ダイオキシン類汚染に起因する悪性新生物死亡の超過リスクに関するコホート研究

文献情報

文献番号
200200941A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類汚染に起因する悪性新生物死亡の超過リスクに関するコホート研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
丹後 俊郎(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 藤田利治(国立保健医療科学院)
  • 谷畑健生(国立保健医療科学院)
  • 簑輪眞澄(国立保健医療科学院)
  • 国包章一(国立保健医療科学院)
  • 内山巌雄(京都大学)
  • 田中 勝(岡山大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今日焼却施設から排出されるダイオキシン類の及ぼす健康影響について国民の関心が高まりその的確な対策が急がれている。しかし,マスコミ等で様々な暴露状況,健康影響に関する報道が繰り返されているがダイオキシン類の測定の困難性から測定法上問題の多いデータが一人歩きして,見かけの影響,誤った解釈が国民を混乱に陥らせている可能性もある。本研究は、国民の間のいたずらな混乱・不安を解消するとともに、有効な施策のための的確な情報を提供するため、日本全国の焼却施設の中から排出量の多い中規模以上の焼却施設を選び、その周辺における住民への影響、特にダイオキシン類の健康影響として欧米でその影響が示唆されている悪性新生物死亡への超過リスクを人口動態死亡票を利用した日本で初めての大規模後ろ向きコホート研究により解明することを目的とする。
研究方法
本年度はごみ焼却施設周辺のコホート調査を実施する上で実現可能でかつ効果的な研究プロトコールの策定のための必要な調査研究として以下の4つの分担研究を行った。平成15年度から前年度に策定されたプロトコールに基づいて研究を実施する予定である。(1)ごみ焼却施設、施設周辺の市区町村、死因の選定に関する研究(分担者:谷畑健生、藤田利治、簔輪眞澄、丹後俊郎):厚生省が平成9年4月に緊急対策の判断規準として示した「排煙1立方メートル当たり80ng-TEQを越えた施設」の中から周辺の地形、土地利用状況、人口規模などを検討し、対象施設と施設周辺の半径20kmの同心円内とその境界に位置する市区町村を決定する。また、対象とする悪性新生物の死因を諸外国の類似研究により選定する。 (2)固定発生源周辺における超過リスク検出のための統計モデルに関する研究(分担者:丹後俊郎):施設周辺の悪性新生物死亡状況の経年的推移と施設からの距離との関連性を検討し、経年的推移の変化の大きさが施設周辺に大きいか否かを鋭敏に検出する方法を、施設からの距離以外の要因も考慮に入れた柔軟な統計モデルを検討する。固定発生源の周辺における健康影響(疾病集積性)を評価する既存の統計技法との比較研究を行うとともに,新しく検出力の高い方法の開発をめざす。 (3)ごみ焼却施設由来の土壌中ダイオキシン類の曝露評価に関する研究(分担者 国包章一、田中勝、内山巌雄、丹後俊郎):施設周辺ダイオキシン類土壌中濃度の空間的広がりの分布を評価するモデルを構築するための有力な情報として代表的なごみ焼却施設を選定し、発生源由来の土壌中ダイオキシン類測定調査(空間的分布)を行う。(4) ごみ焼却施設周辺の湖沼底質年代評価に関する研究(分担者 内山巌雄、田中勝、国包章一、丹後俊郎):ごみ焼却施設周辺の湖沼底質中のダイオキシン類濃度及び低質項目について測定を行うことにより、周辺地域におけるダイオキシン類の経年変化(時間的分布)を追い、曝露年代を推定することを目的とする。
結果と考察
(1) ごみ焼却施設、施設周辺の市区町村、死因の選定に関する研究:厚生省が平成9年4月に緊急対策の判断規準として示した「排煙1立方メートル当たり80ng-TEQを越えた施設」の中から周辺の地形、土地利用状況、人口規模などを検討し、対象施設を50-60程度に絞りこんだ。また、各施設周辺の半径20kmの同心円内とその境界に位置する市区町村を決定した。その際、焼却施設、市区町村の地理的位置の座標化を行うため、市区町村の地理的位置は人口中心点を利用したxy平面座標へプロット、各施設からの距離などこの種の
計算を効率的に行うツールとして、GIS(Geographical Information System)を利用した。この作業のためのデータ入力作業と膨大な計算の一部は業務委託を行った。また、対象とする悪性新生物の死因として、全悪性新生物、胃がん結腸がん、肝がん、鼻腔・中耳の悪性新生物、副鼻腔の悪性新生物、上咽頭の悪性新生物、喉頭の悪性新生物、肺・気管支の悪性新生物、膀胱がん、軟部悪性新生物、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、白血病の13死因を選んだ。(2) 固定発生源周辺における超過リスク検出のための統計モデルに関する研究:施設周辺の悪性新生物死亡状況の経年的推移と施設からの距離との関連性を検討し、経年的推移の変化の大きさが施設周辺に大きいか否かを鋭敏に検出する方法論、つまり、空間的変動と時間的変動を同時に考慮する方法論を検討した。その際、地域別の死亡数がゼロとなる場合を考慮した方法を新しく検討し、かつ、施設からの距離以外の要因も考慮に入れた柔軟な統計モデル基本的な方法論を英国王立統計学会主催の国際統計学会で発表(招待講演)した。(3)ごみ焼却施設由来の土壌中ダイオキシン類の曝露評価に関する研究:施設周辺ダイオキシン類土壌中濃度の空間的広がりの分布を評価するモデルを構築するための有力な情報として代表的なごみ焼却施設を選定し、発生源由来の土壌中ダイオキシン類測定調査(空間的分布)を行った。空間的分布の推定については、厚生省が平成9年4月に緊急対策の判断規準として示した「排煙1立方メートル当たり80ng-TEQを越えた施設」を対象候補施設として選定し、それぞれの施設周辺のダイオキシン類排出状況、排出負荷量、地形、土地利用状況、気象観測所からの距離などを調査した。その中から1施設に絞り、その周辺20数箇所を選択し土壌サンプルを採取した。(4)ごみ焼却施設周辺の湖沼底質年代評価に関する研究:分担研究で選択した焼却施設周辺の湖沼を選定し、錯乱がないと思われる場所より測定コアを用いて底質を採取して年代測定を行うとともに、底質に含まれていたダイオキシン類を測定した。分担研究(3),(4)の測定は、分析精度の優れている分析会社に業務委託を行った。分析に時間がかかるため、分析結果は来年度の初期頃に判明する予定である。
結論
本年度はごみ焼却施設周辺のコホート調査を実施する上で実現可能でかつ効果的な研究プロトコールを策定するために4つの分担研究を実施した。これらの研究は着実に進んでおり、来年度に継続上の支障は特にないように思われる。平成15年度からは本年度に選定された市区町村毎の悪性新生物死因のデータを人口動態統計調査票を目的外使用で取得する予定である。平成15年度後半には、超過リスクを評価するためのデータベース・解析ソフトの整備を行う予定である。順調にすすめば,平成16年度初期に解析が開始され、焼却施設周辺における住民の周産期への健康影響として、悪性新生物死亡への超過リスクが日本で初めての大規模後ろ向きコホート研究により解明することができる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-