「健康日本21」における栄養・食生活プログラムの評価手法に関する研究

文献情報

文献番号
200201105A
報告書区分
総括
研究課題名
「健康日本21」における栄養・食生活プログラムの評価手法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
田中 平三(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木敏(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 梅垣敬三(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 伊達ちぐさ(大阪市立大学医学部公衆衛生学)
  • 吉池信男(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 中村美詠子(浜松医科大学衛生学教室)
  • 石田裕美(女子栄養大学栄養管理研究室)
  • 中村雅一(大阪府立健康科学センター脂質基準分析室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「健康日本21」における栄養・食生活プログラムを国あるいは地域レベルで推進する際に、個人及び集団での栄養素等摂取状況や栄養状態を適正な手法を用いて評価することは、科学的な根拠に基づく保健政策上きわめて重要である。しかし、わが国においては、公衆衛生的な視点と結びついた実践栄養学的研究は極めて少ない。そして、現場で使用されている各種質問票も科学的検証がなされたものはほとんど無く、保健所や市町村の栄養士等からは、個人及び集団に対する栄養診断のための有用なツールを望む声が大きい。このような行政上のニーズに応えることを明確なゴールとして、地域保健現場等で必要とされる各種ツールを科学的な根拠に基づいて開発し、有用性を検証し、提供することを本研究課題の目的とする。
研究方法
(1) 食事摂取及び栄養状態を表す各種生体指標の検討:ビタミンCに関して、従来から用いられている血漿に加えて、口腔粘膜細胞、好中球、リンパ球について、実地での適用可能性を調べるために、地方の保健センター等での調査時に、血液サンプルの処理、保存、輸送等に関して、条件を変えながら実験を行うとともに、リンパ球測定試料を迅速に調製できる方法の開発を行った。
(2) 生活習慣病予防対策を主たる目的とした新しい食事評価法の開発及び検証:① 生活習慣病との関連が示唆されている栄養素で、その摂取量を反映する生体指標が存在するという報告がある22種類(血中濃度として15種類、24時間尿中排泄量として7種類)の栄養素を選択し、全国4地区(大阪、鳥取、長野、沖縄)において20~69歳男女約300人を対象として、年間を通じて計5時点で、5種類の食事調査票(食事歴質問票、食物摂取頻度調査法等)、7日間の食事記録調査を行うとともに、採血・24時間蓄尿を実施した。②20歳から60歳代の都市住民(東京、名古屋、大阪)男女約600人に実施した24時間思い出し法による食事調査データベースを解析し、食物摂取頻度調査法を開発するとともに、49種の料理(Mixed Dish)について実物サイズの3次元フードモデルを製作した。
(3) 地域集団における栄養関連指標の疫学的評価手法に関する検討:① 平成13年度に実施した都道府県等の栄養調査担当者に対するアンケート調査結果等に基づいて、栄養調査マニュアルの基本構成を検討した。② 国民栄養調査データベースに関する基礎的検討結果(平成13年度実施)に基づいて、全国調査である国民栄養調査データを、さらに地域でも有効に活用されうる栄養データ集として編集した。③ 調味料の使用量から実際の摂取量を推定する方法の標準化を目的とし、特に今年度は油の使用量から摂取量を推定する方法に絞って実験的検討を行った。素揚げの吸油量データについてはその算出方法を標準化し、文献的整理を行い、標準値を決定した。炒め物、焼き物、和え物については調理実験を行い、標準値を検討した。また、衣のある揚げ物についてはその推定方法の標準化のための実験方法の検討を行った。④ 過去5年間の国民栄養調査の食生活状況調査で用いられた調査項目と栄養素等の摂取量及び身体指標との関連について統計解析を行った。また、米国における全国健康・栄養調査やBehavioral Risk Factor Surveillance Systemにおける栄養・食生活に関する評価指標を検討した。⑤ 日本医師会による臨床検査精度管理調査に関して、平成14年度臨床検査精度管理調査評価規準を参考資料として、評価評点方式の妥当性の検討を重ねた。更に、大阪府立健康科学センターが開発した臨床検査室向けのHDLコレステロールとLDLコレステロールの標準化プロトコルを実際に運用した。
結果と考察
