24時間社会における睡眠不足・睡眠障害による事故および健康被害の実態と根拠に基づく予防法開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201071A
報告書区分
総括
研究課題名
24時間社会における睡眠不足・睡眠障害による事故および健康被害の実態と根拠に基づく予防法開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
内山 真(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 大井田隆(日本大学医学部)
  • 山田尚登(滋賀医科大学)
  • 伊藤洋(東京慈恵会医科大学)
  • 成井浩司(虎の門病院)
  • 塩見利明(愛知医科大学)
  • 清水徹男(秋田大学医学部)
  • 田ヶ谷浩邦(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 井上雄一(順天堂大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題の目的は、睡眠に関する健康問題を解決することで日常生活におけるヒューマンエラーおよび事故の防止を実現することである。睡眠不足や睡眠障害など睡眠の健康問題と様々な分野における事故やヒューマンエラーとの関連について実証的疫学研究を行う。同時に睡眠障害患者におけるヒューマンエラーの実態とその機序を明らかにする。これらの根拠に基づき、事故防止のための適切な睡眠習慣の促進と睡眠障害の予防・早期発見による事故防止法と健康増進法を作成する。日常生活における事故防止という包括的目標を達成するために多分野の研究者の参加し、研究成果を「睡眠の問題とヒューマンエラーに関する白書」としてとりまとめ、保健医療福祉行政や地域保健サービス、産業労働保健、道路交通行政おける事故防止のための政策決定に直結する実証的根拠に基づく提言を行う。社会の24時間化が進む先進国において、人身事故につながる交通事故の15.4~34.0%、地域住民にまで被害を及ぼす産業事故、重大な医療事故の50%以上が眠気に関連したヒューマンエラーに基づくものである。この背景に睡眠不足、不眠症による睡眠の質的低下、睡眠時無呼吸症候群、過眠症、夜勤・交代勤務による睡眠覚醒リズムの乱れがあることが多くの調査から指摘されている。スリーマイル原発、チャレンジャー号、アラスカ沖タンカー座礁などの甚大事故の原因も、眠気に関連したヒューマンエラーによるものであった。睡眠に関する米国議会諮問委員会では、世界中で睡眠の問題によって引き起こされる事故・医療・補償のコストは年間70兆円に達すると試算している。したがって睡眠の問題によって起こるヒューマンエラーに基づく事故を防止することは国家的急務である。健康日本21においても、わが国成人の21.3%が睡眠不足、21.4%が不眠、14.9%が日中の過剰な眠気に悩んでいることが明らかにされ、緊急に解決すべき課題として10年後の目標値が示されている。
研究方法
ポピュレーションストラテジー研究としては一般人口、職域などにおける疫学調査を行い、睡眠の問題を明確化し、その他の研究戦略へのフィードバックにより班全体の方向づけを行う。1-1)看護師の夜勤・睡眠障害と医療ミスの関連においては、夜間勤務によって発生する睡眠問題は、医師の誤診をはじめ看護師の看護活動にまで及んでいると報告され、夜勤による睡眠障害と医療事故との関係が危惧されている。そこで、夜勤看護師を対象としたアンケート調査を実施し、医療事故、夜勤および睡眠障害の関連性の解明を目的にした研究を実施する。1-2)朝方・夜型の睡眠特性をふまえた事故防止策においては、クロノタイプを簡便に調べる方法を確立し、クロノタイプと作業効率の関連性、クロノタイプと交代勤務などに対する柔軟性との関連性を調べ、個々人に応じたオーダーメイドの睡眠・生活・労働習慣を構築することを目的とする。ハイリスクストラテジー研究では、眠気による事故のハイリスク者として、不眠症、過眠症、睡眠呼吸障害を取り上げ、連続例研究でハイリスク疾患における眠気によるヒューマンエラーおよび事故の発生について検討する。2-1)過眠症に対する治療・生活指導と事故予防に関する研究においては、ナルコレプシーなどの過眠性疾患について、計画的短時間昼寝などの生活指導法を開発し、これを応
用した事故防止対策についての基盤的研究を行う。2-2)時差による認知機能低下と睡眠の障害においては以下の通りである。時差症候群は生体時計と到着地の生活時間との間のずれにより生じる睡眠覚醒障害を主とした一過性の心身の不調で、到着地において夜間の睡眠障害や日中の眠気により作業能力や判断力の低下が問題となる。海外渡航者が1200万人を超える現在、時差症候群を早期に解消させる方法を確立することは睡眠障害による事故および健康被害を予防する上で重要な意味をもつ。
