給方法については「額の確定した終身年金」が84.4%の支持を集めており、主な理由は「定期的な受給による生活設計の立てやすさ」や「生涯受取保障の安心感」であった。
・制度変更の際の個別かつ丁寧な説明により従業員の満足度が高まることが分かった。
〔3〕人事面・財務面からみたキャッシュバランスプランと確定拠出年金
掲題について、企業がこれらの制度を導入する際に留意すべき点を挙げ、解説を試みた。
結論
調査結果を踏まえると、本研究は以下のようにまとめられる。
1.ゆとりある老後を送るための企業年金のあり方について
まず、公的年金と合わせたネット所得代替率60%、さらに次の段階として現役時代と同じだけの手取り所得を達成することを努力目標水準として、それを達成するために国が必要最小限の関与をする政策も検討に値する。
2.厚生年金基金を巡る諸問題とその対策―代行制度と財政問題
現在の状況では、代行制度の政策的意義の一つは「公的年金資産の運用の一部を民間が代行すること」に求められよう。また現下の財政問題を解決するためには更なる情報開示が極めて重要であり、改善の余地はまだあると考えられる。
3.企業人事・財務両面から見た退職給付プランのあり方について
企業として、従業員の求心力を維持するための方策は、制度変更や再設計にあたっての従業員のニーズ把握に注力すべきであること、適時情報提供やアドバイスの面で手助けをすべきであること、退職給付プランには確定給付年金や終身年金の要素をできるだけ残していくべきであることである。

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