エステティックサロンにおける身体危害の防止に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201124A
報告書区分
総括
研究課題名
エステティックサロンにおける身体危害の防止に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大原 國章(虎の門病院)
研究分担者(所属機関)
  • 戸佐眞弓(まゆみクリニック)
  • 山下理絵(湘南鎌倉総合病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全身美容を行ういわゆるエステティックサービス業は、1985年頃から急速に利用者を増やし台頭してきた産業である。その一方でエステティックサービスをめぐる消費者とのトラブルも比例して増加傾向にある。そして、消費者との間で起こっているトラブルの大半は、役務提供にかかわる契約や販売方法に関するものであるが、近年、提供される施術サービスの広がりに伴って熱傷、湿疹、色素沈着等々皮膚への危害報告も多くなっている。
3年計画の2年目に当たる今年度の調査研究は、昨年の同調査研究において結論付けた消費者への身体危害を引き起こす原因(サロンごとの衛生管理基準の不統一、技術者の知識レベルの差異)を受けて、医学的見地からエステティシャン養成施設、事業者それぞれから教育の実態等について調査することで、消費者危害との関連性を調べ、公衆衛生の向上及び消費者危害の防止、消費者利益の保護に資することを目的とした。
研究方法
本調査研究は、以下の6つの方法で研究調査を行った。
(1)エステティシャン養成施設を対象とした教育実態に関するアンケート調査及び面談調査。ここでは、養成施設の運営母体、入校の条件、教育時間数、使用教材、指導者の所有資格、教育内容等について質問した。
・エステティシャン養成施設実態調査アンケート
アンケート郵送数……171校 うち回答数……25校
・施設訪問及び面談調査……9校
(2)経営者を対象にしたエステティックサロン内での従業員教育の実態に関するアンケート調査。このアンケート調査では、従業員の教育方法、教育のカリキュラムの有無、使用テキスト、理論教育及び実技教育の指導ポイント、現在のエステティッシャン養成制度への不満等について質問した。
・エステティックサロンにおける従業員教育アンケート
アンケート郵送数……929店 うち回答数……264店
(3)エステティシャン養成施設の就学生を対象にした危害防止に関する意識調査。エステティックサービスによって身体への危害があることを知っているか、身体危害はどのようにすれば防げるか、エステティシャンとして学ぶべき知識等について、全問記述式で回答を求めた。
・エステティシャン養成施設就学生の意識調査
アンケート配布数……321人 うち回答数……268人
(4)フランスにおけるエステティック技術者の公的資格制度に関する現地調査。エステティック先進国として、わが国のエステティック業界に大きく影響してきたフランスにおけるエステティシャンの公的資格制度及び教育制度、教育現場の実態等について面談調査を行った。
(5)フェイシャルケアで複数の消費者に繰り返し使用される備品類の衛生管理に関する臨床試験。サロンで提供されている施術サービスの中で最も導入率の高い営業種目フェイシャルケアの際に、複数の消費者に対し繰り返し使用される備品類の衛生管理状態、使用時における菌の付着状況と種類について臨床試験を行った。
・被験者数……成人女性25人
・検査備品……スポンジパフ、回転ブラシ、ガラス管等
(6)化粧品原料の刺激性に関する臨床試験。エステティックサロンで使用される洗剤、化粧品などの皮膚への影響を検査した。
・被験者数……成人女性21人、成人男性10人
・検査方法……パッチテスト
・検査原料……色素=6種類、防腐剤及び殺菌剤=8種類、界面活性剤=8種類、油剤=8種類、酸化防止剤=3種類、香料=9種類、金属イオン=16種類、日常製品アレルゲンとして=23種類
結果と考察
エステティシャン養成施設に関する調査で、現在の養成施設ではフェイシャルやボディのスキンケア、リラクゼーションをサロンで行うための教育に主眼がおかれていることが分かった。しかし、スキンケアやリラクゼーション目的の教育であったとしても、養成施設の事情等で教育時間数にかなりの差があった。と同時に、必要と思われる基礎理論の教育カリキュラムは整っているものの、それらの教育内容そのものは十分とはいいがたい。教育時間数が短く、教えるべき教科数が増えれば、必然的にその内容は浅くなり、専門知識の修得が十分にできるとは考えにくいからである。また、教育に使用する教材については、ほとんどが日本エステティック協会発行のテキストを使用している。テキストとして利用できる他の教材が非常に少ない点も基礎教育や専門教育が充実しない原因である。しかし、教材の選択肢が増えることで、それぞれのエステティシャン養成施設が特徴を明確に打ち出し、より専門的な教育を模索できるきっかけになると思われる。現状のままでは、サロンの多様化する営業種目に適応できるエステティシャン育成にはなりにくく、結果として消費者危害を未然に防ぐという課題は残したままになると思われる。
さらに、知識・理論よりも技術修得を重視する教育傾向が強く、技術さえ出来ればいいといった、安易な即戦力エステティシャン育成の姿勢には疑問を感じる。こうした背景には、サロン側が“すぐにお金の稼げるエステティシャン"の雇用を優先する傾向が根強く残っていることも否定できない。サロン現場においても同様の傾向が顕著で、エステティシャンがお客の肌をきちんと見極め、適正なサービスの提供が可能になるような専門知識の充実に投資するよりも、早く技術を覚えさせたいといった姿勢が強い。
フランスでは、初級レベルのエステティシャン資格を取得するために、2年間の教育を受け、さらに筆記試験、口頭試問、実技試験に合格した者だけがエステティシャンとしてサロンで就業できる。わずか300時間、あるいはもっと少ない教育時間数でエステティシャンとして就業できるわが国の現状を鑑みると、エステティックサービスによる消費者への身体危害の防止という課題は、なかなか克服しきれないように思われる。
結論
エステティックサービスの大部分は既存の衛生法規等で規制されていないため、新規参入の激しい分野であり、消費者の美容意識の向上とあいまって市場は拡大した。しかし、教育や整えるべき設備基準の未整備な状態が続き、また安全性や有効性の確立されていない手法及び機器等による施術が行われている。こういった現状から、公衆衛生の向上及び消費者利益の保護に資するために、教育や設備基準の整備、新しい施術の安全性を検証するシステム等の確立、危害への対応マニュアルの整備などすべきことは多い。今後、安全に役務提供が行われるようにするためには、エステティシャンが学ぶべき基礎的な理論教育カリキュラムを構築し、サロン現場に必要な各種マニュアルを整備しなければならない。そしてそれらをエステティック業界に浸透させることにより、消費者危害が防止されるであろう。

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