喫煙の社会的損失と効果的な禁煙対策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201068A
報告書区分
総括
研究課題名
喫煙の社会的損失と効果的な禁煙対策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
友池 仁暢(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 花井荘太郎(国立循環器病センター)
  • 大森豊緑(国立がんセンター)
  • 難波吉雄(東京大学)
  • 大久保一郎(筑波大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喫煙の健康に与える影響は甚大である。受動喫煙の危険性が様々の角度から検討され分煙の必要性が広く認識されるようになった。最近では喫煙習慣が個人の嗜好にとどまらない健康問題であるといった視点も強調されるようになり、様々な対策が実施されている。しかしながら、若年者、特に女性の喫煙率の上昇、たばこの関連疾患による死亡者数の増大とそれに伴う医療費の増大が深刻さを増している。また、喫煙習慣とニコチン依存性、発がん性、心血管系の障害といった健康影響に関する研究が世界的に取り組まれている。WHOはたばこ枠組み条約の締結に向けた作業を始めており、諸外国の喫煙対策も連携・強化される方向にある。本研究ではわが国における喫煙対策の推進に資することを目的として、普及啓発のあり方や禁煙指導の手法等についてエビデンスを集積するとともに、たばこの社会的・経済的損失を明らかにしたい。
研究方法
(1)喫煙対策と教育①循環器教育病院における全館禁煙の勧告(友池):日本循環器学会では、禁煙宣言を機関誌に掲載し、学会として立場を会員のみならず世界的に広く公報した(禁煙委員会に委員として参画)。②海外における禁煙対策について情報収集(大森、難波)。(2)喫煙の実態と禁煙認識に関する調査(花井、友池)。:①喫煙が何等かの影響を及ぼす事が医学的に実証されている11疾患についてWeb調査を行った。医療コンサルテーション会社が保有する慢性疾患の患者名簿から11疾患の疾患歴を持つ患者それぞれ100名を男女別、年齢階級別を配慮して抽出し、調査協力を電子メールで通知した。疾患ごとに回答カウントを監視し、目標に達した時点で調査を打ち切った。なお、対象とした11の疾患は1)狭心症・心筋梗塞、2)不整脈、3)脳出血・脳梗塞、4)高血圧、5)高脂血症、6)I型糖尿病、7)II型糖尿病、8)肺がん・喉頭がん・咽頭がん、9)その他のがん、10)喘息、11)アトピー性皮膚炎である。②国立循環器病センターにおける禁煙調査(友池、花井):国立循環器病センター勤務者全員に喫煙に関するアンケート調査を行った。有効回答者は男性535名、女性798名であった。(3)医療経済的側面(大久保、難波):大久保は、喫煙の社会的側面と効果的禁煙対策を見出す為、都道府県別の喫煙率と医療費及び母子保健指標との関係を滋賀県、青森県について調べた。難波はドイツで調査を行った。(倫理面への配慮)個人情報を直接に取り扱わないので倫理委員会での審議はお願いしなかった。アンケート調査は全て匿名化して行い、又、対象者個人の発意に基づくものであり、自己決定権を制限するものではない。
結果と考察
結果: 本年度は3ヵ年の研究計画の初年次である。(1)禁煙対策と教育喫煙の状況がどうであれ、先ず禁煙が行われるべきであるとの立場から禁煙教育の拡充に努めた。日本循環器学会の禁煙委員会活動を通して医療機関における禁煙を提言した。禁煙教育の資料収集を行った。難波はドイツにおける禁煙施策を実施調査し、成熟した社会を形造る欧州での穏和な取組みが明らかになった。大森は米国のClinical Practice Guideline“Treating Tobacco Use and Dependence"(U.S. Department of Health and Human Services; June 2000)の翻訳を行った。禁煙治療行為を成功させるために系統的対策が必要であると強調されており、我国での禁煙相談室を定着する上で有用な資料である。(2)喫煙実態の調査:①慢性疾患患者の喫煙実態と喫煙に対する意識を中心にWebを利用して1,047名(男性627名、女性420名)から回答を得た。女性の喫煙率が29.5%と厚労省国民栄養調査による全国平
均9.9%より遥かに高率であった。しかも喫煙経験者が1985年に成人を迎えた世代以後に急激に増加し60%に達した点は注目すべきである。これは女性の喫煙率は低いとした従来からの報告と大きく異なっている。今後の精査が必要である。②国立循環器病センター勤務者における喫煙の実態調査:男性535名、女性798名について分析した。喫煙率は全体で21.2%(男33.4%、女13.1%)。この数値は吹田市住民の喫煙率 男49.4%、女13.2%より低い。禁煙希望者は男16%、女34%。節煙希望者は男43%、女42%。禁煙指導室での指導を希望する者は、男性10%、女性6%。禁煙対策の指標値が得られた。(3)医療経済的側面についての資料収集と分析: ①ドイツにおける禁煙施策と社会的効果についての調査を行った。日本のマスメディアに取り上げられているような激しいものではない。②地域における喫煙率と医療費との関連について分析を行い、喫煙の経済に及ぼす影響をマクロ的に分析した。 考察: 喫煙は能動的嗜好者の健康被害とともに受動喫煙者にも発癌性や心血管系への障害をもたらすことが重要視されるようになった。公共施設での分煙、医療施設での全面禁煙は急速な拡がりと強い強制力を持ちつつある。個々人のライフスタイルと密接に関連する嗜好と公共の健康利益や美観との相剋を助長することは本研究の意図する所ではない。健康の質に力点を置き、適切な禁煙指導と、結果としての離煙を達成することが本研究の目的である。喫煙習慣が社会の中にしっかりと組み込まれていた欧米諸国での禁煙活動は我国での今後の対策を構築する上で参考にされるべきであり、詳細に調べる価値がある。そこで、日本と同様にたばこ産業が活発で、間接税として国の重要な財源となっているドイツと米国を調査対象にした。難波はドイツの禁煙施策を実地調査したがその規制は極めて穏和なものであった。大森は米国の診療指針の最新版を邦訳したが、その内容は分担研究者の項にあるように極めて厳しいものである。昨今の呼吸器病学会や医師会の動きは米国流の極めてストイックな性質が顕著となっている。このあり方が日本の社会に上手に取り入れられ、実効ある禁煙の実現に結びつくのか、注目したい所である。喫煙の実体は調査対象によって大きな相違があることは容易に想像がつく。従来は地域や職域での調査が主体であった。医療の立場からすると有罹病者がどのような喫煙の状態にあるのか、禁煙の意義が正確に認識されているか等の情報こそ必要でなかろうか。本研究では、Webを用いる事によって全国的な調査が可能になった。インターネット利用者が国民の半数に及び、その傾向は医療情報を求める有罹病者に高い事を考慮すると本研究の成果は極めてユニークなものでないかと自負する。
結論
禁煙について社会的認識が高まりつつあるので、この時期に有効且つ社会の実情になじむ教育・指導方式を確立する事の意義は大きい。欧米の調査、国内の状況の正確な把握から社会的損失の定量的モニターと効果的禁煙対策を実現させたい。

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