健康づくりセンターを活用した生活習慣病予防の地域連携ネットワークの形成(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201099A
報告書区分
総括
研究課題名
健康づくりセンターを活用した生活習慣病予防の地域連携ネットワークの形成(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 尚平(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井昌史(岡山県南部健康づくりセンター)
  • 内藤允子(岡山市保健所)
  • 高橋香代(岡山大学教育学部)
  • 亀山英之(岡山市医師会)
  • 菊永茂司(ノートルダム清心女子大学人間生活学部)
  • 鈴木久雄(岡山大学教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、健康日本21が掲げる目標を地域で実現するために、健康づくりセンター等を活用した地域連携ネットワークづくりを目指している。14年度は、研究対象地域で生活習慣改善に関する諸活動を展開した。
研究方法
1.メディカルチェックと生活習慣改善活動の地域での展開
1)メディカルチェックの実施
岡山県南部健康づくりセンター(以下センターとする)及び矢掛町国民健康保険病院でメディカルチェックと身体組成の測定を行った。
2)生活習慣改善活動の地域での展開
(1)岡山市内での運動普及応援団養成の試み:運動普及員22名を対象として、健康づくりに必要な知識と技術の向上を目的とした講座を開催した。
(2)矢掛町における健康いきいき教室「やかげXプロジェクト」の開催
a.矢掛町・健康づくりセンター・大学の連携:センターで開発したプログラムを矢掛町のスタッフで展開する目的で開催した。教室は週1回90分間で全15回とし、年4回開催。
b.参加者の継続率と効果について:1年間にわたる男性肥満者のための運動プログラムを用いた場合の継続率を調べた。
(3)岡山市医師会員に対する栄養指導の支援
a.透析患者の食事調査:透析患者に、カメラ付携帯情報端末ウエルナビ(以下ウエルナビとする)を用いた食事調査と栄養指導を行った。
b.医師会員に対する支援:診療所でウエルナビを用いて栄養指導を行う上での効果と問題点を検討中。(継続中)
2.勤労者の健康意識調査
矢掛町在住の勤労成人491名を対象に健康づくりに関するアンケート調査を実施した。
3.健康情報の地域への発信
1)岡山県内健康増進関連施設(274施設)に対し、運動機器保存状況や指導体制等の調査を行った。
2)矢掛町で全21回の出前講座を開催し、3ヶ月間にわたるライフスタイル方式のプログラム実施状況を調べた。
4.生活習慣改善プログラムの実施と評価
1)かんたんスリム術
(1)平成13年度に作成したマニュアル「かんたんスリム術・運動編」を「やかげXプロジェクト」で使用し、実技指導を行った。
(2)子育て中の女性を対象に母親スリム教室(30分間の講座+1時間の運動実践)を3回シリーズで開催し、参加者にアンケート調査を行った。
(3)センター受診者8,029人の栄養食生活に関するデータの解析結果から、男性では「よくかんで食べる」、「間食、夜食の頻度」等が、女性では「外食の味の濃さ」、「外食の頻度」等の食生活習慣が肥満関連項目として抽出され、その結果をもとにマニュアルを試作した。
2)ウエルナビを用いた食事調査と栄養指導の試み
(1)矢掛町内で非肥満者と肥満者の食事調査を行い、秤量法及び記録法での栄養素摂取量調査結果との比較、食事内容の特徴、摂取量の違いを生じやすい料理と食品を検索した。
(2)センターで開催した肥満改善教室参加者54名を対象に、ウエルナビ使用群と非使用群の2群に分けて、使い易さなどのアンケート調査を行った。
(3)大学生65名を対象に、ウエルナビを用いた食生活アドバイスと歩数計を用いた運動アドバイスを行う健康支援プログラムを作成した。
3)Trans-theoretical modelによる解析
就労者を対象にTranstheoretical modelの身体活動への応用を試みた。対象者からの回答を無関心期、関心期、準備期、行動期、維持期の5ステージに分類して解析した。対象は定期健康診断受診者(男性273名、女性201名)とした。
5.改善効果の評価方法の検討
主観的健康状態・健康関連QOLとアンケート項目の関連:矢掛町在住勤労成人を対象としたアンケート調査を詳細に解析し、主観的健康状態、健康関連QOLと健康づくりに関連項目との相互関係を検討した。
結果と考察
1.メディカルチェックと生活習慣改善活動の地域での展開
1)メディカルチェック実施
矢掛町民は矢掛町国民健康保険病院で行い、大学生についてはセンターで、延407人に対して行った。
2)生活習慣改善活動の地域での展開
(1)岡山市内で2ヶ月間に5回行った運動普及応援団養成講座への全出席率は86.4%であり、生活習慣病の知識とストレッチ指導技術の獲得が認められた。
(2)矢掛町における健康教室「やかげXプロジェクト」の開催
a.矢掛町・健康づくりセンター・大学の連携:春コースはセンターと大学が企画、実施、評価を担当し、秋コースは矢掛町のスタッフが中心に担当した。
