健康日本21計画の改訂と改善に資する基礎研究

文献情報

文献番号
200201063A
報告書区分
総括
研究課題名
健康日本21計画の改訂と改善に資する基礎研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 平尾 智広(香川医科大学公衆衛生学教室)
  • 松本 邦愛(国立保健医療科学院政策科学部協力研究員)
  • 森雅文(国立保健医療科学院政策科学部協力研究員)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部公衆衛生学教室助教授)
  • 山崎敏((株)トシ・ヤマサキまちづくり総合研究所所長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
11,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康日本21では、各レベルにおいて策定された計画が効率的に推進されるには計画・実施・評価のサイクルの確立が必要であり、評価を計画推進の重要な部分として位置づけ、2004-2005年度を目途に中間報告を、2010年度に最終評価を行うことが計画されている。この研究は、健康日本21計画の中間評価を行い、計画の改訂と改善の提案をすることを目的としている。具体的には、申請者がこれまでに開発してきた評価方法-ベンチマーキング分析等-を用いて、国レベル、都道府県レベルでの計画の評価を行う。同時に、地方計画の進捗状況の評価を行う。さらに、ひとりひとりの主体的健康づくりを社会全体として支援するための町づくり、環境整備の推進についての方法論を確立する。これらの研究を通して、健康日本21計画の、国、都道府県、市町村の各レベルでの中間評価がなされ、次期計画にとフィードバックさせることとなる。
研究方法
1.都道府県の健康度ベンチマーキング評価研究-昨年度作成した健康指標全てを統合し、総合研究指標を作成し、各県の健康度ベンチマーキングを前年度作成した「疾病の自然史」に基づき、健康を表す8側面(「生活習慣」「危険要因」「疾病罹患」「死亡状況」「障害者率」「健康行動」「予防介入」「主観受留」)とそれぞれの側面を示す6項目に関して、各県、主要都市の健康日本21担当者、有識者にアンケートを行い、それぞれの加重を定めた。アンケート方法はデルファイ法で行い、61サンプルを得た。2.都道府県の職業別健康指標の比較研究-健康を表す8側面のうち、「生活習慣」「危険要因」「疾病罹患」「健康行動」「予防介入」「主観受留」の6側面に関して、職業別、もしくは保険別・県別にデータを集計しレーダーチャートを用いた比較を行った。3.コホート死亡率の生涯疫学的分析-人生の特定の区間の影響が中高年期に健康リスクとして反映することが、新たな手法生涯疫学によって近年証明されつつある。そこで、コホート生命表を用いて、男女別に誕生年コホートごとに1歳ごとの区間死亡確率を抽出し、その変遷を分析した。さらにその原因を示唆すると考えられる身体的特徴や栄養学的調査の歴史的変遷を分析した。身体的特徴は、戦前は学校保健のデータと徴兵検査による20歳時の伸長を時系列で分析した。また、栄養学的分析は栄養調査の熱量摂取とたんぱく質摂取量を経年的に分析した。4.計画づくりのためのまちづくり研究-個人が生活習慣を改善し、健康づくりに取り組もうとする場合、社会全体としてその個人を支援していくようなシステム、すなわち個人だけではなく企業、行政など多様な社会主体が協働する場が必要である。ここでは社会資源の現状把握、行政と資源の連携評価、連携システムの支援方策を模索する。まちづくりを構成する因子を取り上げ、それに関係するデータや既存文献資料を整理して現況を把握することを行った。また、フォーカスグループ、個別ヒアリングなどの方法を用いて、まちづくりの概念をまとめた。5.都道府県健康日本21計画評価-改訂期が近づいていることを踏まえ現時点での健康日本21計画の内容についての現状を整理した。健康日本21各都道府県版を各都道府県のウェブサイトから集め、電子化されていないものに関しては冊子を収集し、目次・本文などを参照し、他県や国の計画との比較を行うことで、それぞれの特徴や国の計画の影響などを特に設定された目標値に関して行った。
6.個人の健康概念整理フォーカスグループ、個別ヒアリングなどの方法を用いて概念をまとめた。
結果と考察
