歯科保健水準を系統的に評価するためのシステム構築に関する研究

文献情報

文献番号
200201085A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科保健水準を系統的に評価するためのシステム構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
安藤 雄一(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 宮崎秀夫(新潟大学大学院医歯学総合研究科)
  • 長田斉(東京都杉並区保健衛生部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これからの歯科保健施策は、他の保健施策と同様、“Plan, Do, See"のサイクルに基づく展開が求められている。このうち、本研究で扱うテーマが直接関連する部分は“Plan(See)"、すなわち地域診断である。地域診断は多面的であり、この充実を図っていくためには様々な要素が必要であるが、この基盤整備として、歯科保健に関する様々なデータ利用の基盤整備を図り、誰でも容易にデータを利用できるようになれば、地域診断が円滑に進み、個々の地域で収集した歯科保健情報の相互比較などが可能となり、地域歯科保健の向上に資することが期待される。
そこで、今年度は昨年度の研究結果を受け、以下の5課題について研究を進めることとした。
1.地方自治体における歯科保健データ収集・提供システムの事例報告
2.わが国における歯科保健の情報収集・提供システムの現状と今後の対策
3.市町村における歯科保健計画策定の支援を目的としたモデル調査事業の報告
4.乳歯う蝕対策の地域診断用質問紙(FSPD3型)の基準値作成に向けた予備的調査
5.フッ化物洗口の普及に関する実態調査
各課題の目的は下記のとおりである。
1「地方自治体~事例報告」:
3地方自治体における歯科保健情報の情報収集・提供システムの事例を紹介し、今後の地域展開のあり方について検討する。
2「わが国~今後の対策」:
昨年度の研究結果を踏まえ、わが国における歯科保健情報の情報提供システムの現状と今後の展望・具体策を検討する。
3「市町村~モデル調査事業の報告」:
新潟県で行われた市町村による歯科保健計画策定の支援を意図した質問紙調査結果の概要を報告し、調査の有用性について検討する。
4「乳歯う蝕対策~予備的調査」:
MIDORIモデル(Precede-Proceedモデル)の構造に基づいて開発された乳歯う蝕対策の地域診断用質問紙(FSPD3型)の基準値作成を視野に入れた取り組みと結果の概要を報告する。
5「フッ化物洗口~実態調査」:
わが国におけるフッ化物洗口の家庭応用法と集団応用法の普及状況を明らかにする。
研究方法
1.地方自治体における歯科保健データ収集・提供システムの事例報告
3地域(滋賀県、新潟県、浜松市)で展開されている歯科保健情報の収集・提供システムについて事例を報告し、今後のありかたについて考察した。
2.わが国における歯科保健の情報収集・提供システムの現状と今後の対策
著者全員によるメーリングリストを立ち上げ、課題について、情報・意見交換を行った。さらに、検討会を開催し、上記の内容について協議し、現状における問題点と今後の対策についてまとめた。
3.市町村における歯科保健計画策定の支援を目的としたモデル調査事業の報告
対象地域は新潟県内の11市町村で、各市町村では国勢調査地区から10地区を無作為抽出し、各地区在住の1歳以上全員を対象とした。調査は、歯科保健行動・口腔に関する困りごとや自覚症状・現在歯数などを調査項目とした質問紙調査を留め置き法にて行った。分析は、新潟県の歯科保健目標値に関する質問項目について基礎集計を行い、さらに市町村較差の程度について検討した。
4.乳歯う蝕対策の地域診断用質問紙(FSPD3型)の基準値作成に向けた予備的調査
対象は、2003年2月現在、NPO法人Well-BeingにFSPD3型質問紙の利用について申し出のあった市町村(クライアント)とし、これらのデータ内容をチェックし、最終的に分析に用いるデータを選定した。
分析は、質問紙票の全質問項目の分布を確認した後、市町村の人口規模別に各質問項目の分布の比較を行った。さらに、歯が原因による困り事とう蝕(dft)の関連とう蝕の主要なリスクファクター(断乳時期、おやつの回数)との関連を分析した。
5.フッ化物洗口の普及に関する実態調査
家庭応用法の調査は、日本歯科医師会の一般会員から抽出した3,030名に郵送法による質問紙調査を実施した。
集団応用法の調査は、都道府県、政令市、特別区の歯科保健担当者を対象に郵送による質問紙調査を行った。
結果と考察
1.地方自治体における歯科保健データ収集・提供システムの事例報告
