内分泌かく乱物質PCBと子宮体がん発生リスクに関する症例対照研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200937A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質PCBと子宮体がん発生リスクに関する症例対照研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
八重樫 伸生(東北大学大学院医学系研究科泌尿生殖器学講座婦人学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤潔(東北大学大学院医学系研究科泌尿生殖器学講座婦人学分野)
  • 佐藤洋(東北大学大学院医学系研究科環境保健医学分野)
  • 坪野吉孝(東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野)
  • 岡村智佳子(東北大学大学院医学系研究科泌尿生殖器学講座婦人学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
23,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は症例対照研究の手法を用いてヒトにおいて子宮体がんの発生と内分泌かく乱化学物質 PCB (Polychlorinatedbiphenyls)の関連性について検討することである。今回の研究では血中のPCB濃度、内因性のエストロゲン濃度、植物エストロゲン濃度を測定し、生活習慣や食物摂取頻度に関するアンケート調査を行うことにより、子宮体がんのリスクといわれている交絡要因も十分考慮し、より確実に疾病発生とPCBの関連を調査する。
研究方法
①文献レビュー:文献検索には米国立医学図書館の医学文献データベースPubMed (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi)を用いた。(Endometrial cancer) AND (PCBs OR organochlorines)のキーワードで文献を検索した。ヒト集団を対象とする疫学研究の原著論文を同定した。②高危険因子の抽出:症例対照研究のデザインで、予備調査として症例155人、対照(子宮がん検診受診者)96人に対し、ホルモンや環境要因などについて50項目に及ぶ記述式アンケートと食物摂取頻度調査票を用いて、141の食品項目について摂取頻度を調査した。③子宮体がんの発生と内分泌かく乱化学物質PCBに関する症例対照研究:子宮体がん症例とそれに年齢や居住地をマッチングさせた対照者のあいだで比較する。症例、対照の登録期間は3年とする。平成14年度には登録システムを確立し、実際の登録を開始する。同15年度には登録を継続し、同16年度に結果の解析評価を行う。1)対象の選択と登録A)症例の登録:2002年4月?2005年3月までに東北大学医学部附属病院にて手術を施行し、病理組織学的にendometrioid adenocarcinomaと診断された者(推定症例数150人)。B)対照の登録:同期間内に同施設にて人間ドックを希望受診した女性から、症例1人につき対照2人登録する。推定対照数は300人である。対象者の選別は年齢や居住地などの諸条件を症例と合わせることにする。2)血液検査:対象者より血液30mlをSRL規定の真空管に採血を行う。PCBはガストロクロマトグラフィーで測定する(SRLに委託)。カロテノイド、ビタミンC、ビタミンE、エストロゲン、植物性エストロゲンの血中濃度を測定する。3)アンケート調査:調査項目:身長、体重、月経歴、妊娠出産歴、授乳歴、経口避妊薬の使用、ホルモン補充療法、子宮内避妊具の使用、不妊歴、既往症、年収、学歴、喫煙歴などについて50項目に及ぶ記述式アンケートを施行する。4)食物摂取頻度調査票(FFQ):再現性と妥当性について検証された食物摂取頻度調査票を用いて、141の食品項目について摂取頻度を調査する。最終年度に栄養素はエネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、カルシウム、リン、鉄、ナトリウム、カリウム、レチノール、カロテン、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンCの摂取量を残差法で補正して求める。5)解析方法:症例群と対照群でPCB曝露量を比較検討する。子宮体がんの発生に関与すると考えられる生活習慣、栄養素、エストロゲンや植物性エストロゲンの血中濃度を交絡要因として補正する。
結果と考察
①文献レビューによるPCBと子宮体がん発症に関する現状:これまでに内分泌かく乱物質PCBと子宮体がん発生についての疫学的な検討は2件報告されていた。いずれも欧米人を対象とした人口ベースの症例対照研究であり、PCBを含めた有機塩素系化合物について血清レベルの比較を行ったが、子宮体が
んとの有意な関連は認めなかったという報告であった。②高危険因子の抽出:日本人における子宮体がん罹患の高危険因子は、高年齢、少ない妊娠回数、肥満であり、一方経口避妊薬の使用と授乳歴はリスクを低くすることが明らかになった。③PCBと子宮体がん発生リスクに関する症例対照研究:本研究を遂行するにあたり、(1)交付申請時に提出した子宮体がんの高危険因子抽出に関する症例対照研究のプロトコールを再度吟味し、交付額を考慮に入れながら子宮体がんとPCBとの関連性を科学的に検証するために必要十分なプロトコールを作成した。(2)症例および対照の方々に研究の意義を十分に説明し同意を得ることが最優先課題であった。そこで研究協力者に対する説明文書と同意書を東北大学倫理委員会の指導の下に作成した承諾を得た。(3)アンケート調査がスムーズに進むように、アンケート調査を施行するために専任の看護師をひとり訓練した。(4)対照は人間ドッグの受診者であるが、実際にはそれら全員に依頼するのではなく年齢や居住地域、職業がマッチしたもののみ依頼することになる。その場合、同じドッグ受診者間で不公平感が出る可能性がある。そこでドッグ受診予定者全員に研究の趣旨を理解させる文書を作成し事前に配布することにした。(5)人間ドッグを施行する医療機関(東北公済病院、エスエスクリニック)に協力を要請し承諾を得るとともに、現場の職員に本研究の趣旨とプロトコールを十分理解させ協力を得た。(6)前年度より50項目のアンケート調査を使用して子宮体がんの高危険因子抽出の症例対照研究を行ってきたが、その使用経験を生かした上で本研究にこの調査票を使用するために内容を多少変更した。(7)食物摂取頻度調査票についても前年度より子宮体がんの高危険因子抽出の研究で使用してきたが、前項と同様に本研究の趣旨に添うように若干の変更を加えて使用することにした。以上の態勢が整った上で平成14年10月より症例および対照の登録・調査を開始したが、これまで順調に登録が行われ研究がスムーズに遂行されているといえる。さらに症例収集を継続している。(研究参加率90%)このような前方視的な研究にあっては、中途での解析は研究結果に影響する恐れがあるために解析を行ってはならないとされている。そこで結果の統計学的解析は研究計画書にあるように最終年度の最後に行う予定である。
結論
3年計画の初年度であり、かつ解析が最終年度に施行されるため今年度の実績のみからはPCBと子宮体がんの関連性に関する結論を導き出すことはできない。しかし、文献レビューによるエビデンスの検討では内分泌かく乱物質と子宮体がん発生リスクに関する疫学研究は極めて乏しいことがわかった。すなわち、血中エストロゲン濃度、植物性エストロゲン濃度などの交絡要因を十分考慮した質の高い疫学調査を施行することが、PCBなど微量な化学物質の健康への影響を明らかにする上では重要であり、本研究を遂行する社会的意義は大きいと言える。

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