1.都道府県の健康度ベンチマーキング評価研究-総合健康指標の順位で、男性の一位は長野県、女性の一位は静岡県であった。これらの県はどの側面をとっても比較的上位に位置し、バランスの取れた県であることが判明した。アンケートを用いた新たな総合健康指標の開発を試み、各県の健康度の比較を行った。2.都道府県の職業別健康指標の比較研究-職業別の健康度では、職業別に見た場合、それぞれの職業にはっきりした傾向は認められなかったものの、保険別に見るとほとんどの県で共済組合の健康状況がよいことが判明した。特に介入側面の健康診断受診率においては、この差が大きく政管と共済組合の間で、男女ともに10%以上の差があった。3.コホート死亡率の生涯疫学的分析-以前から知られているように、男性では昭和一桁(1925年から35年)生まれは前後の世代に比べて死亡率が高かった。しかし、その格差は経済不況によって強調されている。さらに戦中世代(1940年から43年ごろ)も同様に前後の世代に比べて死亡率が高く、その差は経済的不況によって強調されていた。女性ではこれらの特徴は認められず、世代ごとに死亡率はしだいに低下していた。身長の歴史的変化を見ると、昭和一桁で前後の世代よりも青年期に低く、それらは栄養調査で示された低栄養期と重なっていた。生涯のうち男女とも1歳から3歳まで、男子の場合15歳から18歳で最も身長の伸びが多く、この時期に戦争期の低栄養が加わると、中高年期での死亡率が増加することが明らかとなった。記述疫学的分析ではあるが、欧米での生涯疫学分析の仮説が証明されたといえよう。4. 計画づくりのためのまちづくり研究-行政だけではなく様々な社会主体との協働の可能性を模索した。同時に現在の健康に関する社会的な変化の傾向についても明らかにすることで、解決されるべき問題についての重要な示唆を与えることができた。今後はNPOやIT革命といった新しい動向をも踏まえた計画の策定、推進のためのまちづくりがなされなければならない。フォーカスグループ、個別ヒアリングでは、①「まちづくり」はコミュニティづくり、地域における人間関係づくりととらえられる面も多いが、実際のところは、道路、住宅、交通機関などのハードウェアを変えていくことが重要であること、②都市部と地方部の違いに着目したモデルが必要であること、③特に都市部では、グローバリティとローカリティのバランスが重要であること、④「まち」の評価システムをつくり、「まち」はその魅力で人々を誘致し、人々が「まち」の魅力によって移動(引越し)するような流通のしくみが必要であること、⑤行政、企業、学校、職場などのあらゆるセクターが連携・協働し「まちづくり」を行なう必要があること、などが明らかとなった。まちづくりに関する連携や住民参画の現状は、先進市町村の事例のようなケースもあるが健康・生きがい・安心の機能が全国レベルでは十分とはいえない。上記の既存資料整理から、まちづくり構成因子を拾い上げ、当該市町村に住む満足度の調査が今後必要と考えられる。5.都道府県健康日本21計画評価-領域の設定に関しては、国レベルの計画で設定されている9領域を踏まえている都道府県が大部分であったが、それ以外のユニークな領域を設定したり、関連領域を一つにまとめたりしているところもあり、工夫がみられた。目標の項目に関しては、基本的には国のものを踏襲しているが、表現を多少違うものにするなどしている県もあった。また、地場産業の活性化や地域の連帯などを促すような目標値もあり、地域全体で取り組むという健康日本21のコンセプトをよく理解している県もみられた。目標値の設定に関しては、やはり国と同様の値を設定しているところが大部分であり、各県の実情を踏まえた数値設定が望まれるが、現状数値及び、目標に関しての数値を示していない県もあり、執行、評価の障害となりかねないと思われる。6.個人の健康概念整理-以下のようにまとめた。①健康への関心、価値観は、年齢、世代、生活
環境などによって多様化しており、それぞれに個別のメッセージや方法が必要である。②人々がマスメディアなどから受け取るメッセージは刺激的で魅力的であり、いわゆる行政的健康づくりメッセージでは太刀打ちできない。注目してもらえるメッセージが必要である。③生活習慣病予防への正しい知識、地域や職場での健康づくりの機会など、まだ知識レベルで伝わっていない情報も多い。これらを伝える工夫も必要である。④健康日本21の大きな意図、グランドデザインは個人には伝わっていない。最終的に個人に伝わっているのは市町村や企業などから伝えられる「野菜を食べよう!」「禁煙しよう」などのアクションを誘導するメッセージだけである。単純に比較はできないが、欧米では一般市民にも政策の意図やグランドデザインがもっと伝わっているように感じる。健康日本21の意図やグランドデザインを一般の人に伝えることで、従来は健康づくりに関心の薄かった知識層の20~40代の都会型生活者をとりこめるのではないか。⑤「健康に関する情報が多すぎて何が本当か困る」とよく言われる。これは、別の見方をすれば「唯一絶対の答え」がある、という高度成長期以来の判断基準である。しかし、実際は健康の科学的根拠も時間がたてば新しいものに変る。昨日正しかったことが今日は正しくない、というスピードの速い時代を人々は生きている。また、健康づくりも「何が本当か、何が正しいか」という時代から「私は何を選ぶのか」という時代になっているが、まだ人々の気持ちは追いついていない。自己選択と自己責任という文化を広める必要がある。
結論

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