(1)食事摂取及び栄養状態を表す各種生体指標について、「健康日本21」関連地域栄養改善プログラムへの応用方法を検討し、以下の結果を得た。① ビタミンCに焦点を当て、実地応用可能な体内レベルの評価指標に関する検討を行い、口腔粘膜細胞や好中球は多くの集団を利用した実地応用の試料としては測定感度または試料調製において不適であるがリンパ球は適していること、リンパ球測定試料を迅速に調製できる方法を開発した。実験室レベルの基礎的検討結果を踏まえて実地応用を行ったところ、個体または小規模の集団の状況を評価する指標としてはリンパ球ビタミンC濃度が適しているが、集団が大きくなれば、血漿ビタミンCで評価しても大きな問題がないことを明らかにした。② 20歳から60歳代の都市住民(東京、名古屋、大阪)男女約600人(性別・年代別に約50~80人)に実施した24時間思い出し法による食事調査結果を基礎資料として、調理知識が少ない人でも回答し易いように、料理を質問項目とした食物摂取頻度調査法を開発した。さらに平均的な1回当たりの摂取量も回答し易いように3次元フードモデルを利用して推定することにした。74項目の食物摂取頻度調査法を開発し、49種の料理(Mixed Dish)について実物サイズの3次元フードモデルを製作した。③ 全国4地区(大阪、鳥取、長野、沖縄)において20~69歳男女約300人を対象として、年間を通じて計5時点で、5種類の食事調査票(食事歴質問票、食物摂取頻度調査法等)、7日間の食事記録調査を行うとともに、採血・24時間蓄尿を実施している。
(2) 都道府県栄養調査等「健康日本21」地方計画策定・評価のために行われる集団レベルでの栄養関連指標の評価手法の検討し、以下の結果を得た。① 栄養調査マニュアルの基本構成を構築し、マニュアル作成チームを組織した。現在個々の項目について内容を検討している。② 国民栄養調査データベースを用いて、都道府県別に体格、歩数、食品・栄養素摂取量に関する基礎統計量を求め、これらのデータを栄養マップとして視覚的に表示し、栄養データ集を作成した。③ 「健康日本21」の評価指標として有用なものを抽出するために、過去5年間の国民栄養調査の食生活状況調査で用いられた調査項目と栄養素等の摂取量及び身体指標との関連について統計解析を行った。④ 食事調査における脂質摂取量を推定する方法の標準化を目的として、揚げ物、炒め物、和え物料理において調理に使用する油脂量の食品への吸油量ないし付着量を実測し、食品への吸油量、付着量あるいは食品からの脱脂量の変動を測定した。吸油量、付着量、脱脂量は食品の水分量や脂質含有量と関連し、食品中の脂質含有量の多い素材の料理の場合、調理に使用した油脂量を摂取量とすると過大評価する可能性が高いことが明らかとなった。 ⑤ 日本医師会による臨床検査精度管理調査とCDC/CRMLNによる国際脂質標準化プログラムを選択し、14年度の国民栄養調査(検査委託機関: SRL)に適用した。平成14年度の第36回臨床検査精度管理調査によれば、ブドウ糖や尿酸などの主な生化学検査の10項目は、調査参加者の調整平均値±1SDもしくは±2SD以内に入るA評価もしくはB評価を取得した。CDC/CRMLNのプログラムでは、総コレステロールの場合、正確度が-0.9%、精密度はCVで0.5%、HDLコレステロールの場合、正確度が+0.7%、精密度はCVで0.7%を記録し、脂質の測定精度は国際的な評価基準を満たしていることが再確認された。
結論
「健康日本21」地方計画の策定及び推進のためには、国民栄養調査方式をベースとした都道府県や市町村における栄養調査により“地域診断"を行い、科学的に妥当かつ現実的に実施可能な方法で、集団およびそれを構成する個人に対して栄養教育・指導を行うことが必要である。今年度は、初年度での基礎的検討を受けて、より具体的なアウトプットを目指して研究を進めた。すなわち、地域保健現場における栄養評価及び指導において、ビタミンC等の生体指標が活用可能であることが明らかとなった。また、数種類の食事調査方法の妥当性に関する基礎データの収集を継続的に行うとともに、食物摂取頻度調査法及びそれを実地で行うためのツール(3次元フードモデル)を開発した。地域集団を対象とした栄養状態の評価手法に関しては、都道府県等における栄養調査の技術的基盤に関する現状とニーズを受けて、栄養調査マニュアル及び資料集の作成にとりかかった。また、栄養調査を高い精度で実施するために不可欠である調味料等の取扱い方に関する基礎データを得るとともに、血液検査における精度管理が地域における栄養調査等でも適用されるための検討を行った。これらは、健康増進法に基づいて平成15年度より行われる国民健康・栄養調査を、「健康日本21」の評価システムとして実施する上でも必要とされる事項である。

公開日・更新日

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