EBMを指向した「診療ガイドライン」と医学データベースに利用される「構造化抄録」作成の方法論の開発とそれらの受容性に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201338A
報告書区分
総括
研究課題名
EBMを指向した「診療ガイドライン」と医学データベースに利用される「構造化抄録」作成の方法論の開発とそれらの受容性に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中山 健夫(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 津谷喜一郎(東京大学大学院薬学系研究科)
  • 福井次矢(京都大学大学院医学研究科)
  • 木内貴弘(東京大学医学部・大学院医学系研究科)
  • 山崎茂明(愛知淑徳大学)
  • 野村英樹(金沢大学医学部)
  • 稲葉一人(科学技術文明研究所)
  • 平位信子(医学中央雑誌刊行会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本課題の目的は次の2点である。(1)診療ガイドライン」作成に資する医学文献の形として「構造化抄録」に注目し、その普及を通じてEBMプロセスの効率化を目指す。(2)わが国における「診療ガイドライン」の意義と課題を医学内だけではなく社会的な広がりの中でとらえ、適切な位置付けを提言する。良質な「診療ガイドライン」が各領域で整備されることへの社会的期待は大きい。「診療ガイドライン」が適切に機能するには、その策定過程と実際の利用法に注目する必要がある。海外文献はPubMedやThe Cochrane Libraryにより比較的効率よく入手できる。その背景にはエビデンス・レベルの高い患者指向の研究が広く行われていることもあるが、データベース内の適切な見出し語、MeSHやPublication typeが付与されてEBM指向の検索に対応していることも大きい。このシステムを効率化する一法として国際的に注目されているのが「構造化抄録」である。国内でも徐々に普及しつつあるが、必要にして十分な情報を含む「構造化抄録」の在り方は十分検討されていない。EBMの実践に役立ち、「診療ガイドライン」策定に際して文献へのアクセスビリティを高めるには今日的なニードを反映させた「構造化抄録」の普及が望まれる。公表された「診療ガイドライン」は、医師だけの手にあるものではなく、社会との接点でもある。今後「診療ガイドライン」を意思決定の基準と考える医療消費者は増えようし、従来以上に広い領域で医療訴訟の判断の拠り所と見なされるであろう。しかし「診療ガイドライン」の持つ不確実な部分やその限界、拘束力の妥当性についての認識が医療者間だけでなく、非医療者との間でも共有されていなければ今後大きな社会的齟齬を生じる懸念がある。「診療ガイドライン」策定と併せて、より広い社会的な議論に備えこれらの課題を整理することは急務である。本研究により期待される効果は次の通りである。(1)「構造化抄録」作成の教育プログラムが開発され、「構造化抄録」作成のための具体的方法が示される。(2)「構造化抄録」の普及により、「構造化抄録」を用いたより質の高い「診療ガイドライン」やデータベースの作成に貢献できる。(3)研究者・編集者において患者指向の研究に適した研究デザインはじめEBMの意義がより広く認知される。(4)「診療ガイドライン」を介して医療者と非医療者のコミュニケーションを深める基盤ができる。
研究方法
構造化抄録関連課題については、初年度に行った有力国際誌の執筆規定と実際の掲載論文の検討についてより広い範囲の雑誌を対象として検討を進めた。またPubMedに新たに付されたsystematic reviewの検索機能を用いて、国際誌で報告されるメタ・アナリシスの抄録形式の検討を行った。構造化抄録の採用と論文自体の質との関連を検討する評価ツールとマニュアルの作成を行った。診療ガイドラインに関しては特に、その作成過程における消費者参加の可能性を検討した。主として医療関係者を対象としたワークショップと、医療消費者を対象とした2回のワークショップを行なった。医療消費者を対象としたワークショップでは、実際に患者向けとして作成された診療ガイドラインの実物をもとに、消費者の視点で評価を行った。同時に法律的、歴史的な文脈からの診療ガイドラインの位置づけ、医師の裁
量(professional autonomy)との関係について考察を行った。
結果と考察
今年度は「構造化抄録がランダム化比較試験の報告の質・情報量に与える影響の研究」にため、ランダム化比較試験の評価基準であるCONSORT声明の邦訳と使用マニュアルの作成、評価方法の標準化、ワーキンググループのトレーニングに取り組んだ。また海外誌の投稿規程における抄録形式の指示を、複数の専門領域のジャーナルを対象に進めている。生物医学雑誌の統一投稿規定(昨年度に邦訳紹介)の採用状況、抄録形式の指示など、ジャーナルによって大きなばらつきがあることが明らかとなった。国内文献についてもJHESプロジェクトによる臨床試験データベースの充実・活用、医学中央雑誌における「研究デザイン」フィールド構築の支援を通じて、良質な情報伝達のインフラストラクチャー整備を進めている。診療ガイドラインについては、2002年11月、金沢において医療関係者によるワークショップ(約60人参加)をEBM研究会と共催し、小集団討議の成果をKJ法でまとめ、診療ガイドラインに関する諸問題の構造化に取り組んだ。また2003年2月には医療消費者団体である“COML"との合同企画で、患者が期待する診療ガイドラインについてワークショップを実施した。診療ガイドラインの構造的評価、法的課題についても引き続き検討を進めている。2003年3月には英国のNational Institute for Clinical Excellence (NICE), Patient Involvement Unit(PIU), National electronic Library for Health(NeLH)などを訪問し、診療ガイドラインを中心とした医療情報の提供・活用システム、診療ガイドライン作成過程における消費者参加のシステムの現状と課題について情報収集・意見交換を行った。医療者からは制約性の強い診療ガイドラインに対する不安が述べられたのに対して、医療消費者からはおおむね良好な受け取られ方がされていた。しかし診療ガイドラインが患者の視点を取り入れているか、という問題に対しては多くの不満が示された。
結論
本研究により期待される効果は次の通りである。
本年度は患者指向の診療ガイドライン作成の実現可能性についての検討を深めた。医療者・医療消費者双方を対象としたワークショップにより、多くの貴重な意見・提案を集約することができた。また先行モデルとして英国におけるPIUの活動の実際を知ることができたのは大きな成果であった。国内では現在、日本医療機能評価機構で進められているEBM医療情報サービス事業では、医療者にとどまらず国民全体への質の高い医療情報の提供を目指しており、そこでも医学文献や診療ガイドラインの構造化抄録作成の重要性が確認されている。同事業の推進のためにも本研究班の成果は大いに役立つものと予想される。

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