健康で豊かな水環境を創造するための新しい水管理システムの可能性―その戦略的構築と支援技術開発(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200201078A
報告書区分
総括
研究課題名
健康で豊かな水環境を創造するための新しい水管理システムの可能性―その戦略的構築と支援技術開発(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山本 和夫(東京大学環境安全研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大瀧雅寛(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科)
  • 岡部聡(北海道大学大学院工学研究科)
  • 浦瀬太郎(東京工業大学大学院理工学研究科)
  • 亀屋隆志(横浜国立大学大学院工学研究院)
  • 高梨啓和(鹿児島大学工学部)
  • 長岡裕(武蔵工業大学工学部)
  • 伊藤禎彦(京都大学大学院工学研究科)
  • 遠藤銀朗(東北学院大学工学部)
  • 尾崎博明(大阪産業大学工学部)
  • 津野洋(京都大学大学院工学研究科)
  • 松井佳彦(岐阜大学工学部)
  • 湯浅晶(岐阜大学流域科学研究センター)
  • 渡辺義公(北海道大学大学院工学研究科)
  • 小越真佐司(下水道事業団)
  • 福士謙介(東京大学環境安全研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地球及び地域(コミュニティ)の持続可能性(Sustainability)は、3Es(Economy, Environment, Equity)が同時に機能して初めて成り立つと考えられている。しかし、水という公の財産を管理する社会技術として、従来の水技術開発にはこのような考えは欠如していた。また、「持続可能性」を支える経済産業構造として、メンテナンス産業の重要性を挙げたい。付加価値を生む財やサービスの生産のみの経済産業構造から、付加価値を再生するメンテナンスを中心とした経済産業構造への転換がわが国の熟成期を迎えた社会構造において迫られている。高度成長期の大量消費社会から、循環型社会への転換においても、長寿命製品とそのメンテナンスの確立が不可欠である。このような視点で、従来の水システムを構成する技術群を見直すと、効率を優先するあまりスケールメリットを追求したような大量生産型の価値観に基づく技術開発の結果として実現してきたものが多く、必ずしも地球環境時代における持続可能な維持管理のあるべき姿とは言えない。また、このような集中管理型のシステムでは、コミュニティの求める水環境と自治体が与えるそれとの間には大きな隔たりができることも考えられる。水管理を自主的に行うことによりコミュニティが自ら定めるリスクや快適さを実現することが可能となるだけではなく、自主的に管理することから地域水環境に対するオーナーシップを体感し、水環境管理に関する教育程度の向上が期待できる。また、これらの活動に対する産業需要も創出可能である。
平成14年度の研究目的は上記ミッションを体現する水システムのあり方を模索し、その水システムの構築に必要である要素技術の開発に着手することを目的とする。
研究方法
本研究は研究をその内容によって5つの研究班とひとつの総括班に分け、研究をおこなう。各研究班はそれぞれ密に連携を取りつつ研究を遂行し、総括班は研究班ごとの連携や調整、厚生労働行政との連携などを担う。以下にその構成を述べる。14年度は数回のワークショップにより理想的な水システムの提案と技術開発の礎となるべき基礎的の開発を行う。
総括班
総括班は各研究班で得られた成果を整理統合し、研究全体における位置づけを明確にし、さらに、各研究班の調整などをはかることを目的に設置される。また、厚生労働行政との連携もこの班によって考えられる。この班では本申請研究の総合的な結果により健全な水循環を実現するための政策支援システムを開発する。
研究班1:メンブレン関連技術の開発 
本研究班はメンブレンを利用した高信頼・長寿命の水処理技術を開発することに目標を置く。水循環を念頭に置いた場合、上水処理への応用だけではなく高度処理浄化槽へのメンブレンの適用も研究を進めなければならない分野である。特に、バイオリアクターとの組み合わせによるメンブレンバイオリアクターは長寿命メンブレンプロセス実現のため、特に重点的に研究されるべき分野である。この研究班の成果は下の研究班2と連携を行い、更に研究班5で開発されたリスク解析手法によって評価される。
