文献情報
文献番号
200200940A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類等の化学物質の食品及び生体試料検査における信頼性確保と生体曝露モニタリング法の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
柳澤 健一郎((財)食品薬品安全センター)
研究分担者(所属機関)
- 中澤裕之(星薬科大学)
- 織田 肇(大阪府衛生研究所)
- 米谷民雄(国立医薬品食品衛研究所)
- 松木容彦((財)食品薬品安全センター秦野研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ダイオキシン類は動物を用いた実験により,急性毒性,免疫毒性,発ガン性,生殖毒性等が強く疑われており,また,発現機序等についてもいまだ不明な点が多いことから,これら環境汚染化学物質による食物汚染やヒト体内暴露による国民健康への影響が懸念されている.しがって,これらの化学物質の生活環境からの一日も早い低減化と環境改善ならびに経年的かつ長期的なモニタリング調査が必須とされる.近年,環境汚染化学物質の検査を目的とした民間検査機関が行政の規制緩和策を受けて急増し,その結果,検査機関から出される検査結果の信頼性が問われる問題も生じている.このような社会的背景下,環境汚染化学物質検査のみならず食品衛生検査や組換えDNA食品検査等も含め,出力される検査データの信頼性保証を確保するための精度管理方策,すなわち,検査ガイドラインや操作マニュアルの整備,精度管理実施体制と信頼性保証担保システムの整備などについての具体的対応策を打ち出すことは行政上の取り組むべき重要かつ緊急な課題であり,その方法の開発や基礎的データの作成あるいは関連資料の提供を行うことが当研究班の研究目的である.本研究班では,1.PCB代謝物および難燃剤成分のHRGC/MSモニタリング法の確立と精度評価に関する研究(中澤分担研究),2.血液および母乳試料中ダイオキシン測定マニュアル実試料への適用性ならびに生体曝露に関する研究/臭素化ダイオキシン測定法の確立と測定操作マニュアル作成に関する研究(織田分担研究),3.食品中ダイオキシン類分析の信頼性確保に関わる調査研究(米谷分担研究),4.生体試料中ダイオキシンの簡易モニタリング法の実用性評価および臭素化ダイオキシンELISA確立に関する/食品衛生検査精度管理調査における適正調査試料作製と質的向上に関する調査研究(松木分担研究)の4研究課題を実施した.
研究方法
1.中澤分担研究:有機塩素系農薬,PCNやPCB及びその代謝物,ポリ臭素化ジフェニルエーテルなどの臭素系難燃剤(以上合計59種類)の分析に,自動化抽出システムを組み入れた一斉分析法の構築について検討した.2.織田分担研究:1)先に当研究班で作成した既存の母乳中ならびに血液中ダイオキシン測定暫定マニュアルに,実試料測定時の問題を加味して,より実質的なマニュアルに改定した.2)先に当研究班で作成し提示した臭素化ダイオキシン類分析の基礎的な操作マニュアルに,最新の測定技術的知見を導入して,より信頼性の高い高感度な分析マニュアル(案)への改定を行った.また,臭素化ダイオキシン測定における分析化学的検討課題を洗い出し検討した.3.米谷分担研究:食品中のダイオキシン分析の外部精度管理調査試料として魚(ボラ)筋肉部凍結乾燥品を基材とする調査試料を作製し,調査に供した.作製した試料については,均一性を確認した後,8検査機関での精度管理調査を実施した.また,植物性試料基材についても検討した.4.松木分担研究:1)臭素化ダイオキシンのELISA法を確立するため,臭素化ダイオキシンハプテン,免疫原および酵素標識ハプテン抗原を合成した.ついで,PBDD/Fsに対するモノクローナル抗体を作製した.2)先の研究班(平成11-13年度)で作製した塩素化ダイオキシン類アッセイ用のELISAキットの精度を確認するため,ダイオキシン分析機関8社においてコラボレーション試験を実施した.3)食品衛生検査外部精度管理調査の微生物検査における大腸菌同定検査法の培地条件や温度条件の適正について検証した.また,理化学検査においては,金属検査試料
として実食材試料に近いカドミウム米と動物用医薬品検査試料として液卵試料の作製を行った.さらに,調査試料配布時における高温季の輸送中の温度履歴について調査した.4)組替えDNA検査で定性PCR法解析に用いられるゲル撮影装置の性能比較および配布試料の組替え体と非組替え体表示の適否と安定性について調べた.
