ダイオキシン類のヒト暴露状況の把握と健康影響に関する研究

文献情報

文献番号
200200957A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類のヒト暴露状況の把握と健康影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
渡邊 昌(東京農業大学応用生物科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮田秀明(摂南大学)
  • 飯田隆雄(福岡県保健環境研)
  • 秦 順一(慶応義塾大学医学)
  • 大滝慈(広島大学)
  • 鎌滝哲也(北海道大学)
  • 臼杵靖晃(大塚アッセイ研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
23,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は、その発生が有機塩素化合物の生産過程や廃棄物の処理過程等で発生すると考えられているが、その影響が人体に対し、どの程度起こり得ているのかを評価することが必要不可欠である。日本では耐用一日摂取量(TDI)を最近4pg/kg体重としたが、算定根拠とした海外のヒト曝露影響の研究は大量暴露後の追跡調査が主であり、2,3,7,8-TCDDのみしか測定されていない。我が国のように低濃度慢性的曝露が続いた場合の健康影響は研究が不十分な状態である。本研究においては、日本各地で一般人の曝露程度を明らかにし、ダイオキシン・PCB類が人体の健康にどの程度の影響を及ぼしているかについて平成10年度から疫学研究を行ってきた。また簡易な測定法の開発、最近話題になった臭素化ダイオキシン類の測定法の開発、鋭敏な曝露の生体指標の研究もおこなうことを目的とした。また、日本人の曝露状態から半減期を推定し、ダイオキシン類曝露の低減についての方策を発見できるように研究体制を組んだ。これによりわが国におけるバックグランド値を明らかにし、人体影響データと比較するための公開用データベースつくりを目的とした。
研究方法
本研究では、ダイオキシン類の健康影響を明らかにするために、平成10年より一定のフォーマットにより、焼却場周辺および対照地域、厚生省多目的コホート地域の住民を対象に厚生労働省、府県、市町村、保健所などが協力して選択し、全国17地域(岩手、秋田、宮城、神奈川、新潟、長野、大阪、鳥取、島根、長崎、沖縄)でボランテイアーの研究協力者を集めた。原則として各地域に居住する30~60歳代の男女を対象とし、インフォームドコンセントをとって、生活習慣に関するアンケート調査、身体測定、採血を行ない、ダイオキシン類測定(PCDD7種、PCDF10種、コプラナーPCB12種)と血液検査、生化学検査、免疫検査、ホルモン検査をおこなった。調査を完了した者は合計740名である。その結果はすべてデータベースとして入力し、SPSS Ver11.5を用いて解析した。
日本の焼却場作業者の高曝露者の経年データから血液中のダイオキシン類濃度の半減期を統計数学的に推定した。解析は,血中薬物濃度の時間的推移を表現した1-コンパートメントモデルに基づいて行った。また臓器ごとに曝露状況を把握するために病理解剖症例により、特定の疾患や病態と蓄積の相関関係を得るための基礎デ?タを作成した。
CYP1A1およびCYP1B1はダイオキシン類で誘導されることが知られている。これらがヒトにおいても特定の曝露に対応して生体指標になるかどうか、ダイオキシン類への高曝露が疑われるヒトの凍結末梢血より全RNAを調製し, ダイオキシン類で誘導されることが知られているCYP1A1およびCYP1B1のmRNA量を高感度リアルタイムPCR法により定量した。
高分解能GCMSによる測定は高価で時間もかかる。簡便で、安価に、また同時に多数の検体を処理できるAh-immunoassay法を、全血13検体及び血漿9検体の合計22検体を用いてその有用性を検討した。Ahを一定量含むサイトゾルに検体を入れ、核内蛋白質Arntを結合させ、抗Arnt抗体によるimmuno assay法である。また、少量の血液でダイオキシン類測定ができるようにASE抽出法をさまざまな温度と圧力で検討した。大量溶媒注入装置を装着したGC/MS測定を組み合わせた高感度迅速分析法を検討した。
臭素化ダイオキシンの測定法を開発し、脂肪抽出→硫酸シリカゲル処理による脂肪除去→硝酸銀シリカゲルカラム精製→活性炭分散シリカゲルカラム精製→高分解能GC/高分解能MS分析による方法を開発した。最も低極性の塩素化ダイオキシン類と最も高極性の臭素化ダイオキシン類を含む標準品を利用することにより、血液試料を対象とした全臭素系ダイオキシン類の分析を試みた。
結果と考察
本研究では、ヒト資料中のダイオキシン類の測定法の開発とともに、平成10年より一定のフォーマットにより全国17地域住民を調査し、地域差の有無、食生活、生活習慣、疾病とダイオキシン類の関連を明らかにする事を目的としてきた。全国17地域(岩手、秋田、宮城、神奈川、新潟、長野、大阪、鳥取、島根、長崎、沖縄)は焼却場周辺および対照地域、厚生省多目的コホート地域の住民を対象に厚生労働省、府県、市町村、保健所などが協力して、ボランテイアーの研究協力者を集めた。原則として各地域に居住する30~60歳代の男女を対象とし、インフォームドコンセントをとって、生活習慣に関するアンケート調査、身体測定、採血を行ない、ダイオキシン類測定(PCDD7種、PCDF10種、コプラナーPCB12種)と血液検査、生化学検査、免疫検査、ホルモン検査をおこなった。調査を完了した計740名の結果はすべてデータベースとして入力し、SPSS Ver11.5を用いて解析した。
