「健康日本21」の到達目標達成度の評価手法に関する実践的応用研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201103A
報告書区分
総括
研究課題名
「健康日本21」の到達目標達成度の評価手法に関する実践的応用研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
柳川 洋(埼玉県立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 三浦宜彦(埼玉県立大学)
  • 藤田委由(島根医科大学)
  • 坂田清美(和歌山県立医科大学)
  • 渡邊至(自治医科大学)
  • 小林雅與(栃木県安足保健福祉センター)
  • 神田晃(昭和医科大学)
  • 児玉和紀((財)放射線影響研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「健康日本21」における目標の設定にあたっては、ターゲットとなる人口集団の各層(性、年齢、地域、社会的な属性)について、健康状態、危険因子の状態、サービスの提供状態の現在値を把握し、その上で健康改善の可能性を総合的に評価するものである。本研究は、市町村、第2次医療圏などの地域単位で具体的に作業を進めていく場合の各種保健統計資料の利用方法、現状把握のための疫学調査方法の提示を目的としている。
研究方法
1.地域における生活習慣改善度の評価に関する研究(坂田、柳川)
全国市町村に働きかけて、昨年度作成した「健康日本21地方計画に伴う現状把握のための調査マニュアル」を利用し、全国集計に参加した23地区の現状をまとめた。
2.都道府県単位の保健サービスの効果測定に関する研究(神田)
国民栄養調査の成績を用いて、総コレステロール、HDL-コレステロール、動脈硬化指数、トリグリセリド、グルコース、ヘモグロビンの異常値の出現割合を都道府県別に計算した。
3.保健所所管の行政データの活用に関する研究(小林)
「健康日本21」到達目標達成度の評価指標として、老人保健法に基づく基本健康診査及びがん検診成績の利用について検討した。
4.評価データの収集方法と解析方法の開発(渡邉)
国や自治体で行われている各分野の政策、施策、事業において用いられている政策評価方法を健康日本21地方計画を含む保健分野への適用の可能性を検討した。
5.長期追跡集団における体重減少が死亡に及ぼす効果の疫学的検討(児玉)
放射線影響研究所(RERF)の12万人からなる寿命調査集団におけるBMIのレベルならびに25歳時点の体重と郵便調査時点の体重差別に人年法により全死因死亡率を計算し、相対危険度を算定した。
6.地域における耐糖能水準の評価方法に関する研究(藤田)
老人保健法に基づく基本健康診査の資料より、空腹時血糖とヘモグロビンA1cを用いた耐糖能異常のふるい分け基準について検討した。
7.小地域単位の保健サービスの効果測定に関する研究(三浦)
市町村単位で経年的に入手可能な統計資料より、「健康日本21」地方計画の評価指標を作成する。
結果と考察
1.地域における生活習慣改善度の評価に関する研究(坂田、柳川)
「健康日本21地方計画に伴う現状把握のための調査マニュアル」を実際に利用して現状調査を実施した23地区の概要をみると、①BMI25kg/m2以上の肥満者の割合は、男では年齢が若い程、女では60歳代が最も高い、②野菜を毎食摂取する者、牛乳を毎日飲む者、果物を毎日摂取する者の割合は、年齢と共に高くなる、③意識的な運動をいつもしている者の割合は、男女共年齢と共に増加、④最近1か月以内に非常に強いストレスを感じた者および睡眠による休養がよくとれていない者の割合は、男女共に若い世代程高い、⑤飲酒および喫煙習慣のある者の割合は、男女とも年齢が高くなる程低くなる、⑥糖尿病または高血糖といわれた者の割合は、男では60歳代が最も高く、女では年齢が増加する程高い、⑦糖尿病の治療を要する者のうち、40歳代では男の3分の1、女の4分の1の者が必要な治療を受けていない、⑧60歳以上の者で、積極的に外出する者の割合は、年齢と共に低下、地域活動をしている者の割合は、70歳代で最も高い、⑨過去1年間に歯科検診、歯石除去、歯面清掃などを受けた者の割合は、年齢と共に低下、などの成績が得られた。
