職場環境等の改善等によるメンタルヘルス対策に関する研究

文献情報

文献番号
200201405A
報告書区分
総括
研究課題名
職場環境等の改善等によるメンタルヘルス対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
下光 輝一(東京医科大学衛生学公衆衛生学教授)
研究分担者(所属機関)
  • 川上憲人(岡山大学大学院医歯学総合研究科教授)
  • 小林章雄(愛知医科大学医学部衛生学教授)
  • 中原隆俊(京都大学大学院医学研究科教授)
  • 渡辺直登(慶応義塾大学大学院経営管理研究科教授)
  • 岩田 昇(東亜大学総合人間・文化学部助教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
8,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、職場環境等の改善を通じたメンタルヘルス対策を全国的に普及・推進するために、職場環境等のストレスの評価・改善技術およびその普及・推進のための環境整備のための方法を整理・開発し、行政施策への提言と職場環境等の改善のための実践的なマニュアルを提供することを目的とした。
研究方法
平成14年度は以下の2のテーマのもとに研究を実施した。
1.職場環境等の改善を通じたメンタルヘルス対策推進のための環境整備に関する研究 1)職場環境等の改善の実態と阻害要因の質問紙調査を実施した(下光)。2)職場環境改善の実施手順及び導入にあたって、①人事・労務、衛生担当者、産業保健スタッフによる議論、②3事業場における職場環境改善対策を展開し、その中での職場環境改善対策についての問題点の検討、③海外における職場の心理社会的環境調査のためのガイドラインの参照を行い、職場環境改善の実施手順と一般的な留意点について検討した(小林)。3)メンタルヘルスに関する職場環境を改善するための従業員ならびに管理監督者向けの教育・研修の現状について質問紙調査を実施した(中原)。
2.職場環境等の改善のための技術開発に関する研究
1)職場環境等の評価方法の改善に関する研究では、①職業性ストレス簡易版調査票の評価方法について再検討、②新しい職場ストレス要因の評価法として注目されている努力‐報酬不均衡モデルの日本人労働者への適用評価について解析し、③客観的ストレス指標に関する文献的検討の3つの研究を実施した(岩田)。2)職場環境等の有効な改善方法を明らかにし、これを支援するために、①職場環境等の改善方法とその効果について文献レビュー、②新しい理論に基づいた職場環境等の評価および改善方法の可能性についての検討、③職場環境等の改善事例の収集とアクションチェックリストの素案の作成を実施した(川上)。3)メンタリングに関する研究として①インフォーマル・メンタリングとその影響に関する質問紙調査、②公式メンタリング・プログラムに関する聞き取り調査、③メンタリングに関する文献の翻訳を実施した(渡辺)。
結果と考察
下光分担研究者は、ストレスの原因となる職場環境等について「人事労務担当者や産業保健スタッフは理解しているが、管理監督者は理解していない」、とする事業場が多く、また、管理監督者による職場環境等の改善についても管理監督者ごとに対応が異なっていることが明らかとなった。この阻害要因としては、事業場の業績が優先されること、および管理監督者の理解不足が挙げられており、心の健康づくりにおけるラインによるケアの重要性が、個々の事業場においてはまだ浸透していない現状がうかがわれた。産業保健スタッフによる職場環境等の評価は20%程度の実施率であり、この阻害要因として、産業保健スタッフのマンパワー不足、評価のための指標がわからないなどがあげられていた。また、改善にあたっての阻害要因として、職場環境等の改善がストレスの軽減や生産性の向上につながるような科学的根拠や身近な事例を示せないことが挙げられていた。 小林分担研究者は、職場環境改善の実施手順および導入にあたっての留意点について検討し、1)職場環境改善を含むメンタルヘルス対策がうまくいかない理由について、①トップの支援の欠如、②産業保健スタッフの問題、③事業所内の雰囲気など、④休職者への対応、⑤復職にかかわる問題、⑥仕事上の問題、⑦対策等に分類した。2)3つの事業所における職場環境改善対策を展開し、その中での職場環境改善対策についての問題点の検討、3)海外における職場の心理社会的環境調査のためのガイドラインの参照をおこない、職場環境改善の実施手順と一般的な留意点について整理した。 中原分担研究者は、メンタルヘルス教育の実態とそのあり方に関して、メンタルヘルスの健康教育活動が社内に存在するか否かで社員のメンタルヘルスの問題が発生したときの捉えかた(上司の責任)と対処(労災認定、緩和勤務)が異なることを指摘し、さらに今後もメンタルヘルスに大きな影響を与えることになるリストラの行われ方についても、メンタルヘルスの健康教育活動が社内に存在するか否かで影響が異なることを明らかにした。 