対象者の測定結果より、血中ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+PCBs)濃度は、21.5±13.8pgTEQ/g脂肪であった。年代別の濃度を男女別に見てみると、男性の40代で24.1 pg-TEQ/g脂肪、50代で26.7 pg-TEQ/g脂肪に対して女性が18.7 pg-TEQ/g脂肪、21.6 pg-TEQ/g脂肪と男性の方が高かった。小数ではあるが10代で18.1pg-TEQ/g脂肪、50代で24.4pg-TEQ/g脂肪とその差は大きかった。このことは、ダイオキシン類が難代謝性であり、体外に排出されにくいため、長年の生活環境によって、加齢とともに蓄積濃度が増加することを反映しているといえる。
地域別では、大阪が最も高く(平均値39.3pg-TEQ/g脂肪)、岩手・沖縄等が低かった(平均値8.6pg-TEQ/g脂肪)。大阪の対象者は、高度に汚染した焼却場周辺の人達が含まれたため大気汚染や環境からのダイオキシン類曝露が考えられる。食生活や生活習慣との関連を検討し、岩手の対象者の血中ダイオキシン類濃度の低いのは環境とともにPCB濃度の低い食品を摂取する傾向が寄与したと考えられた。職業では、農業者が高く、特に米、野菜、果樹栽培者はダイオキシン類濃度との間に正の相関がみられた。事務職は負の相関を示し、販売やサービス(主婦)では正の相関がみられた。喫煙歴があり、喫煙本数の多い男性はダイオキシン類との間に正相関がみられた。飲酒習慣では、酒の種類によってPCB濃度に差がみられた。食生活では、魚介類、肉類、乳・乳製品など動物性食品を多食する人に血中ダイオキシン類濃度と正の相関がみられた。
既往歴では、高血圧とPCB_TEQ、糖尿病とPCB_TEQ及びTotal_TEQ、高脂血症とPCB_TEQ、痛風とPCDD_TEQ、PCB_TEQ、Total_TEQ、Body_Burden、アレルギーとPCB_TEQとの間に相関が見られた。生化学値において、肝・腎機能マーカーで正の相関、免疫・内分泌マーカーで負の相関が見られた。このことは低濃度曝露であってもなお、健康影響について長期の追跡研究が必要なことを示す。女性については、母乳保育の期間とダイオキシン類との間に負の相関がみられた。子供の性比に与える影響は、有意差は見られなかったものの、完全には否定できない。これら結果は国際ダイオキシン学会において発表し、各国の研究に各異性体測定の重要性、各生体指標とリンクさせた研究の重要性を示せた。とくに糖尿病との関係は国際的にも注目されていてPCBの危険性に関し、再評価が必要なことを示せた。
日本の焼却場作業者の高曝露者の半減期を反復測定結果から推定したところ、個体間で大きく異なるが0.36年~3.89年と推定された。個人の流出係数に対する曝露時点での血中濃度, 流入係数, BMIの影響を調べ、年齢、BMIとの間に有意な関係は認められないが、排出係数と流入係数の間の正の関係が示せた(p値=0.131)。ダイオキシン類の各異性体ごとの半減期の推定に関してPortierら(1999)の2.69年~ 19.09年という報告があり,また2,3,7,8-TCDDを経口投与した場合の半減期が5.8年, 9.7年,またベトナム戦争の兵士を対象とした調査で7.1年 8.7年,11.3年などという報告がある。今回の結果は比較的短い半減期の推定結果を得たが、一般人の低濃度曝露でもおなじ結果になるか平成14年度において二回目調査した結果を分析中である。
ダイオキシン類で誘導されることが知られているCYP1A1およびCYP1B1のmRNA量を高感度リアルタイムPCR法により定量した結果、ダイオキシン類によるCYP1B1誘導は三峰性を示した。CYP1B1誘導を指標としたときの最小ダイオキシン類濃度は6.5 pg/g lipidであった。これは生体曝露の良い指標となることが示せた。
簡便で、安価に、また同時に多数の検体を処理できるAh-immunoassay法を、全血13検体及び血漿9検体の合計22検体を用いてその有用性を検討した。GC/MS法及びAh-immunoassay法で得られた測定値の間には相関係数r=0.851と有意な相関関係がえられた。さらに、四元分割表による分析を行った結果、診断感度80.0%、診断特異度42.9%、有効度68.2%であり、ヒト血中ダイオキシン類のスクリーニング法に使用できる可能性が示せた。少量の血液から測定を簡便化するためASE抽出法を検討し血液、血清から効率よくPCDD/DFs及びNon-ortho-PCBsが抽出できた。さらに、大量注入ができるSCLVを使用することにより高感度で迅速な分析が可能になり、ヒト臓器・組織に対しても応用できることが示せた。
臭素化ダイオキシンの測定法を開発し、最も低極性の塩素化ダイオキシン類と最も高極性の臭素化ダイオキシン類を含む標準品を利用することにより、血液試料を対象とした全臭素系ダイオキシン類の分析ができた。
結論

公開日・更新日

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