多様な主体による世代間相互支援プログラムの構築と効果の検証(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300027A
報告書区分
総括
研究課題名
多様な主体による世代間相互支援プログラムの構築と効果の検証(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 浩(東北大学経済学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 日野秀逸(東北大学経済学研究科)
  • 佐々木伯朗(東北大学経済学研究科)
  • 藤井敦史(東北大学経済学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
3,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、公的年金等の現行の社会保障制度が縮小的に改革された場合に、次世代支援、世代間相互支援のためのプログラムを(a)民間企業、家計、民間非営利部門、地域等の公共部門以外の多様な主体にどのようにシフトし、継続をするかを明らかにし(b)その政策提言を行い(c)効果について定量的に検証するための調査をすることである。
研究方法
まず吉田は非公的部門のうち家計が供給する社会福祉としてのボランティアの供給に注目した。そしてその供給要因の定量的な見地からの確認および公的な社会福祉と非公的な(ここでいう家計のボランティア)社会福祉の代替性を検証することとした。はじめに、予算時間制約のもとで効用を最大化する代表的家計のモデルを用い、ボランティア活動参加率に関する分析を行った。次に、その理論の妥当性を検証するために研究実施時点で最も新しい統計である『平成11年 社会生活基本調査』について都道府県別にボランティアの参加率のデータを収集した。これを被説明変数として、説明変数にあたる、年齢構成、学歴、地域の公的部門による社会福祉の多寡等のデータについては、社会生活統計指標を使って収集し、OLSにより回帰分析を行った。以上の結果、公的部門と非公的部門の代替性の可能性が見られたので、平成15年9月に行われた日本計画行政学会この結果について報告を行った。吉田が国内のデータに基づいた回帰分析を行ってゆくと同時に、日野は吉田の研究には含まれない国外の事情を知るため、スウェーデンの医療・福祉など社会サービス分野の協同組合の役割および実態について、文献的研究を進めた。研究の結果、福祉事業における協同組合企業の可能性が、スウェーデンについて可能性が大きいことが明らかとなったため、平成15年9月6日に行われた日本医療経済学会第27回研究大会にこいて「スウェーデンにおける新自由主義的医療改革」として報告したほか、その成果は、『協同組合と福祉国家─協同組合の可能性にふれて』,日本生活協同組合連合会医療部会の形で公刊された。吉田、日野がマクロレベル、国家レベルのアプローチを行う一方で、佐々木、藤井は地域、ミクロレベルの調査を進め、研究全体の構成を補完していった。佐々木は、介護保険事業計画や介護保険事業支援計画におけるサービス種別の計画値と実績値の比較、および産業連関分析によって、計画上の値から得られる経済効果と実際の効果との差異を検討する手法を採用した。併せて公的・準公的機関が中心となっている自治体において、それらの事業の収支が自治体財政、特に福祉関連の財政支出といかなる関係にあるかについて検討した。藤井は、児童福祉部門について、非公的部門への事業の助成の内容を明らかにするため、仙台市の家庭保育室から「せんだい保育室」に移行した保育園(以下せんだい保育室、26園)とせんだい保育室移行のための準備をしている保育園(以下家庭保育室24園)を調査対象と定め、郵送調査により(催促状1回)、平成16年2月18日~3月15日の間にアンケート調査を行った。最後に主任研究者ならびに研究分担者が協力して、年金、医療や福祉等について公的部門と非公的部門の利用選択および世代会計による公共政策の効果の測定のための基礎データを得、研究を定量的に総合し、かつ次年度研究のためのプレ調査の意味もこめて、利用者に対する独自のアンケート調査を(学生を除く20歳以上の男女300サンプル)企画した。調査に当たっては、プライバシー等倫理面の遵守に配慮しつつ、まず利用した医療・福祉サービスに関する公的・非公的部門
の選択の現状をたずね、次にそのサービスを利用、選択した理由を明らかにしている。そして、選択の変更や今後の利用の意向、自己責任によるリスクに対する経済的準備状況などを尋ねた後、最後に、医療、老人福祉、児童福祉について、満足度を公的部門、非公的部門別に調査を行うというプロセスを踏むことで研究を完成させていった。
結果と考察
