病院経営品質測定技法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201279A
報告書区分
総括
研究課題名
病院経営品質測定技法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小山 秀夫(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
4,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、医療福祉の質の向上のために、医療福祉組織の経営品質評価スケールを開発することである。一般企業で用いられているマルコム・ボルドリッジ国家賞(The Malcolm Baldrige National Quality Award:以下MB賞)の審査基準や日本経営品質賞の基準は、わが国の医療福祉分野ではいまだ浸透していない。わが国の医療福祉分野でも、医療福祉組織全体の機能の評価だけでなく、経営と医療福祉の質の関係についても着目した評価基準が必要である。そこで本年度の研究では、組織経営の質の観点に着目する米国の経営品質評価基準であるMB賞ヘルスケア版の考察・分析を行い、わが国医療福祉分野独自の経営品質評価基準の作成が可能かどうかの検討を行うことを目的とする。
研究方法
本研究の一年度目である今年度は、以下の研究を行った。第一に、米国で「現代経営の教科書」的存在となっているMB賞プログラムの審査基準について、創設の背景分析と目的考察を行った。第二に、MB賞ヘルスケア部門賞の概要、特にヘルスケア審査項目と審査プロセス及び採点システムの分析を行った。第三に、ヘルスケア部門賞の審査手順について分析を行った。ヘルスケア部門賞は、2002年度に初めて受賞組織が選ばれた段階であり、ケーススタディの資料収集に限界があった。そこで、MB賞を主催する国立規格技術研究所(NIST)による審査員準備コースのための資料である架空のヘルスケアシステムによるケーススタディを参考にして、MB賞ヘルスケア部門賞への具体的な審査基準を再考し、申請書類、組織プロフィール、スコアブック等の資料から、審査員の選定や業務、遵守事項や採点システム等、審査の方向性や審査員の判断基準などの分析を行った。第四に、収集した情報、文献をもとに、研究委員会を開催し、MB賞ヘルスケア版の審査基準項目の分析と、わが国へのMB賞プログラム導入と活用の可能性の検討を行った。第五に、米国におけるヘルスケア評価・認定機構の整理を行い、MB賞との比較検討を行った。第六に、MB賞の考え方を模して日本版として展開している日本経営品質賞について、その概要についての分析を行った。
結果と考察
今年度の研究により、以下の結果が得られた。第一に、MB賞は、組織の卓越性を審査表彰する国家プロジェクトであること、及びヘルスケア部門も国家表彰の重要な領域であることが明らかになった。MB賞は、米国産業の競争力強化を目的として策定され、審査表彰制度は、卓越したパフォーマンス組織の選出、第三者評価、セルフアセスメントの効果があることが明らかになった。MB賞は、審査基準の7つのカテゴリー(①リーダーシップ、②戦略策定、③顧客・市場の重視、④情報と分析、⑤人的重視、⑥プロセスマネジメント、⑦業績)をフレームワーク化し、経営品質・経営改善に必要な要素をマネジメント・モデルとして構造化している等が明らかとなった。第二に、MB賞は、提供する商品やサービス組織とマネジメントを包括統合した審査認定手法を持つものであり、患者や利用者を最優先する提供プロセスをもつ組織を高く評価しようとするものであり、わが国の保健医療福祉分野にとって今後必要な観点となることが確認できた。第三に、ヘルスケア活動の成果は、疾病の治癒率向上と死亡率の低下、医療過誤訴訟率の低下などだけではなく、地域住民全体の健康水準向上に貢献した度合い等、地域への貢献度を重点評価している。ヘルスケア版は、MB賞ビジネス版をベースとしており、7つのカテゴリーからなる審査基準、基本的考え方等、審査方法など、一般企業活動の観点をヘルスケア分野に適用する審査基準となっており、経営戦略管理運営システム、患者・利用者・顧客第一主義、地域貢献の
重視などを評価視点として重視している。ヘルスケア版審査基準の基本的考え方として、ビジョナリ・リーダーシップ、患者・利用者・顧客主導の卓越性、組織と個人の学習、スタッフとパートナーの尊重、俊敏性、将来重視、革新のためのマネジメント、事実に基づくマネジメント、公共的責任と地域医療、成果の重視と価値の創造、システム的視点に着目しており、今後はこれらの項目分析が必要であることが示唆できた。第四に、ヘルスケア版の審査プロセスは、ヘルスケアの質が組織マネジメントの質に左右されるという認識に立脚しており、提供プロセスや組織管理手法、及びマネジメント・プログラムを重点審査することを特徴としている点などである。特に、審査基準では、カテゴリーをフレームワーク化することで、組織活動の相互関連性、仕組みの一貫性を重視していることが特徴である。
上記の検討をふまえ、継続して資料収集、分析を行い、MB賞研究の深化と医療や福祉提供組織の評価認定システムの進化を追求する必要性が明らかになった。また、わが国における保健医療福祉分野において、重要な課題であるとともに、MB賞が米国産業界に与えた影響等を考えると、わが国の保健医療福祉分野にもその必要性が大きいと考える。
結論
MB賞ヘルスケア部門賞設置の背景には、経営品質の改善による競争力強化、ヘルスケア費用の削減、異業種部門とのベストプラクティス情報の共有などの効果の期待がある。わが国においても、一般企業活動の質的評価の観点から審査項目領域や評価認定方法、審査プロセスの有効性を研究することで、同様の効果が期待できる。また、保健医療福祉分野においても、同様にMB賞がもたらす効果による経営品質の向上が期待できる。MB賞の審査基準では、各組織が膨大な量の審査項目に対する記述形式を用いており、それにより各組織の取り組みを整理できることが一つのポイントになっている。審査基準項目の内容の検討に加え、審査制度の持つ機能や、審査の仕組みにも着目し、実際にMB賞ヘルスケア版の審査基準をわが国のヘルスケア組織に当てはめた場合どのような問題点や課題点が生じるのか、詳細な検討が必要である。そこで、今後は、研究委員会を開催し、医療福祉組織管理者による調査票素案の検討を行い、ISO取得病院並びに同等病院・組織にプリサーベイの調査結果について、分析し、それをもとにわが国の医療福祉版審査基準並びに経営品質調査票を作成する必要がある。さらに、作成した調査票について、プリサーベイを実施し、研究会・研究協力施設による検討を行う。最終的には、医療福祉分野の経営品質調査票、医療福祉分野の経営品質評価基準を作成し、それがわが国の医療福祉分野に実際に適用可能かどうか、その効果は政策的に有用かどうか等の検討を行うことにより、わが国における保健医療福祉分野版のMB賞の創設が可能となり、保健医療福祉の経営品質の向上に寄与できるものと考える。

公開日・更新日

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