福祉契約関係の意義と課題に関する法社会学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300029A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉契約関係の意義と課題に関する法社会学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
秋元 美世(東洋大学社会学部)
研究分担者(所属機関)
  • 須田木綿子(東洋大学社会学部)
  • 尾里育士(浜松短期大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
財やサービスの取得に関する当事者関係を規律する手法として、「契約」は、説明するまでもなくきわめて大きな意味を有している。このことは福祉サービスの利用に関しても、基本的には妥当することである。しかし本来的に自己責任と自己利益の追求を基軸とする契約関係を、社会福祉の分野にそのままストレートに適用することが適切ではないということも忘れられるべきではない。実際、地域福祉権利擁護事業や成年後見制度のように、福祉の特性を踏まえた仕組みが、この間の福祉改革(介護保険制度や支援費支給制度の導入)の過程の中で用意された。この研究は、こうした福祉サービスの利用にかかわる契約(福祉契約)の意義と課題を明らかにすることを目的とするものである。
研究方法
本研究では、福祉の特性を踏まえた契約のあり方を理論的に整理するとともに調査のための仮説を設定し、さらに調査結果を理論的検討にフィードバックさせることを考えている。
まず、昨年度の調査研究で得られた知見(契約という仕組みが前提としている利用者像と、現実の福祉サービスの利用者像との間にある種のギャップがある)について、さらに理論的な検討を加えるという趣旨で、福祉サービスの利用者への支援に関わる問題(具体的には「支援」と「自律」の問題)について、文献研究を中心として理論的検討を行った。それに加えて、本年度は、契約文化の導入がサービス事業者に及ぼす影響について調べることとし、特別養護老人ホームへの訪問調査等を行った。そして、以上のような研究および調査を踏まえて、福祉契約に関する人間像を一般的に論じていくための枠組みに関する考察を加えた。
結果と考察
福祉サービスの利用者像と現実の利用者像のギャップを埋めるための方策として制度的に用意されているものの1つが「権利擁護事業」である。ただし、契約化したことの意義(法律関係・権利関係の明確化など)を活かすようにしながら、なおかつ福祉的な援助によってこうしたギャップを埋めるのは決してたやすいことではなく、例えば権利擁護事業などでは「支援」と「自律」の調和の問題として現出している。こうした支援と自律にかかわる問題についての考察の結果は、次の通りである。すなわち支援と自律は、排他的な関係にあるのではない。支援を受けながらの自己決定(=支援された自律)ということは、規範論の立場からも正当化しうるものである。ただしその際、留意しなければならないことがある。1つは、ドゥオーキンが言うところの「手続的独立性」ということが侵され、「決定の収奪」が起きないように努めることである。いま1つは、「支援された自律」と「保護」(代行決定)のつながりについてである。状況の変化によっては、支援された自律から保護への転換が必要となる場合もある。そうしたとき重要となるのは、支援と保護を別物として見るのではなく、一連のつながりのあるプロセスとしてそれらの関係を考えていくことである。この点で「道徳的に劣ったものとして扱ってはならない」(ドゥオーキン)という保護的介入の正当化基準や代行決定における「最善の利益基準」などは、支援と保護の問題を一連のプロセスの中でみていくというそのようなアプローチに、きわめて親和的な基準である。なお、こうした支援された自律という考え方を具体化する上で、近年注目されているものとして「支援された決定モデル」呼ばれているものがある。なお、この問題に関する考察と結論の詳細については、論文<秋元美世「権利擁護における支援と自律」『社会政策研究第4号』所収・添付資料>を参照のこと。
結論
契約化という動向を前提として、援助関係において特に留意しなければならないことは、援助者と利用者の信頼関係をいかに築き、また保持するかという点である。しかしながら、今日の議論において前提とされている消費者保護的な観点では、この点が必ずしも十分にとらえられているとは言い難い。信頼関係を踏まえた契約のあり方を検討していくことが求められているのである。本年度はとくに、そうした信頼関係の存在を前提にした福祉契約の実現のための条件という問題について研究を行った。1つは、「支援と自律」をめぐる問題である。支援と自律との適切な関係が形成されることが、信頼関係を確保するためには不可欠となるのである。2つめは、「福祉契約における人間像」の問題である。福祉契約において、サービスの利用者と提供者とをどのような人間像としてとらえるかという問題は、利用者と提供者との関係の在り方を考えるにあたって――したがって利用関係における信頼関係の問題を考えるにあたって――きわめて重要な意味を持っている。なおこの人間像の問題についての詳細は、総括報告書資料1[秋元美世(2004)「福祉契約と人間像:<騎士>と<悪漢>」『週刊社会保障』2273号。]を参照のこと。

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