滋賀県では、(1)県庁内における歯科保健業務に活用できること、(2)市町村支援のために活用できること、の2点を目的として行ってきた歯科保健情報の収集やその提供方法を中心に報告され、情報の受け手の立場を考慮した提供方法が必要であるとの指摘があった。
新潟県の報告では、同県においてで「市町村」、「学校・園」、「県民」の3つの体系で構築されている歯科保健情報の収集方法の詳細と、現在積極的に行われているWebを利用した情報提供の方法が紹介された。
浜松市では、前に述べた2県とは異なる市町村の立場から、3歳児う蝕と生活習慣の関連、歯周疾患検診など、県とは違ったきめ細かなデータが収集されている現状について報告がなされた。
2.わが国における歯科保健の情報収集・提供システムの現状と今後の対策
まず、基本的な考え方を検討したところ、当然のことではあるが、データの収集・提供システムは歯科保健の向上に寄与するものである必要性を再確認した。さらに具体的な対策について検討したところ、いくつかの具体案を立案することができた。
今回検討した内容は、どちらかといえば、すでに得られているデータをどのように活用していくかという視点が主であった。新たに収集が求められている歯科保健データとして、QOLに関する内容や質的調査などがあるが、今後、これらの位置づけなども含め、検討を進めていきたいと考えている。
3.市町村における歯科保健計画策定の支援を目的としたモデル調査事業の報告
質問紙の有効回答者数は14,901人、回収率は90%と高率を示した。分析の結果、歯科保健行動に大きな性差が存在し、全般的に女性の歯科保健行動が良好であった。年齢差については、高齢者で生活の質に関する項目が悪化する傾向などが認められた。市町村較差は、性差・年齢差に比べると小さかった。
今回行った質問紙調査により、各市町村では今後の歯科保健策定につながる有用な結果が得られたと考えられる。また、口腔診査を伴う調査と比較すると、要するマンパワーと経費はともに口腔診査を伴う調査事業に比べて低く、質問紙調査の経済効率の高さが示された。
4.乳歯う蝕対策の地域診断用質問紙(FSPD3型)の基準値作成に向けた予備的調査
Well-Beingに利用の申し出のあった市町村は61あり、このうち、分析の用いる条件をクリアーした32市町村(2,283名)のデータを用いて、各質問項目の分布の確認を行い、基準値作成のための基礎資料とした。今後、地域特性に関する指標や分析サンプルの代表性などを考慮し、FSPD3型質問紙票の基準値確立に向け、さらに分析を進めていきたい。
5.フッ化物洗口の普及に関する実態調査
家庭応用法の調査では、回収率が60.6%と高率であった。フッ化物洗口の指導を実施している診療所は19.7%(95%信頼区間17.4~21.6%)、管理している小児(4~14歳)の人数は平均28.4人(95%信頼区間19.7~37.1人)であった。全国的な実施人数を推計したところ、約35万人と推計された。
集団応用法の調査では、都道府県については45都道府県から回答があり、フッ化物洗口の実施市町村数は495、実施施設数は2,760、実施人数は272,000であった。
わが国でフッ化物洗口の家庭応用の実態が全国規模で実施されたのは本調査が初めてであり、推定実施人数は35万人であった。集団応用の調査については、一部都道府県で実施施設数・人数が把握できていないところがあったため、過小評価と考察した。NPO法人日F会議が本年行った調査
では実施人数は30万人であったことから、この数値と家庭応用の推計値35万人をあわせると、現在、フッ化物洗口を実施している小児(4-14歳)は約65万人で同年齢人口の約5%と見込まれた。
結論
1.滋賀県、新潟県、浜松市より各地域で実践されている歯科保健情報の収集・提供システムについて、先進的な事例報告があった。
2.わが国における歯科保健の情報収集・提供システムの現状と今後の対策について検討し、データ収集・提供は歯科保健の向上に寄与するものでなければならない点が再確認され、いくつかの具体案を立案した。
3.新潟県で行われた市町村における歯科保健計画策定の支援を目的としたモデル調査事業で得られた11市町村(14,901人)の質問紙調査結果から市町村較差の程度を分析したところ、性・年齢差に比べると小さかった。また、また、口腔診査を伴う調査とマンパワーと経費を比較したところ、質問紙調査の経済効率の高さが示された。
4.NPO法人Well-Beingが開発した乳歯う蝕対策の地域診断用質問紙(FSPD3型)の基準値作成に向けた予備的調査を行い、基準値作成に向けた基礎データを得た。
5.フッ化物洗口の家庭応用法と集団応用法の普及に関する実態調査を実施したところ、フッ化物洗口実施している小児は家庭応用が約35万人、集団応用が約30万人、計65万人と推計された。

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