b.平均参加率は82%、継続率は83%であり、教室後に身体活動・運動量、脚伸展力が増加し、体重、体脂肪率の減少が認められた。センターと矢掛町健康管理センターの連携で、有効なトレーニング教室が開催できたと考える。
(3)岡山市医師会員に対する栄養指導の支援
a.透析患者でウエルナビの操作が難しいと答えた患者は平均年齢が高く(64.6±9.1歳:54.5±8.9歳)評価が低かったが、簡単と答えた患者は有用と答えた。今後は微量金属の透析患者に及ぼす影響を含めた栄養指導のあり方を検討する必要がある。
b.医師のほか栄養士、保健師、看護師に対し、事前に説明会を開催した。使用上の問題点と効果に関する調査を継続している。
2.勤労者の健康意識調査
矢掛町内と県および全国との比較
①がん検診受診率は女性の方が高く、喫煙と飲酒の頻度及び飲酒習慣は男性での割合が高かった。また健康づくりに対する意識も性差があった。②1日7,000歩以上の人は27.6%であった。運動頻度が週3回以上の人は10.6%であり、全国値より低い値を示した。③睡眠によって休養が十分とれない者の割合は32.5%であり、岡山における17.0%に比べて高い値を示した。④食生活に問題があると思う男性は64.0%、女性は70.5%であり、改善意欲がある男性は60.5%、女性は82.7%と、国民栄養調査の結果より高い値となった。⑤喫煙者で禁煙へ関心がある者は50.0%であり今後改善が期待できる。
3.健康情報の地域への発信
1)岡山県内健康関連施設情報:インターネット上への掲載を承諾した施設の情報をデータベース化し、地域、施設、機器、サービス等により検索できるように設計し、センターのホームページに「岡山県健康づくり施設マップ」として公開している。
2)矢掛町における出前講座の試み
①運動習慣者(週2回以上)の割合は、持久的運動・スポーツが12.8%から60.9%、筋力づくり運動が1.6%から51.9%、柔軟運動が2.1%から42.7%と増加した。②運動習慣者の自己効力感平均得点は3.7点で、非運動実施者の3.1点より高い値を示した。③持久的運動と運動・スポーツ実施種目はウォーキングが52.4%、筋力づくり実施では上体起こしやヒップリフトなどを行う者が79.0%と最も多かった。④柔軟運動では、背伸びや上腕、首のストレッチングを行う者が90.7%と最も多かった。ライフスタイル方式は、身体活動量増加・普及につながると考えられる。
4.生活習慣改善プログラムの実施と評価
1)かんたんスリム教室の開催とマニュアル作成
(1)13年度作成の運動指導マニュアルを、「やかげXプロジェクト」の実践指導に使用した。
(2)母親スリム教室参加者は回を重ねるごとに減少した。地域や幼稚園等の行事開催を考慮し、子供と一緒に行える身体活動といった視点も重要であると思われた。
(3)肥満解消運動マニュアル「かんたんスリム術」に続き、肥満解消食生活マニュアル「かんたんスリム術」を試作した。このマニュアルは、「食生活チェック」、「無理のないダイエット」、「継続の秘訣」を3つの柱としている。
2)食事調査と栄養指導の試み
(1)矢掛町の肥満者の特徴を食事の面から明らかに出来なかった。ウェルナビによる栄養素摂取量と秤量法・記録法併用の栄養素摂取量との間に、画像情報の不足に起因する開きがあり、食品リスト等の補助的手段が必要と思われた。
(2)肥満改善教室参加者の場合、①ウェルナビを使用したことで食生活に関する意識の向上が認められ、摂取エネルギーが約100kcal減少した。②プログラムの複雑さ、送受信の方法に改善の余地があると思われた。
(3)ウェルナビと歩数計を併用した健康支援プログラムは、食生活、運動習慣の改善、意識の向上に効果的で、大学生など若い世代には有効に働くものと思われた。
3)Trans-theoretical modelによる解析
習慣獲得にバリアとなる因子には性差があり、対象者の身体活動・運動ステージに合わせて情報提供や運動指導を行うことが重要と考えられた。
5.改善効果の評価方法の検討
主観的健康状態と健康関連QOLと関連する項目は、男性では「病気」、「運動習慣」と「ストレス」に関する項目で、「食生活習慣」、「お酒」、「たばこ」とは関連しなかった。女性では「たばこ」と体重維持を除いた全ての因子が互いに関連した。
結論
1.岡山市で運動普及応援団養成を試み、運動実践指導や体力測定の補助として活動できる可能性が見出された。矢掛町では健康教室を開催し、地域住民の健康意識の向上が見られた。2.健康増進関連情報の整備や出前講座は、地域住民が自ら生活習慣改善行動を開始する上で重要な役割を果たす可能性があることが示された。3.携帯情報端末を利用した食生活支援ツールは、改良の余地はあるが多くの成人には受け入れられた。4.「かんたんスリム術」として試作したマニュアルは「食生活チェック」、「無理のないダイエット」、「継続の秘訣」から成り、食生活習慣の改善に活用していく予定である。5.身体活動習慣改善を目指す指導方法は、障害因子が男女で異なるので、それぞれに応じたアプローチが効果的であると思われた。6.自治体と健康づくりセンターが持つ支援機能と大学の教育機能を併せることで、連携ネットワークの形成が可能になると思われた。

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