研究班2:生物学的高度水処理技術の開発
汚染された水を効率的かつ低コストで浄化するためには生物学的処理は第一に考えられなければならない方法である。本研究タスクでは水浄化を担う微生物を最新の分子生物学的手法を用い解析し、その機能を高める要素を確定し、そして多様なリスク因子を効率的に無害化する微生物叢を想像する。また、多様なリスク因子を鋭敏に検出する高度バイオセンサーを開発することも研究の一部である。
研究班3:物理化学的作用を利用した高度水処理技術の開発
物理化学処理は古くから浄水処理のプロセスとして私たちの生命を衛ってきた。しかし、汚染物質(リスク起因物質)が多様化することにより従来型の物理化学処理では安全な水を提供することが難しくなっている。本研究班は新規な吸着剤の開発や新規プロセスの開発により多様な汚染物質に対応可能である浄水技術の開発を目指す。
研究班4:病原微生物の管理技術の開発
近年、我が国の生活環境は特に清浄であり、人々の病原微生物に対する免疫力は著しく低下している。また、高齢化が進むにつれ日和見感染病原微生物によるアウトブレークをしばしば経験している。更に、医学の進歩がもたらした抗生物質耐性菌の環境中への放出は将来的に大きな不安を与えることとなっている。この班は主に新規な病原微生物の検出方法、並びに不活化の方法を模索する。また、病原微生物の自然界における存在形態(たとえば浮遊微粒子と結合している状況など)の解明も重要な研究項目である。
研究班5:新規リスクアセスメント手法の開発
本研究班は通常のリスクアセスメント構成要素の中の特に「毒性評価」と「曝露解析」に重点を置き、新しい水循環システムにおける長期的な曝露に対するリスクを総合的に算出するための評価システムを構築する。また、上記要素技術の信頼性などもリスク(感染リスク、死亡リスク)として表現し、それぞれ異なる技術を単一のスケールで評価する。この研究班の結果は総括班における政策支援システムの基幹となる。
結果と考察
本研究は14年度、上記問題の解決の糸口を探る討議を重ねてきた。その結果、上記ミッションを体現する水システムのあるべき姿は「コミュニティレベルの自律的水システム」にあるとの結論に至った。自律とは、システムの経営において自律していることであり、技術的には多様な水資源の利用が前提となる。また、自律システム間のネットワーク型の調整が可能な重層的自律システム群が構築されなければならない。また、このシステムはコミュニティレベルにおける多様なリスクベネフィットに関わる参加型意志決定を可能とし、また重層的システム群においてはシステムリスクを分散することにある。また、このようなコミュニティが主体となる管理手法は自律的であると同時に持続性が期待できる。
上記のような、いわば「理想」水システムを実現するには、それを支える要素技術が決定的に不足している。従って、今問われているものは、システムの制度設計ではなく、まさにシステムを創成するための技術開発であり、システムを維持管理するための継続的なアセスメント方法の開発である。
平成14年度に行われた研究活動を元に研究班構成を1)総括班、2)水システム間インターフェース技術の開発班、3)リスク評価・モニタリングの研究班の三班に再編成し、研究活動を推進してゆく。
また、分担研究者はコミュニティレベルの自律的な水システムを構築する上で必要である要素技術開発に必要な基礎的研究を行っている。
結論
今年度提唱された、いわば「理想」水システムを実現するには、それを支える要素技術が決定的に不足している。従って、今問われているものは、システムの制度設計ではなく、まさにシステムを創成するための技術開発であり、システムを維持管理するための継続的なアセスメント方法の開発である。
平成15年度は上記ミッションを達成するため、1)技術開発と2)水システム評価の項目を立て研究を進めてゆくことを提案する。(具体的内容は計画の項を参照)この研究は既存の上水道・下水道という概念にとらわれず次世代の水システムを提言・具現化する方向と可能性を示す研究であり、国民の安全と健康を担う厚生労働行政に新たな可能性を提案するものである。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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