第1に、非公的部門の社会福祉の例として、家計のボランティアの参加要因を経済学的見地から分析し、あわせてこの分野における公的部門と非公的部門の代替性を確認するため、経済学的なボランティア供給モデルを作成した。そして、都道府県別集計値のデータを用い、ボランティア活動行動者率について実際に回帰分析を行った結果、学歴の高さや身体的に支援を必要とする者の存在等については有意に正の推計値が得られた。また地域自治体の社会福祉費支出については有意にマイナスであったことから、行政の供給する社会福祉と家計の供給する福祉(本稿でいうボランティア)が代替関係にある可能性がわかった。第2に、医療サービスについて、スウェーデンの医療・福祉など社会サービス分野の協同組合の役割および実態について、今年度は文献的研究を行った。その結果、協同組合企業形態は、福祉国家から福祉社会へのバージョンアップを図っているスウェーデンにおいて、戦略的に重要な意味を持つこと、また2000年代初頭にスウェーデンの医療政策に見られた「市場志向」について医療の中側から市場志向が登場したのではなく、政治的・イデオロギー的環境という外側から登場し、そのために1994年に政権が中道・左派連立に戻ると、市場志向は急速に弱まったことなどが明らかになった。第3に、介護サービスについて、(1)介護保険事業計画や介護保険事業支援計画におけるサービス種別の計画値と実績値の比較、および産業連関分析によって、計画上の値から得られる経済効果と実際の効果との差異を検討し、(2)公的・準公的機関が中心となっている自治体において、それらの事業の収支が自治体財政、特に福祉関連の財政支出といかなる関係にあるかを検討した。その結果、産業連関分析において直接・間接効果を合わせた生産誘発額÷介護給付費の値は大都市圏のほうが高いこと、自治体内の介護サービス全体における直営事業の比率が増大すると、一般会計歳出に対する直営事業の影響度が増大すること、直営介護サービス事業は地方圏において相対的に重要性が高く、近接自治体が合同して直営介護サービス事業を提供する方式をとれば、小規模自治体であっても財政的な負担の少ないサービス提供が可能であると考えられること、自治体直営事業の経営状況はその規模に依存し、利用者数が多ければ黒字経営も可能であることが分かった。第4に、調査結果、家庭保育室からせんだい保育室に移行した園は、①せんだい保育室についての疑問を抱きながら平成17年度に家庭保育室に対する助成が打ち切られるので移行したという「非自発的移行」をしていること、②有資格者数,施設面での安全,3歳未満児の保育料負担,経営面での安定等の面では家庭保育室のときとさほど変わりないこと、③情報公開については保護者の関心が高く保育園側も肯定的な反応を示していること、④回答数は少ないが助成対象外児童の受け入れや学童保育など多様なサービスをやめている園がいること、⑤移行に伴って市からの規制が強まり、助成の少ない3歳以上児や小規模の園が多いだけに長時間保育による職員の時間配分が困難であること、⑥せんだい保育室制度は保育サービスの質の面では役に立つが、多様な保育サービス提供には役に立たないという答えが多く、⑦仙台市は利用者やサービス提供者の視点に立って制度を計画し実施に踏み切ったわけではないことが明らかになった。今回の調査では、①せんだい保育室に移行した園と移行準備中の園ともに3歳以上児の助成額が運営や移行準備に当たって障害となっていること、②せんだい保育室制度は保育現場で保育サービスの質の面と多様なサービスの提供という面で高い評価を得ていないこと、③行政の民間事業者に対する規制者として
の役割が強く、行政と利用者およびサービス提供者とのパートナーシップが弱いことが明らかになった。
第5に、インターネットによる利用者へのアンケート調査の結果に従えば、公的な供給主体は非公的な供給主体に比べ、満足度の水準およびばらつきの面について問題が伺えることが判った。また、公的部門の社会福祉を補完するプライベートな社会福祉(ボランティア)については、60%近くの回答者が実際におこなったまたは行ってみたいと答えていた
結論
高齢社会において、世代会計に現れた公的部門を中心とした社会保障の財源のための将来世代の負担の問題を軽減するため、本研究の結果を総合すれば、医療および社会福祉の供給主体として公的部門を民間営利部門に部分的にシフトしたり、市場化したり、家庭内に一部機能を担わせることは可能であり、効果も認められると考えられる。
しかし、本研究のいくつかの部分で指摘されたように、非営利部門がまだ未成熟であったり、シフトのための事業がうまく機能していなかったりする例があるので、実際的なシフト、あるいはケースミックスの要件についてはさらに調査をする必要がある。

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