行動科学に基づく栄養教育と支援的環境づくりによる地域住民の望ましい食習慣形成に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201065A
報告書区分
総括
研究課題名
行動科学に基づく栄養教育と支援的環境づくりによる地域住民の望ましい食習慣形成に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
武見 ゆかり(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木敏(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 岡田加奈子(千葉大学教育学部)
  • 村山伸子(新潟医療福祉大学)
  • 中嶋康博(東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • 橘とも子(世田谷区世田谷保健所)
  • 水嶋春朔(東京大学医学教育国際協力研究センター)
  • 島内憲夫(順天堂大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「健康日本21」の地方計画策定・推進が進む中、生活習慣病の一次予防の視点から、国民の望ましい食習慣形成は重要な課題とされる。本研究の目的は,地域住民の生涯にわたる望ましい食習慣形成(特に適正体重の維持と野菜(副菜)摂取習慣)をねらって、行動科学に基づく住民への栄養教育と、地域の支援的な食環境づくりを統合した介入プログラムを開発・実施し、その有効性を検証することである。
本研究の特徴は、1)行動科学理論に基づく栄養教育と、地域の食環境づくりを統合した介入プログラムを開発し、その有効性を疫学的手法(非無作為比較試験)により検証する点。2)介入の効果を、栄養教育の直接の対象である学童と保護者についてだけでなく、食環境整備の担い手として取り組みに参加した商店会組合の加盟店店主について、さらには一般地域住民への波及効果まで、段階的に検討する点。3)保健所がコーディネーターとなって、学校、商店会等関連団体、民間企業等を巻き込んだ地域のネットワークを構築し、獲得された食習慣の定着を図る点、以上にある。
研究方法
世田谷保健所管内で、介入予定地区(以下、介入地区)と対照予定地区(以下、対照地区)を設定した。初年度である14年度は、地域介入の効果を比較試験により評価するための対象の確保と、ベースライン調査の実施、ならびに次年度以降への体制づくりを行った。
1)ベースライン診断の実施:世田谷保健所管内で、介入予定2地区から各1校を選定し、それらと学校の規模や学区内の社会経済的状況が類似で、かつ介入地区との情報の流れが少ない対照校4校を設定した。さらにS、Y校の学区内にある4商店会組合と、対照校のうち2校の学区内にある5商店会組合から研究協力を得た。一般住民は、6校の学区の40~50歳代住民4,800名(1地区800名)を当該町丁の住民台帳から無作為抽出した。以上を対象に、質問紙調査と食物摂取状況調査を実施した結果、小学5年生は在籍数540名に対し回収537名、有効回答535名(介入地区男子98名、女子83名、対照地区男子196名、女子158名)、その保護者からは回収704名、有効回答691名(介入地区男性99名、女性163名、対照地区男性153名、女性276名)、商店会組合員店主は加盟店735店に調査票を配布、回収600店、有効回答560名(介入地区男性189名、女性89名、対照地区男性177名、女性105名)、一般住民は4800名のうち回収1580名(回収率32.9%)、有効回答1,387名(介入地区男性175名、女性275名、対照地区男性361名、女性576名、郵送法・有効回答率28.9%)から協力を
得た。
調査内容は、健康状態、食スキル・食態度・食行動、QOLの面は質問紙調査により、食物摂取面は分担研究者の佐々木が開発した自記式食事歴法質問票の簡易版(BDHQ)、並びに小学校高学年を調査対象とする簡易型自記式食事歴法質問票10歳用(BDHQ_10y)を開発し、栄養素、食品の摂取状況を把握した。小学校5年生は学校で集合法・読み上げ式で実施、保護者は学童を通じて配布・回収を行った。商店会加盟店店主は,戸別訪問による留置き法で、一般住民は郵送法により調査を実施した。また、地域の食環境整備状況として、商店街及び各商店での健康や栄養に関する取り組み状況に関する質問紙調査及びヒアリングを実施した。
2)地域の体制づくり:研究者と保健行政関係者で検討と研修を重ね、教育委員会、小学校、地元商店会、食品衛生協会、関連企業等に研究の主旨説明と協力体制確立への調整を行った。ベースライン診断結果をふまえ、介入予定2地区で学校と商店会、関連機関が参加する協議会を立ち上げ、協議会でプログラム案の作成を始めた。また、関係者の研修等を行い、プログラム実施体制を整備した。
3)倫理面への配慮:介入地区及び対照地区において、保護者に対し書面にて研究の主旨、方法、個人情報保護方針等を説明し、文書によるインフォームド・コンセントを得た。商店会店主、並びに一般住民には、口頭または文書で研究の主旨説明を行い、調査への協力をもって同意とみなした。14年度に主任研究者が所属する女子栄養大学の医学倫理委員会による審査を受け承認された。
