健康度の測定法及び計算式の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201101A
報告書区分
総括
研究課題名
健康度の測定法及び計算式の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
川村 則行(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小牧元(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
過去の研究において、Exposure(曝露)として800項目の質問紙の情報(生育歴、ストレッサー、気質、性格、服薬歴、緩衝要因)、Surrogate(エンドポイントの代用:細胞性および液性免疫、健康診断データ)とOutcome(エンドポイント:疾病休業日数、各種生活習慣病の発症)に関する情報を蓄積した。 これらを用い、個人の健康度の指標を表現する目的で、Exposure、SurrogateとOutcomeのsubcategoryの関係を繋ぐ数式・アルゴリズムを、discriminant analysisとgeneral linear modelを用いて、非公開で作成した。この数式・アルゴリズムが、同一集団および異なる集団にて、SurrogateとOutcomeのsubcategoryの予測に役立つか否かを検証し、適宜、修正を加え、簡略化し、実用に耐えうる、健康度の指標として確立することを目指す。本研究の最終目的は、21世紀に望まれる order-made preventive medicine の構築である。その第一段階として、いかなる個人からも、簡便に得ることの出来る必要最小限の情報によって、疾患の発症を何処まで予測できるか、何を変えれば、発症しないかという帰納的知見を、日本人集団で構築する必要がある。本研究では、健康度を幾つかのサブカテゴリーにわけ、サブカテゴリー毎の健康度を、ある一時点の個人の情報から、一定の計算式および、アルゴリズムで数値化し、それらサブカテゴリー毎の数値に基づき、個別の個人用の order-made preventive strategyを作成し、個人においては、QOLが高く、activeでvigorousな長寿命の達成を目指す。地域や国家のレベルにおいては、新しい予防医学ビジネスや雇用の創出、医療費の削減を目指す。本研究の主なる成果である、健康度:数式・アルゴリズムは、厚生労働省の指導の元で開発し特許化する。副次的なる成果として、Exposure、SurrogateとOutcomeの相互関係や因果関係に関する新しい知見は、国際学術雑誌に投稿し、英文・日本文の書籍として刊行する。
研究方法
discriminant analysisとgeneral linear modelの独立要因として採用された項目(尺度等の制約をはずして選択されている)によって、Surrogateとして発がんやウイルスへの抵抗力の指標として有用なNK活性の素点と順位数を説明する数式、同じくCD4数を説明する数式、アレルギーの程度をあらわすIgEを説明する数式老化の指標としても使用できる可能性を持つTh1:Th2サイトカイン比やアポトーシスを説明する数式、Outcomeとして風邪引き日数、疾病休業日数、高脂血症、他を説明する数式をこれまでに開発している。上記の健康度:数式アルゴリズムの検証と改良および統合の3つの側面からなるが、新たに自殺企図などの他の数式を開発中である。
検証は以下2つの方法によって行う。
①これまでに数式を開発するためにデータを収集したのと同じ集団の内の他の一部と、それとは地域も職種も異なる別の集団において、cross sectional study を行い、cross validation にて数式の再現性を見る。②その集団で、介入可能な独立要因に、何らかの介入を行い、2時点目での予測値に変化をおこし、Prospectiveに数式と実測値との差異を見る。
改良は以下3つの方法により行う。
①discriminant analysisとgeneral linear modelに従った線形式に、非線形要素を取り入れる。②項目の文言の変更や未測定の概念の追加による独立変数の変更と、従属変数の増加。(肥満、血圧、自殺企図他)③遺伝子多型の情報を取り入れる。遺伝子多型は、全血からゲノムDNAを抽出し、それをPCR法によって増幅後、制限酵素で切断して、断片長から遺伝子変異を特定したり、PCR産物の直接シークエンス法を用いて調べる。更に、DNAアレイ法によって調べる。
統合は以下のように行う