として実食材試料に近いカドミウム米と動物用医薬品検査試料として液卵試料の作製を行った.さらに,調査試料配布時における高温季の輸送中の温度履歴について調査した.4)組替えDNA検査で定性PCR法解析に用いられるゲル撮影装置の性能比較および配布試料の組替え体と非組替え体表示の適否と安定性について調べた.
結果と考察
1.中澤分担研究:生体試料からの脂質の抽出法として,高速溶媒抽出法(ASE)を採用した.得られた脂質をGPCによりクリーンアップ後,シリカゲルを充填した固相抽出カラム(SPE)を用いて分析対象化合物を,低極性物質群(5%ジクロロメタン/ヘキサン溶出フラクション:Fraction-A)と高極性物質群(10%メタノール/ジクロロメタン溶出フラクション:Fraction-B)に分画し系統的測定を可能とした.59種類の環境汚染化学物質はほぼ良好に回収された.2.織田分担研究: 2-1)母乳および血液中のダイオキシン類測定暫定マニュアルにおいてはそれぞれ以下の点を追加記載した.母乳については,①装置の検出下限値は20~50fg,試料量は母乳50mLとする.②各種のダイオキシン類とコプラナーPCBの目標定量下限値については新たに定めた.③カラムクロマトグラフィーによるPCBの分取およびGC/MS測定においては,「ノンオルソPCB+ダイオキシン類」および「モノオルソPCB」の2回測定を基本とすることとした.血液については,①脂肪抽出においては,全血では,暫定マニュアルのままとするが,血清および血漿では,試料量を全血の半分とする.②目標定量下限値は,母乳の場合と同様とする.③試料の少量化に当っては,内径の小さなカラムの使用や大量注入法を導入することにより実現可能であることをマニュアルには含めず,参考資料として示すこととした. 2-2)臭素化ダイオキシン類のマニュアル作成においては以下の点を追記した.①生体曝露評価に必要とされる分析対象化合物の選択およびそれらの目標定量下限値,②前処理方法において臭素化ジフェニルエーテルなど臭素化ダイオキシン分析妨害物質の分離除去方法,前処理および機器分析操作途中での臭素化ダイオキシンの分解防止対策,③GC/MS分析における高感度検出方法等,を分析法マニュアル(案)に取り入れた.また,④標準物質が市販されていない化合物の測定法,臭素化ダイオキシンの前処理およびGC/MS検出時における安定性の確認,標準物質に対する内標準物質の選択,高感度検出法の改良など臭素化ダイオキシン分析における検討課題点を明らかにした.3.米谷分担研究:作製した精度管理調査試料の複数について分析し,使用する試料の均一性を評価したところ,調査試料として均一であり,外部精度管理調査用として充分使用可能であった.また,各機関からの調査結果を統計的に評価して,各機関の技能の評価を検討した結果,大方のダイオキシン異性体のRSDは40%以下であったが,7置換体のPCDFについては50%以上であり,また,コプラナーPCB類は43%といくぶん高い結果であった.検査施設間のRSDは7.4%であった.植物性の試料として茶の外部精度管理調査用試料を作製した.4.松木分担研究:4-1)臭素化ダイオキシンの酵素免疫測定法の開発については,ポリ臭素化ダイオキシン(PBDD)ハプテン,免疫原および酵素標識ハプテン抗原を合成し,PBDD/Fsに対するモノクローナル抗体を作製した. 4-2)平成11~13年度の厚生科学研究費補助金研究(松木班)においてキット化したダイオキシンELISAキットの精度評価のため,分析機関8社においてコラボレーションを実施した結果,検量線作成においては,各機関ともほぼ近似した検量線が得られた.検量線吸光度の相対変動係数は,各濃度とも14%以下であった.引き続き,測定機関間での変動と分析操作上の問題点の有無等を調べた結果,標準品添加精製バター試料での変動はやや大きく,15%以下であったが,簡易測定法としては満足すべき結果であり,その他の操作上,特に問題となるような技術的問題は見られなかった. 4-3)食品衛生外部精度管理調査の大腸菌同定検査試料については,公定法として採用されている培地(EC培地)と指定温度条件下で検討したところ,大腸菌の汚染濃度あるいは大腸菌の性状によっては,大腸菌が存在していても陰性となりうる
事が,また,公定法の操作の一部を変えて培養する場合にはより正確に大腸菌を検出する事ができることが明らかとなった. 4-4)理化学検査においては,玄米,無洗米および精白米について,目的濃度に適合し,かつ均一な濃度のカドミウム米試料(F値:3.22%<5%)が得られた.一方,液体試料として動物用医薬品(フルベンダゾール)添加液卵試料を作製し,目的濃度に適合し,かつ均一な濃度の鶏卵試料(F値:1.37%<5%)が得られた. 4-5)輸送中の精度管理調査用配布試料の温度管理状況調査においては,普通便,冷蔵便及び冷凍便による温度履歴調査(高温期調査)を試みた結果,一部の事例を除いて概ね良好な温度管理がなされていることが確認された. 4-6)組換えDNA検査の基礎的検討においては,定性PCR法の解析に使用する,各種のゲル撮影装置について性能を比較した結果,CCDカメラはポラロイドカメラに比べて感度が2倍以上優れていること,用いた4種のCCDカメラ間には,明確な差は認められないことが分かった.外部精度管理調査調査試料(パパイヤ)の定量試験に先立ち,厚生省の通知法により,配布試料の組替え体と非組替え体表示の正否の確認試験を行った結果,GUS法,PCR法のいずれについても両配布試料の表示が正しいことを確認した.残りの試料を用いて両法で安定性を調べた結果,冷凍,室温のいずれの条件下でも少なくとも検査期間(2-3週間)安定であることを確認した.
