労働者の健康要因としての睡眠と休養の役割と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201109A
報告書区分
総括
研究課題名
労働者の健康要因としての睡眠と休養の役割と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
前原 直樹(財団法人労働科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木司((財)労働科学研究所)
  • 関由起子(群馬大学医学部医学部保健学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
-円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、生活習慣の中では従来あまり重視されてこなかった睡眠と休養に焦点をあて、疲労やストレスの発現と回復・解消、さらには循環器疾患やうつ病などの疾患の発症や増悪に果たす睡眠と休養の役割を健康の阻害要因と生成要因の両側面から検討し、睡眠環境などの諸条件の改善と余暇生活の支援策によりそれらの効果を評価することを目的とした。本研究は、長時間労働や過密労働が問題視され、国民の多くが疲労やストレスを訴える現状にあって、現代のわが国の典型的労働態様である長時間労働や裁量労働を行っているホワイトカラーと夜勤・交代制をとっている看護職員や製造業労働者を対象者として、睡眠と休養の役割と評価法について検討する3カ年計画の2年度である。このため、2年目の今年度は、疾病や疲労・ストレス状態を含めた各種の健康水準と睡眠不足や余暇・休日の時間的圧迫との関係を検討し、どのような労働・生活条件及び個人要因が現状の睡眠と余暇生活のあり方を歪めているかを検討した。
研究方法
本研究の全体プランと今年度の個別調査に関しての詳細については労働科学研究所内に設置されている「調査研究に関する倫理委員会」の審査を受け、承認を受けた(平成14年8月30日)後、調査が開始された。また、研究対象者には調査目的とプライバシーの配慮を文書などで説明・理解を求め、特に「生理的・主観的・行動指標を用いての疲労・ストレスに関する時系列調査」での対象者には目的と測定項目及び結果の表示の仕方を十分に説明した上で同意を得て実施した。「過労死・突然死事例による調査」では、事例の被災者および家族に調査の主旨を説明、同意を得てから資料提供をうけ、発表の了解も得た。
1. 各種業種・職種における睡眠と休養に関する文献学的調査
今年度の計画では平成13年度に実施した出版関連労働者の健康アンケート調査データをもとに、労働時間の長短による影響を再解析し、長時間労働における睡眠と休養の実態を解析した(Ⅱ-1-1-1長時間労働)。VDT作業/IT作業では、ITワークに注目し、平成13年度に調査を行ったデータについて解析を加えた(Ⅱ-1-1-2 VDT/ITワーク)。また、夜勤・交代制勤務で、かつ長時間労働の典型例である事業用自動車運転手を対象として文献的考察を加えた。この項目(Ⅱ-1-1-3事業用自動車運転)の検討は、90年代初頭からの主任研究者らの調査研究およびそれをもとにした論文・発表を主に資料として用いて行った。睡眠・休養不足の健康/安全への影響に関する文献学的検討も行った。健康への影響では、循環器系への影響を取り上げ、脳血管障害と心疾患の発症・進展のリスクアクターとして大きな役割を果たしている、血圧変動と高血圧、さらに不整脈を検討材料として取り上げた(Ⅱ-1-2.睡眠不足と健康・疾患(循環器))。業種・職種による循環器影響の差異は大きいことが判っているため今回は職種として事業用自動車運転手に限定して検討した。一方、安全問題の解明を睡眠不足や休養不足の面からも取り上げた(Ⅱ-1-3. 睡眠不足と安全)。この種のレビューは極めて少ないため、今回は対象範囲を限定せずに網羅的に検討した。また、本研究は、健康水準の低下や疾病の発症・悪化を睡眠不足や余暇生活の圧迫などの生活上の危険因子の側からだけ検討するのではなく、より健康な方向への心身の改善や変化を促す健康要因の側から現状の睡眠や余暇生活のあり方を解明しようと企図しているので、ゆとり概念の整理、健康生成要因の研究の到達点、レクリエーションの概念の整理など、余暇生活と睡眠・休養の関連性についての文献学的検討も行った(Ⅱ-1-4. 余暇生活と睡眠・休養)。
2. 生理的・主観的・行動指標を用いての疲労・ストレスに関する時系列調査
2-1. 看護師での調査事例