Outcomeとしての疾患の発症とSurrogateの免疫系の関係をあらわす数式が、コホートの年数を追うごとに作成される。Exposure→ Surrogate→ Outcome の流れやExposure→ Outcomeの流れなどの幾つかのモデルを比較し、最も個人の値を示す式を作成し、最終的に、それを、高免疫、中免疫、低免疫のように単純化して表現する。
倫理面への配慮:インフォームドコンセントおよび倫理関係書類は、昨年度の報告書参照。
平成13年度に文部科学省・厚生労働省・経済産業省からヒトゲノム・遺伝子研究に関する倫理指針が作成され、それに準拠し、倫理委員会を経て、充分なインフォームドコンセントのもとに研究を遂行する。本研究課題に関する倫理委員会書類は、平成13年10月に国立精神・神経センター国府台地区倫理委員会に提出し、平成14年1月に条件付き承認を得て、平成14年4月14日に最終的に、承認を受けた。その後、被験者からの研究協力の合意を得た。
対象
企業:国内の製造業、小売業、鉄鋼業に働く労働者 約4000人
地域:静岡県、兵庫県の地域住民          約800人
結果と考察
数式については、平成14年度の報告書にて開示する方針であったが、実用化に向けての社会的手続きを考案中で、特許取得を目指すこととしたので一般には開示しない事に決定した。数式を記載することは、目的に対し、方法があわない(非、目的合理的)ので、記載しない点につき了解を得たい。
検証について:①免疫の数式については、Cross Validationにて再現性を検討中であり、若干の変更を行った。②介入研究は、2時点目の調査までを開始し、1時点の研究は終了した。介入ターゲットは、知覚されたサポートに照準を絞った。③一般的な健康教育(コレステロールの低下)による介入の効果の有無を、介入の事前に判定するExposureの項目も明らかにした。④疾病休業に関して、心理社会的項目の予測能力が高い事を明らかにした。
改良について:⑤これまで協力を受けてきた企業において、項目の文言の変更や未測定の概念の追加による独立変数の変更と、従属変数の増加を行い成果を得た。14年度の評価コメントを受けて、自殺企図の数式に関しても成果を得た。⑥遺伝子多型の情報を取り入れるための研究を行った。3000人以上から同意を得た。上記の結果、数式・アルゴリズムに取り入れるべきExposureの項目は以下のように集約されつつある。⑦overt aggression(攻撃性が外部に向かい顕在的であること)covet aggression (攻撃性が間接的であること) ⑧不眠 ⑨トラウマ経験の有無 ⑩海外派遣 ⑪ネットワークサポートと知覚されたサポート ⑫ストレッサーと年齢と性 ⑬遺伝子多型 (5-HTT、NPYY1R、DRD4など)⑭生育歴(親の干渉)⑮喫煙・運動・食事などの健康関連行動 ⑯自我強度 ⑰神経質 ⑱家族環境 ⑲コーピング ⑳感情同定困難 他、
統合について:これまでの線形式に、非線形要素を取り入れるべきか否か検討すべく、数学者らと検討を行っている数式間に見られる共通な現象として、本人の⑳感情同定困難、⑰神経質傾向、⑲積極的なコーピング、⑪社会的支援を項目として用いた場合は、単純な線形式では表現できないことがはっきりとした。これらは、神経質傾向の高低などによって、2値化したうえでアルゴリズムの分岐点として用いる必要性が明らかとなった。Exposureの主要なものに介入を加え、数式を検討するために、ソーシャルサポートの介入研究を開始し、サポート環境と主観的に知覚されたサポートの間に相関がないため、介入ターゲットを知覚されたサポートに照準を絞り実施中。
結論
欧米を中心に、過去、疾病罹患と健康関連行動、性格、ストレスなどの健康影響が調べられてきた。acute and chronic stressは60年代から、hostilityは70年代から、depression は50年代から、social supportは70年代から、socioeconomic statusは、50年代から、報告が始まった。これらの成果を日本で検証する仕事も近年盛んであるが、日本人と欧米人では影響度がことなることが明らかになりつつある。我々も、欧米の尺度を日本語化したり、日本人向けに多数の尺度を開発して、日本人向けの成果を得ようと努力の途上にある。曝露(Exposure)に対する緩衝要因(Buffereing System)に該当する項目が、多くの場合、ストレッサーのレギュレーションを変え、健康度数式の分岐点を形成することが、明らかとなっている。今後、この点に注意して、開発を進めたい。

公開日・更新日

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