事が,また,公定法の操作の一部を変えて培養する場合にはより正確に大腸菌を検出する事ができることが明らかとなった. 4-4)理化学検査においては,玄米,無洗米および精白米について,目的濃度に適合し,かつ均一な濃度のカドミウム米試料(F値:3.22%<5%)が得られた.一方,液体試料として動物用医薬品(フルベンダゾール)添加液卵試料を作製し,目的濃度に適合し,かつ均一な濃度の鶏卵試料(F値:1.37%<5%)が得られた. 4-5)輸送中の精度管理調査用配布試料の温度管理状況調査においては,普通便,冷蔵便及び冷凍便による温度履歴調査(高温期調査)を試みた結果,一部の事例を除いて概ね良好な温度管理がなされていることが確認された. 4-6)組換えDNA検査の基礎的検討においては,定性PCR法の解析に使用する,各種のゲル撮影装置について性能を比較した結果,CCDカメラはポラロイドカメラに比べて感度が2倍以上優れていること,用いた4種のCCDカメラ間には,明確な差は認められないことが分かった.外部精度管理調査調査試料(パパイヤ)の定量試験に先立ち,厚生省の通知法により,配布試料の組替え体と非組替え体表示の正否の確認試験を行った結果,GUS法,PCR法のいずれについても両配布試料の表示が正しいことを確認した.残りの試料を用いて両法で安定性を調べた結果,冷凍,室温のいずれの条件下でも少なくとも検査期間(2-3週間)安定であることを確認した.
結論
1.中澤分担研究:生体試料中の残留微量化学物質の簡易でかつ迅速なクリーンアップ操作法が確立できた.ストックホルム国際会議で規制対象となったPOPsに加えて臭素系難燃剤とPCB代謝物を含めたけ系統分析法ができ,今後各検査機関での利用が期待される.2.織田分担研究:母乳および血液中ダイオキシン類測定マニュアルの追加修正を行い,ほぼ完成したマニュアルにした.本マニュアルに従い平成15年度に各検査機関でのクロスチェックを実施する予定である.また,本マニュアルの使用により検査データの信頼性が向上することが期待される.臭素化ダイオキシン測定マニュアルについては測定上の実質的な検討課題を明らかに出来,今後のマニュアル作成の基盤的情報が得られた.3.米谷分担研究:食品中ダイオキシン測定の精度管理試料として,はわが国で初めて実食材の魚体試料作製に成功し,今後広く提供が可能となった.また精度管理調査の結果,検査施設間のRSDは7.4%であり,各施設における分析技術は充分信頼性の高いことが確認された.今回の試料作製技術を応用してさらに,植物基材を含め試料種の範囲を広げる.4.松木分担研究:臭素化ダイオキシンのモノクローナル抗体が作製できたので平成15年度はELISAアッセイ系を確立する.塩素化ダイオキシンのELISAキッツトが実用性の高い簡易型モニタリング法であることが確認できたので,平成15年度はポリクローナルを用いたELISAキットについてコラボレーション試験を実施する.精度管理調査における微生物検査においては,公定法の検査課題を明らかにした.理化学検査においては,実食材を使用した精度管理試料が作製できた.平成15年度は,この技法をもとにさらに適正な試料を提供するとともに,各検査機関のデータについて,用いている検査法別の評価を試みる.試料送付期間における温度管理状態は必ずしも万全ではない結果が得られた.組替えDNA食品の精度管理試料(パパイア)の表示の正否および安定性を確認した.また,使用するカメラ間の精度を比較確認した.
公開日・更新日
公開日
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更新日
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