結果と考察
1. 小学校5年児童の健康・食生活:主食、主菜、副菜という言葉を知っている子は、それぞれ84%、37%、22%であり、副菜の認識が薄いことが明らかになった。家族と栄養や健康について話をすることが「よく又は時々ある」子は43%、近くの食料品店等で栄養や健康に関するポスターを見たり店の人と話をしたことがある子は37%であった。対照地区に比べ、介入地区の男子で、食行動・食態度で課題を有する子が多いことが明らかになった。
2. 児童保護者の食生活・ライフスタイル:保護者(約9割が30~40歳代)では、肥満者、ならびに健診で高脂血、耐糖能異常・糖尿病の指摘は、男性に多くみられた。食行動では、朝食を毎日食べる者は男性73%、女性84%、野菜を主材料とする副菜を朝食で「週5-7回」食べる者は男性27%、女性35%、昼食では男性47%、女性40%、夕食で男性75%、女性90%であった。食品の選択や食事の準備のための知識がない者は男性53%、女性23%で、野菜、脂肪の適正摂取量について正確な知識を有する者は,それぞれ37%、25%に過ぎなかったが、地域の健康・栄養学習への参加意欲は低かった。以上から、保護者の男性に食生活上の課題が多いこと、バランスのよい食事の目安である主食・主菜・副菜のうち副菜(野菜料理)の摂取に課題のあることが明らかになった。介入地区と対照地区で、ほとんど項目で有意な差はみられなかった。
3. 商店街商店主の食生活・ライフスタイル:介入地区と対照地区で、食習慣にはほとんど差はみられなかった。しかし、男性について、介入地区は対照地区より、年齢が高く、食事、食行動、食態度の一部の項目で良好な傾向を示すものがあった。食習慣上の課題は、児童保護者とほぼ同様であった。
4. 40歳代,50歳代 一般住民の食生活・ライフスタイル:介入地区と対照地区で、食習慣に有意な差はほとんどみられなかった。食習慣上の課題は,児童保護者とほぼ同様であった。
5. 対象集団の栄養素・食品群摂取状況:介入地区ならびに対照地区の平均摂取量は、ほとんどの栄養素・食品群で有意な差を認めず、介入の有無の割付は適当であることが明らかとなった。また、集団レベルの摂取量は、おおむね他の調査と類似した値が得られ、本研究で用いた調査法が妥当である可能性が示唆された。
6. 商店街商店主による健康・食情報提供に関する実態とその意向:既に健康に関する情報提供を行っている商店は、約2割程度であった。介入地区と対照地区との間で大きな差はみられなかった。業種別にみると、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの取り組みが比較的進んでいるのに対し飲食店の取り組みは少なかった。健康情報を提供している商店は日頃の商店会活動にも積極的で、顧客とのコミュニケーションも多いという結果が得られた。本プロジェクトへの期待では、経済面での効果をあげる者が多かった。
7. 次年度へ向けてのプログラム作成:以上から,介入予定地区と対照予定地区との間で、小学校5年生男子の食行動・食態度,商店街商店主の年齢,食行動、食態度の一部を除き、ほとんど有意な差は認められなかった。従って、介入の有無の割付はおおよそ適当であることが明らかになった。これらのベースライン診断結果をふまえ、教育プログラムの開発、及び評価法を検討する必要があると考えられた。特に、子どもたちの食習慣形成には、保護者や周囲の影響が大きいとされるが、その保護者、特に男性で健康状態、食生活面の課題の多いことが明らかになった。従って、保護者会や学校行事などの機会を活用した保護者への栄養教育の必要性、並びに子どもが学校で学ぶ内容が、保護者との間や近所の商店街でも共有されるような食環境づくりの必要性が確認された。また、商店街商店主の中には、本プロジェクトに対し、経済的面での効果を期待する声も多かったことから、こうした面にも十分配慮したプログラムの作成が、商店主の参加率を高める上で必要と考えられた。
結論
地域住民の生涯にわたる望ましい食習慣形成をねらって、行動科学理論に基づく住民への栄養教育と、地域の支援的な食環境づくりを統合した地域介入プログラムを開発、実施し、その有効性を疫学的手法(非無作為比較試験)により検証することを目的とする。今年度は、地域の体制づくりと、地域介入の効果を比較試験により評価するための対象の確保及びベースライン診断を行った。ベースライン調査の結果、介入予定地区と対照予定地区との間で、小学校5年生男子の食行動・食態度、商店主男性の年齢、食行動・食態度の一部の項目を除き、ほとんど有意な差は認められなかった。従って、介入の有無の割付はおおよそ適当であることが明らかになった。また、各対象の食生活・ライフスタイルの課題が明確になった。これらの課題をふまえ、介入2地区で学校と商店会,関連機関が参加する協議会を立ち上げ、協議会でプログラム案を作成し、関係者の研修等、プログラム実施体制の整備を図ることとした。

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