2-3)睡眠時無呼吸症候群治療による事故防止においては、睡眠時無呼吸症候群に対する各種治療前後の眠気による事故やヒューマンエラーの発生頻度を連続例ベースで比較検討し、事故防止の観点からの治療法選択の指針を作成する。2-4)睡眠時無呼吸症候群の交通事故についてにおいては、我が国におけるSAS患者の居眠り運転事故率について大規模な実態調査を行い、その交通事故の状況や発生時刻などを睡眠医学的に分析し、さらにその予防法について検討する。実験的ストラテジー研究では、健常者あるいは疾患を持つ参加者を対象に神経生理学的手法を用いた実験を行い、日中の眠気出現機序とそれに伴う遂行能力低下発現のメカニズムを明らかにする。3-1)睡眠薬による遂行能力低下機序の研究においては、ベンゾジアゼピン系薬物の催眠作用と高次脳機能抑制作用が発現する際の体熱 放散の 意義について検討する。これら放熱指標を用いて、鎮静作用に焦点を当てた ベンゾジアゼピン系薬物の作用力価の再評価を行う。3-2)睡眠不足による遂行能力低下機序においては、健常者の慢性的睡眠時間制限前後の遂行能力、事象関連電位を用いた認知機能評価を行って睡眠不足による遂行能力低下機序を明らかにする。3-3)不眠症・過眠症における認知障害においては、自記スケール(Epworth sleepiness scale)、客観的生理機能評価(反復睡眠潜時検査: MSLT)による日中の眠気の水準と、認知機能課題成績並びに事象関連電位から見た不眠症・過眠症患者の精神生理機能の日内変動との関係について検討する。また社会的機能(SF-36による評価)に及ぼす影響を明らかに、治療による変化についても検討する。
結果と考察
ポピュレーションストラテジー研究の1-1)看護師の夜勤・睡眠障害と医療ミスの関連では、夜勤看護師の睡眠問題と医療事故との関係を調査するための調査票を、予備的調査を施行した上で、開発し満足すべき感受性が確認された。1-2)朝方・夜型の睡眠特性をふまえた事故防止策では、一般住民を対象にクロノタイプ(朝型・夜型特性)と精神的健康度の関係を調べ、朝型ほど抑うつ感が低く、ストレスの指標とされるコルチゾールの値が低いことを明らかにした。クロノタイプと精神的健康度が密接に関連していた。ハイリスクストラテジー研究の2-1)過眠症に対する治療・生活指導と事故予防に関する研究では、文献的調査により、以下が明らかになった。夜間に勤務する交代勤務者が急増し、平均的入床時刻が遅くなった一方で、始業時刻は変わらないため睡眠時間の短縮を招いている。過眠症患者は、日中の眠気により、健常人よりも事故に遭う確率が高い。2-2)時差による認知機能低下と睡眠の障害では、東方飛行後の生体リズムの再同調過程を検討した。外因性メラトニン投与により、東方飛行後に望まれる順行性同調が促進され、1日当たりの再同調速度は55分から78分へと改善した。メラトニンの時差症候群への有効性が示された。2-3)睡眠時無呼吸症候群治療による事故防止では、SAS患者の居眠り運転既往者は12.2%で、一般人口での5.5%に比べて高かったが、CPAP治療を行っている症例では、治療開始1年経過時点で再事故は起こっていなかった。治療により事故防止が可能であると考えられた。2-4)睡眠時無呼吸症候群の交通事故についてでは、SASと診断された運転免許取得者931例において、過去1年間おいて35.0%が居眠り運転を経験し、過去5年間に10.1%が居眠り運転事故を起こしていた。日中の自覚的眠気が強いほど居眠り運転および居眠り事故の頻度が高率であった。実験的ストラテジー研究の3-1)睡眠薬による遂行能力低下機序の研究では、ジアゼパム投与後、若年者に比較して、高齢者ではより低い血中濃度で認知機能が低下するが、自覚的眠気はかえって軽く評価した。高齢者では、睡眠薬投与がヒューマンエラーのより大きなリスクになることがわかった。3-2)睡眠不足による遂行能力低下機序では、健常被験者において、部分断眠後、自覚的眠気が改善した午後の時間帯においても、事象関連電位にみられる認知機能の低下は残っていた。すなわち、睡眠不足による認知機能の低下は、必ずしも自覚的に
予測ができないことが示唆された。3-3)不眠症・過眠症における認知障害では、2日間の夜間部分断眠が、運転中において眠気の増大・覚醒水準低下をもたらし、運転能力を劣化させた。仮眠とカフェインの併用は、覚醒水準保持と、運転パフォーマンスの低下抑制に貢献することが明らかになった。
結論
本年度は、3年計画の初年度として、満足すべき結果が得られたものと考えられる。3年度終了時に研究成果をもとに「睡眠の問題とヒューマンエラーに関するマニュアル」が作成されれば、保健医療福祉行政や地域保健サービス、産業労働保健、道路交通行政おける事故防止のための政策決定に基盤的知見を与えることになる。波及効果として、睡眠の問題を解決し健康で事故のない安全でゆとりのある社会基盤を創設でき、これにより国民のQOLが飛躍的に向上する。総計で2兆円にのぼると推計されているわが国の睡眠の問題に関する事故などの経済損失を、健康日本21の目標値を達成することで半減できると予想される。

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