新しい肝がん発症予防法および治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200201394A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい肝がん発症予防法および治療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
橋田 充(京都大学大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡野 光夫(東京女子医科大学先端生命医科学研究所)
  • 米谷 芳枝(星薬科大学医薬品化学研究所創剤構築研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 肝炎等克服緊急対策研究(肝炎分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
17,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1) 癌細胞への抗体や特異的受容体などで修飾した薬物含有微粒子製剤が癌の治療に有効と考え、今回アクラシノマイシン(ACM)を封入した葉酸修飾マイクロエマルション(FM-ACM)の構築を試みた。さらに、PEG化マイクロエマルションのPEGの先端に葉酸を結合させた葉酸修飾血中滞留性マイクロエマルション(FM) の開発により、PEGによる血中滞留性の向上、ならびに葉酸による癌組織部位への特異的送達を狙う。(2) 治療効果を高めるためには薬物特性にあったナノ粒子担体の選択、すなわち抗癌作用機構や副作用スペクトルの異なる種々の薬物のナノ粒子製剤開発が必要である。例えば、トポイソメラーゼ阻害剤であるカンプトテシンは非常に高い抗癌活性を示すものの水溶性が低く投与が困難なためin vivoでは充分な効果が期待できない。本研究では、カンプトテシンなどの抗癌剤を安定・高収率で内包する方法論を開発し、固形ガン、特に肝臓ガンに効率よく運ぶ高分子ミセルターゲティングシステムを設計・作成する。(3) 細胞内への取込み後の動態制御を目的として機能性高分子であるポリエチレンミンに着目し、糖修飾と組み合わせることによって、新しい肝細胞選択的遺伝子導入ベクターの開発を試みた。(4)癌細胞の転移過程において重要な役割を演じる活性酸素を消去するカタラーゼをデリバリーする技術を開発し、癌の肝転移に対する治療法の開発を目指す。さらに、その抑制メカニズムの機構としてマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の発現を解析する。
研究方法
1) 高分子ミセルナノ粒子の設計:ポリエチレングリコール-ポリ(b-ベンジルL-アスパルテート)ブロックコポリマーをもととし、さらにベンジルエステルを部分的に加水分解した。(2) 高分子ミセルへの薬物封入法の検討:抗癌剤のカンプトテシンを用いて、3種類の異なった封入方法(透析法、エマルション法、エバポレーション法)を適用した。(3)葉酸結合脂質の合成およびマイクロエマルションの調製:葉酸をPEG脂質の先端にN,N'-dicyclohexyl- carbodiimide によって結合して、葉酸-PEG脂質を合成した。マイクロエマルションの組成は葉酸-PEG脂質、コレステロール、ビタミンEとし、アクラシノマイシン(ACM)を加えて修正エタノール注入法で調製した(FM-ACM)。(4)葉酸修飾マイクロエマルションの癌細胞ターゲティング能の評価:蛍光ラベル物質であるDiIでラベルした葉酸修飾マイクロエマルション(FM-DiI)と葉酸非修飾マイクロエマルション(M-DiI)を調製した。in vitroでの取込み評価には、葉酸受容体の存在が確認されているヒト咽頭上皮癌細胞KB細胞を用いた。(5) ガラクトース修飾ポリエチレンイミンによる肝細胞選択的遺伝子導入:遺伝子分子量の異なるポリエチレンイミン(PEI1800、PEI10000、PEI70000)と2-imimo-2-methoxyethyl-1-thio-galactosideを反応させ、Gal-PEIを合成した。さらに、ルシフェラーゼをコードしたプラスミドDNA(pCMV-Luc)と複合体を形成させ、in vitro遺伝子発現および細胞取り込みを検討した。また、in vivoにおける遺伝子導入効率を検討するために、マウス門脈内に投与し、肝臓での遺伝子発現を調べた。(6)カタラーゼ誘導体による癌転移抑制実験:カタラーゼのガラクトース誘導体を合成した。Colon26癌細胞を門脈内投与し、3日後にカタラーゼ誘導体を静脈内に投与して一定期間後に肝臓癌結節数を計数した。
結果と考察
(1) 高分子ミセルの調製:カンプトテシンの高分子ミセルへ導入は、透析法、エマルション法では封入効率が最大でも20%程度と低かったのに対し、エバポレーション法で
はほぼ100%の効率で封入できた。さらに、ブロックコポリマーの疎水性置換基は、ベンジル基とメチルナフチル基を40?60%程度置換したときにミセルへの封入の安定性が高かった。(2)葉酸修飾による細胞へのターゲティング:マイクロエマルションの細胞取り込み量を測定したところ、葉酸修飾したFM-DiIはM-DiIに比べて高い細胞取り込みを示した。また、2mMの葉酸共存下、取り込みが有意に阻害され、細胞内への取り込みは葉酸受容体を介していることが確認された。さらに、FM-ACMはM-ACMに比べ、高い癌細胞に対してより顕著な細胞毒性を示す傾向が認められた。また、葉酸修飾PEGがPEG鎖5000(FM5000/2000-ACM)のときPEG2000(FM2000/2000-ACM)よりも細胞内へのACMの取り込みが高かった。(3) ガラクトース修飾ポリエチレンイミン(Gal-PEI)による肝細胞選択的遺伝子導入:3種類のPEI( MW 1800、10000、70000)のガラクトース誘導体を合成した。すべてのPEI誘導体はpDNAと複合体を形成し、分子量が大きなPEIほど小さな複合体を形成した。Gal-PEIではPEI10000が高い遺伝子導入効率を示した。Gal-PEI10000あるいはGal-PEI70000のpDNA複合体の遺伝子発現は、高濃度のガラクトース共存下で顕著に小さくなり、アシアロ糖タンパク質レセプターの関与が示された。門脈内投与後のGal-PEI/ pDNA複合体による遺伝子発現は、in vitroとは異なってGal-PEI70000で最も大きく、複合体の大きさなど、細胞毒性以外の因子も重要であることが示唆された。(4) カタラーゼ誘導体による肝癌転移抑制:colon26細胞を門脈内投与して作成した肝転移モデルマウスを各種カタラーゼ誘導体で処理した。2週間後に肝臓の癌結節数を計数したところ、特に肝実質細胞指向性を示すガラクトース修飾カタラーゼ(Gal-CAT)で高い効果が認められた。マウスマクロファージとcolon26細胞を共培養したところ癌細胞によるMMP-9の分泌が顕著に増大し、カタラーゼ処理によって抑制されたことから、単球やマクロファージに由来する活性酸素の消去がin vivoにおける効果に関与する可能性が示唆された。
結論
新しく開発したエバポレーション法を利用することによって薬剤をほぼ100%高分子ミセルに封入できることが明らかとなった。葉酸修飾マイクロエマルションは、抗癌剤を癌細胞に選択的にデリバリーするために有効な方法であることが示された。Gal-PEIは、抗腫瘍活性を有するIFN-bやIFN-g遺伝子の肝細胞への導入に有効なキャリアとなり得ることが示された。肝臓選択性を有するカタラーゼ誘導体Gal-CATは癌の肝転移抑制薬として期待できる。

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