岩田分担研究者は、研究1では、職業性ストレス簡易版調査票の高次因子分析を行い、さらに、ストレス反応との関連性から各ストレッサー項目の至適スコアリングを検討した。このスコアリングにより尺度得点化し、ストレス反応との関連性を検討すると、わずかながらオリジナルのものより関連性が高まった。研究2では、某企業6社の従業員を対象とした調査より、努力‐報酬不均衡モデル (ERIモデル)に基づくリスク群の同定法である『努力/報酬』比 (ER比)の弁別閾値を変化させたところ、ほとんどの閾値でリスク群が有意に高いストレス反応を示した。さらに、「報酬」を構成する3因子 (R1:金銭・地位、R2:尊重、R3:職業の安定性)それぞれを用いてER比を算出してみると、ER2 (尊重)比で最も高い弁別性が認められた。金銭よりも、就いている職業や仕事振りを評価されることの方が重要であるという、日本人労働者の労働観を反映する結果と解釈できる。研究3では、客観的ストレス指標に関する文献的検討として、ベルリン工科大学で開発された観察評価法を概説しその有用性を議論した。 川上分
担研究者は、1)職場環境等の改善方法および効果評価についての文献レビューの結果、職場環境等の改善が従業員のストレスの軽減に効果的であること等を示した。これらに基づいて、職場環境等の改善を効果的に進めるための、5つのステップが提案された。2)努力―報酬不均衡モデルは、現代の就労状況を反映したストレスフルな職場環境を評価することができ、身体的精神的健康に関する種々のアウトカムに対する予測妥当性は高く、努力―報酬不均衡モデルに基づいた職場環境等の改善を試行する場合、中長期的には疾病休業、短期的には精神的自覚症状およびセルフ・エスティームをアウトカムとする介入研究は有効性が高いと考えられる。3)職場環境等の改善事例の収集とアクションチェックリストの開発では、全国から44の職場環境改善の事例が収集された。また職場環境等の改善の視点を8つに分類することができると考えられた。これらに基づいて「メンタルヘルス対策に重点をおいた職場環境改善のためのアクションチェックリスト(案)」が作成され、このチェックリストはメンタルヘルス研修会において有用であることが示された。 渡辺分担研究者の変貌する職場組織と職場環境の改善に関する研究で、人々が働く中で有してきた「プロテジェ経験」、その中でも特に享受したメンタリング行動の量がその後の職場における支援行動や職務態度、ストレス反応に影響を及ぼしていることが明らかとなった。過去、より多くのメンタリング行動を享受した人々は、現在においてより多くのメンタリング行動を提供し、また組織市民行動にも従事している傾向が指摘でき、さらには、過去により多くのメンタリング行動を享受した人ほど、職務満足が高く、ストレス反応が低いという傾向も確認された。第2研究は、公式メンタリング・プログラムに関するした国内企業を対象と聴き取り調査を行い、十分な効果を挙げられずにいる原因について明らかにした。その結果、メンタリングの2機能性(「キャリア的機能」と「心理・社会的機能」)を生かした支援行動の実施、ならびに適切なモニタリングが、プログラムの組織への定着、ひいては心理的に健康な組織風土を形成する鍵となっていることが明らかになった。第3研究は、メンタリングに関する古典的文献であるKathy Kram(1985)の「Mentoring at Work: Developmental Relationships in Organizational Life」の全文翻訳を行った。
結論
職場環境等の改善を通じたメンタルヘルス対策推進のための環境整備に関して、職場環境等の改善の実態と阻害要因、および職場環境改善の実施手順及び導入にあたっての留意点について検討し、同時に、メンタルヘルスに関する職場環境を改善するための従業員ならびに管理監督者向けの教育・研修の現状を明らかにした。また、職場環境等の評価法について検討し、国内外の職場環境等の改善事例の収集・分析および新しい職業性ストレスの理論に基づいた、職場環境等の改善技術を整理・新規開発し、これを現場で使用できるようにするためのアクションチェックリストの素案を作成した。さらに雇用・労働形態の変化にともなって変貌する職場組織を考慮した職場環境等の改善について、特に職場組織へのアプローチについて文献レビューおよび事例検討を行い、その評価・改善の方法論を整理した。以上、各方法論が検討され、これをもとに来年度は現場での試行、効果評価研究を実施する予定である。

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