1) 1週間程度の時系列調査による疲労・ストレス状態と睡眠・休養との関連の解明
12時間勤務制と8時間勤務制に就いている一般病棟勤務の看護師37名を対象として、夜勤および夜勤後の心身状態が「夜勤明け日-休日」の経過で回復するか否か、夜勤中の仮眠の有無や長短により負担軽減効果に違いがあるか否かを検討した。
2) 睡眠の量的、質的低下と作業中のミス・ニアミスとの関連の解明
調査は3病院、計6病棟で行われた。A病院では調査日数10日間、看護職員数95名で、対象看護職員の勤務日総数は545日であり、B病院の調査は7日間、総数23名、勤務日総数は104日、C病院では10日間調査で、対象総数23名、勤務総日数は112日であった。ワークシートを開発し、種々の時刻と共に注射・与薬業務での「ニアミス」について記入を求めた。
2-2. 製造業での調査
3ヵ月にわたる実態調査の一貫として「休憩の取り方の検討のための介入調査」を実施した。現在の休憩パターンに加え、新たに、午後の休憩を2回入れる休憩パターンを2通りの作り出し、1週,5日間の実作業で休憩の効果を検討した。この調査の対象者は中年3名で行った。
3. 過労死・突然死事例による調査
既存のクモ膜下出血(SAH)事例3例を検討した。
4. 睡眠と余暇生活での不足状態チェックリストの予備的調査
平成15年度の調査のためのアンケート票「休養に関するチェックリスト」を作成すると共に対象職場での聞き取りを含め、予備的検討を行った。
結果と考察
1. 各種業種・職種における睡眠と休養に関する文献学的調査
長時間勤務者の場合、全体として睡眠時間の短い者が多く、慢性的な睡眠不足感を訴え、起床時の気分も悪かった。また、ITワーカーの疲れの程度は労働時間の長さに依存し、疲労感が強い日には職場外のIT労働時間が長かった。事業用自動車運転手の調査事例では疲労状態が増す中で運転している様相が共通して見られた。勤務条件が悪い時などには運転中の眠気も容易に誘発されていた。休養が不十分な時には運転手のわずかな行動ミスが重大事故を招きかねないことも想定された。また、過労状態にある有疾患者がさらなる睡眠不足を機に脳心事故を起こす場合もありうることも示された。
2. 生理的・主観的・行動指標を用いての疲労・ストレスに関する時系列調査
2-1. 看護師での調査
夜勤交代制の看護師では、夜勤途中の休憩時間、特に仮眠の挿入が慢性的な疲労の防止策として有効であった。特に長時間夜勤制においては十分な仮眠時間の挿入が必要となることが判明した。未就学児をもつ看護婦では連続休日と共に家庭での睡眠時間の確保が必要であった。調査では前日の睡眠の様相や作業中の眠気と「ニアミス」との直接の関連性は明瞭ではなかった。
2-2. 製造業での調査
自動車組立作業では午後の休憩を2回挿入し、一連続作業時間を短くすると負担が軽減した。
3. 過労死・突然死事例による調査
既存のクモ膜下出血(SAH)事例3例の解析から、その発症・進展には過労やストレス状態が関連していることが示唆された。
4. 睡眠と余暇生活での不足状態チェックリストの予備的調査
「休養に関するチェックリスト」を作成すると共に対象職場での聞き取りを含め、平成15年度調査にむけての準備を行った。
結論
(1)長時間勤務者の場合、全体として睡眠時間の短い者が多く、慢性的な睡眠不足感を訴え、起床時の気分も悪かった。また、ITワーカーの疲れの程度は労働時間の長さに依存し、疲労感が強い日には職場外のIT労働時間が長かった。
(2)事業用自動車運転手の調査事例では疲労状態が増す中で運転している様相が共通して見られた。勤務条件が悪い時などには運転中の眠気も容易に誘発されていた。休養が不十分な時には運転手のわずかな行動ミスが重大事故を招きかねないことも想定された。また、過労状態にある有疾患者がさらなる睡眠不足を機に脳心事故を起こす場合もありうることも示された。
(3)夜勤交代制の看護師では、夜勤途中の休憩時間、特に仮眠の挿入が慢性的な疲労の防止には必要であった。特に長時間夜勤制においては十分な仮眠時間の挿入が必要となることが判明した。未就学児をもつ看護婦では連続休日と共に家庭での睡眠時間の確保が必要であった。調査では前日の睡眠の様相や作業中の眠気と「ニアミス」との直接の関連性は明瞭ではなかった。
(4)自動車組立作業では午後の休憩を2回挿入し、一連続作業時間をすると負担が軽減した。
(5)クモ膜下出血の発症・進展には過労やストレス状態が関連していることが示唆された。

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