昨年度開発した調査マニュアルを使用することにより、「健康日本21」に掲げられた数値目標の約4割に相当する26項目の数値目標の評価が可能になる。本調査において得られた情報であれば、市町村独自で実施可能と思われるが、人口数千程度の町村を多く抱える二次医療圏では、医療圏単位で実施する方が現実的な場合がある。残りの6割については、栄養調査等他の方法を用いて調査する必要があるが、時間的にも財政的にも相応の負担が必要であり、都道府県単位で実施することが望ましい。
血圧、高脂血症、糖尿病などの指標については、健康診査を受診した者のデータを性別、年齢別、地域別に解析し、セレクションバイアスに十分配慮しながら利用しなければならない。
小児期からの健康管理については、学校保健の担当者である、教育委員会、学校長、学校医、養護教諭との連携が不可欠であり、肥満、朝食欠食の問題、喫煙・飲酒対策、口腔衛生といった問題について幅広く対策を講じる必要がある。
今回の解析から多くの項目は年齢に依存していることが分かった。このことは、それぞれの目標を設定する場合、年齢別に指標を設けるかあるいは予め年齢を調整した指標とする必要があることを意味する。
2.都道府県単位の保健サービスの効果測定に関する研究(神田)
グルコース110mg/dl以上の出現割合の都道府県格差は減少傾向であったが、出現割合の平均値は上昇傾向を示した。患者調査による糖尿病受療率も上昇傾向にあった。この事実から、グルコース高値者の減少を目標とした、肥満の軽減、運動支援等の取り組みの必要性が示唆された。
HDL-コレステロール低値及び動脈硬化指数3以上の出現割合が低下傾向を示したのは、運動習慣を有する者の増加による改善と考えられる。
都道府県のなかでこれらの指標の格差が好ましくない方向に移動した地域が集積する傾向が見られたが、これらの地域に関しては、生活習慣病の二次予防への方策の強化が必要である。
都道府県レベルで生活習慣病関連検査値の推移を分析することは、健康日本21に関連する今後の都道府県レベルの保健医療計画において、健康状態のモニタリング、二次予防、及び格差是正の対策に有用である。
3.保健所所管の行政データの活用に関する研究(小林)
老人保健事業報告の基本健康診査受診者数及び有所見者数を全国を基準にして、市町村単位で検討することにより、早期発見対策の評価が可能である。基本健康診査が、主として循環器疾患の重要な二次予防対策であることから考え、高血圧や高脂血症を危険因子とする脳卒中の標準化死亡比(SMR)の状況も加味して、基本健康診査の実施状況とその成果を評価すべきである。
町に比べて市が、健診受診者数が少ない傾向を示し、市においては、要指導者数及び要医療者数が少ない傾向がみられた。この市では、脳卒中SMRが全国に比べて高いので、受診者数を増加させ、より多くの有所見者を早期に発見し、医療や指導につなぐことが、脳卒中対策上必要である。
胃がん検診についても、胃がんSMRと胃がん検診受診者数及びがん発見数について比較して検討した。胃がんSMRが高い所では、検診受診者数を増やし、患者発見数を増加させる必要がある。
高血圧、肥満及び高血糖については、既に健康づくり計画で取り上げている課題であり、減少傾向の見られない年齢層については、対策の見直しが必要である。肥満者については、男では増加傾向、女では減少傾向が観察された。このような傾向の観察は、肥満対策を検討する上で有意義なことと考える。
高血糖者についても特定の年齢層で、その割合が減少傾向を示しており、健康診査の効果が示唆された。
4.評価データの収集方法と解析方法の開発(渡邉)
(1) 評価指標と行政活動のレベル
行政評価の指標はアウトカム、アウトプット、インプットに代表される生産性指標と顧客満足度、シンプルプロセス、職員満足度に代表されるサービス指標に分けられる。行政にとっての顧客は納税者とサービスの受益者であり、前者には生産性や効率性、後者には満足度を示す必要がある。政策は大局的な目的、施策は政策到達のための具体的目標、事業は施策到達するための具体的手段であるので、政策・施策レベルでは、成果(アウトカム)を中心に、事業レベルでは投入する資源(インプット)やその活動結果(アウトプット)を中心に評価することとなる。
(2) 評価時期と内容
対策実施前の評価には目標設定と評価システムそのものの評価がある。前者については、既存資料や新規調査資料により、事業と施策、政策の組み立てと到達目標が体系的で矛盾がないか、複数の案を作成して、それぞれのコストや労力、予想される効果などを比較したかという内容である。後者には、評価のための情報収集の計画、評価指標、評価者、長期データ収集の可能性、評価デザインなどが含まれる。
