医療安全確保のための看護体制のあり方に関する調査研究

文献情報

文献番号
200201274A
報告書区分
総括
研究課題名
医療安全確保のための看護体制のあり方に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
井部 俊子(聖路加国際病院)
研究分担者(所属機関)
  • 阿部俊子(東京医科歯科大学)
  • 小島恭子(北里大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療機関における人員体制は、診療報酬上の基準として決められているものの、これまで業務量に応じた安全性あるいは妥当性の観点からの指針は示されてこなかった。急性期医療では病床数の削減、入院日数の短縮といった政策誘導が行われる一方、患者の高齢化や治療内容の複雑化は医療提供の最前線にいる看護師に多大な影響を及ぼしており、その安全性が問われている。医療の高度化・専門化に対応できる安全な看護体制について検討することが求められている。本研究では、病院における患者安全確保の観点から、安全な看護提供体制のあり方を検討し、今後の医療安全を推進する上で必要な提言を行うことを目的とした。
研究方法
医療機関における看護師の人員体制について、医療の高度化・専門化に対応できる安全な職員配置を実現するための方策を検討するため、病棟管理者を主な対象としたセミナーを開催し、医療分野における夜間体制の現状、および他産業における夜間体制に関する取り組みや最新の知見について把握・検討した。参加者へのアンケートを行い、現場で行っている医療安全上の人員体制面での工夫や現在抱えている課題について把握した。さらに、セミナーに参加した看護管理者を中心に、安全の観点から看護体制のあり方について検討するための研究会(会員数59名)を組織し、平成14年12月~2月の期間に計5回の研究会を開催した。安全を確保するための先駆的なしくみや体制を採用している医療施設の看護管理者等(研究会メンバー及び外部の医療機関関係者)からその取り組みと問題点、提言などを発表してもらい、研究会でのディスカッションを通じて医療機関における人員体制のあるべき姿について検討した。収集された先進的事例を整理、分析し、事例集として取りまとめた。また、米国OSHA、NASAの資料などを基にして、看護師の人員配置のための理想的勤務スケジュールあるいは交代制勤務への対策を検討した。新人看護師20名とプリセプター15名を対象とした半構成的面接により、新人看護師の特性と新人看護師がおかれている環境についてその現状を記述し分析した。上記によって把握された医療分野における現状と課題、他分野における取り組み、先進的事例の分析等を踏まえ、医療安全の観点から見た課題を整理し、医療安全確保のための対策を検討した。
結果と考察
安全確保のための先駆的な事例として以下のような事例を収集・分析し、他の医療機関で参考になる要点を抽出した。看護の体制に関する事例として「新人のステップアップを考えた業務体制の改善」「チーム固定した受け持ち体制」「病棟ごとの業務量を考慮した日々の人員配分調整システム」、病院全体の体制に関する事例として、「夜間メッセンジャーの導入」「医療安全確保のための臨床検査技師による採血体制の導入」「物品供給のシステム化による間接業務の軽減」、救急部門に関する事例として「救急患者受け入れ体制の現状と問題点」、新人教育に関する事例として「新人教育に関する工夫・取り組み」などを整理した。これら収集された事例を基に「医療安全のための看護体制に関する事例集」を作成した。理想的な交代制勤務に関する検討では、交替制勤務は、看護師の身体的・精神的・社会的健康と安全に多大な影響を与える可能性があり、交替制勤務に対して、組織レベル、個人レベルでの対策が必要であること、前者の主なものには、勤務スケジュールの改善があり、ローテーション方向と速さを適正に設定する、適正な連続勤務や休日を設定するなど10項目の改善ポイントがあり、後者には、睡眠の保護、運動の実施、息抜きの技術の習得などがあり、その中でも睡眠
の取り方が重要であることなどを把握した。新人看護師の特性及び環境に関する分析では、半構成化面接によって得られた逐語記録を質的データとした因子探索型内容分析により、新人看護師の特性及び置かれている環境に関して「基礎教育との連続性の欠如」「新人看護師の看護の場での混乱」「医療の場の捉え方」「新人の現状」「先輩看護師の存在」「医療事故に対する感覚のずれ」といったカテゴリーが得られ、これらを構造化し図示した。上記で把握された医療の人員体制に関する現状及び課題や、先進的事例の分析等を踏まえ、医療安全の観点から見た課題を整理した。医療の高度化、人口の高齢化、社会の24時間化、権利意識の向上など社会的な変化を背景に、特に急性期を担う医療機関において安全確保の観点から人員体制上の問題が大きな課題となっていることが指摘された。それらの課題は、病棟単位の看護体制のあり方に関するものから、医療機関全体の理念や体制に関するものまで幅広い要因が関係していることが示された。具体的には「医療機関としての夜間の対応体制の問題」「夜間の部門間の業務分担と連携の問題」「新人など職員の質の不均一性と教育の問題」「出産や育児休業の問題」「交代制勤務の適正化に関する問題」などが指摘された。また、「救急」「小児(NICU含む)」などの部門における課題も指摘された。これらの課題を踏まえ、医療安全確保のための方策を検討・提案した。
結論
本研究では、急性期病院の現場における患者の安全の観点から見た人員体制に関する現状や課題、他の分野における安全と人員体制に関わる取り組み、米国における適切な人員体制に関する知見を把握し、医療分野における先駆的な取り組みの事例集を作成した。また、新人看護師の特性および環境について分析した。これらを踏まえ、医療安全の観点から見た課題を整理し、今後の医療安全確保のための方策を検討・提案した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-