対策実施中の評価としては、参加者数、使用者数、指標の変化、実施上のシステムの問題点、人的・物的資源の適正性、スタッフの対応、住民の反応などを定期的に評価することである。
対策実施後の評価は、実施前に策定した評価プランに基づいて実施し、数値目標の到達度、単位成果あたりのコスト、参加者数、参加者の意識・満足度の変化、実務レベルの改善点、住民の反応、スタッフの反応、近隣の波及効果などを含む。
5.長期追跡集団における体重減少が死亡に及ぼす効果の疫学的検討(児玉)
肥満度からみた死亡の相対危険度は、男性ではBMIが23.3kg/m2で死亡率がもっとも低く、女性では男性より少し高いBMI23.8kg/m2を底とし、U字型のリスクパターンを示していた。
また、25歳時から調査時までの体重の変動からみた死亡の相対危険度を、25歳時の体重と調査時の体重の差が0の人を基準にして観察した。男性では25歳時から6.2kg体重が増えた者が死亡率は最も低く、女性では25歳時から4.7Kg体重が増えた者の死亡率が最も低いことが判明した。男女とも体重の減少が大きい者は死亡危険が著しく大きくなる傾向がみられた。今回の検討では、肥満もやせも死亡率が高くなる傾向がみられた。
6.地域における耐糖能水準の評価方法に関する研究(藤田)
ヘモグロビンA1c値5.5%をふるい分け基準にして糖尿病型の者を識別する敏感度は48%、特異度は96%であった。特異度は高いが、敏感度は低い結果が得られた。
敏感度に影響を与える偽陽性者は食後時間と関連が強いことが明らかになった。基本健康診査受診者に空腹時に受診するように指導しても、食後短時間で受診する受診者は避けられないと考える。偽陰性者は心血管系疾患の危険因子を持つ者が多い。空腹時血糖値は正常でも、心血管系疾患の危険因子に対する保健指導と食事指導は必要であると考える。偽陰性者は基本健診日より一定期間前より食生活をコントロ-ルしている可能性も考えられる。地域における耐糖能水準の評価には空腹時血糖値よりヘモグロビンA1c値の方が食事の影響が少なく、保健指導に適すると考える。
7.小地域単位の保健サービスの効果測定に関する研究(三浦)
(1)傷病別都道府県別受療率(総数,35歳以上,1996,1999年)の分布図14図、(2)傷病別都道府県別総患者率(総数,35歳以上,1996,1999年)の分布図14図、(3)傷病別二次医療圏別年齢調整入院受療率(総数,1996,1999年)の分布図14図、(4)埼玉県の傷病別二次医療圏別年齢調整入院受療率(総数,1996,1999年)分布図14図、の計56図を検討して、各々の傷病の地域差の推移を明らかにした。
結論
1.健康日本21地方計画策定に伴う現状把握のために必要最小限の労力で、計画策定に必要な調査のための「調査マニュアル」を作成したが、これを一部の市町村で使用し、「健康日本21」であげられている数値目標の40%の情報が得られることがわかった。
2.過去11年間の国民栄養調査結果より、総コレステロール、HDL-コレステロール、動脈硬化指数、トリグリセリド、グルコース、ヘモグロビンの異常値出現割合の都道府県格差及びその推移を示し、健康日本21の到達目標及び都道府県別達成度評価の指標として利用できることを明らかにした。
3.健康日本21計画の事業評価を行う上で、保健所の持つ情報のうち基本健康診査資料の活用方法を明らかにした。
4.保健事業の評価を行うには、系統的な評価プランを立案、実行できる専門の組織や人材が必要である。また、評価データが、相互比較が可能な形式で公表、蓄積されることが、今後の施策の展開にとって重要である。
5.放射線影響研究所における寿命調査集団を対象に、BMIのレベルごとの全死因死亡のリスクパターンと、体重変動にともなう死亡リスクについて検討を加えた結果、BMI23程度が死亡のリスクが最低であり、25歳から中年期にかけて5kg程度体重の増加した者が死亡のリスクが最低でり、体重が減少した者では死亡リスクが高くなっていた。
6.基本健康診査成績より、耐糖能水準の評価には空腹時血糖値よりもヘモグロビンA1c値の方が食事の影響が少なく、保健指導に適することが示唆された。
7.患者調査から得られる総患者数と人口から求められる総患者率を「健康日本21」の都道府県の健康指標として用いることは有用であり、入院受療率も、二次医療圏レベルの指標として使用可能である。

公開日・更新日

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