文献情報
文献番号
200200927A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質の作用機構に焦点を当てたハイ・スルー・プットスクリーニング法による内分泌撹乱性の優先順位付けに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 井上 達(国立医薬品食品衛生研究所)
- 小野 敦(国立医薬品食品衛生研究所)
- 板井昭子(医薬分子設計研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
72,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
内分泌かく乱化学物質問題の解明に向けた厚生労働省の「拡張試験スキーム」に沿って本研究に要求される順位付けの為のスクリーニング、すなわち(1)内分泌かく乱化学物質の計算探索と評価、(2)ヒト由来培養細胞系を用いたハイスループットスクリーニング(HTPS)を利用した超高速分析法、及び(3)表面プラズモン共鳴を応用した新規高速分析法、の3手法を用いた大規模スクリーニングを進めるとともに、順位付けの科学的根拠に関わる諸要因について、受容体-リガンド結合性、受容体と応答DNA配列との相互作用、転写に関わる共役因子と受容体の相互作用、等に関する基礎的研究をさらに進め、内分泌かく乱の評価やメカニズム研究への有効応用を目指すものである。
研究方法
ホルモン様作用を有する化学物質が野生生物の内分泌系をかく乱し、その性分化、行動、生殖等に影響を及ぼすことが明らかにされ、ヒトにおいてもその懸念が指摘されている。一方、我々の現代生活においては膨大な種類の化学物質が利用されており、これらの化学物質の内分泌かく乱性を緊急に再評価する必要がある。これまでに、米国が提案している化学物質の内分泌かく乱作用の有無を評価する方法の有用性を独自の立場から検討するとともに、必要な改良を行うための研究を平成10年度に立ち上げ、エストロゲン受容体反応レポーター遺伝子導入細胞を用いたHTPS系を構築し、63物質(350測定)について試験を行った。その後の3年間の研究においては、更に約300の化学物質に対する測定を行い評価系の検証を進めてきた。また、一方で、ホルモン受容体の作用機構に基づく新規評価系として表面プラズモン共鳴高速分析(表面プラズモン共鳴 High Through Put Screening,SPR-HTPS)によるホルモン受容体と生体分子との相互作用情報の高速取得技術の開発を行い、無細胞系における化学物質の受容体への影響をリアルタイムで数値化(グラフ化)することにより、その結合と解離の状況から化学物質の受容体作用を明らかにしてきた。これらの情報は、受容体アゴニスト効果(作動)/アンタゴニスト効果(阻害)の予測に有効であることが示された。さらに、共役因子等を系に加えることにより、詳細な機能の測定が可能であることも示された。一方、内分泌かく乱化学物質の標的受容体との相互作用を原子レベルで理論的に解析するin silicoにおけるドッキング解析法を確立し、これを用いた超高速スクリーニング法を開発した。引き続き内分泌かく乱化学物質問題の解明に向けた厚生労働省の「拡張試験スキーム」に沿って本研究に要求される順位付けの為のスクリーニング、すなわち(1)内分泌かく乱化学物質の計算探索と評価、(2)ヒト由来培養細胞系を用いたハイスループットスクリーニング(HTPS)を利用した超高速分析法、及び(3)表面プラズモン共鳴を応用した新規高速分析法、の3手法を用いた大規模スクリーニングを進めた。
結果と考察
3手法について、以下の結果が得られた。
(1)内分泌かく乱化学物質の計算探索と評価(分担研究者 板井昭子 医薬分子設計研究所)
エストロゲン受容体α(ERα)とERαに結合する可能性のある化学物質各々の立体構造情報に基づいた理論的な結合様式の推定及び解析として、EPAのHTS候補化合物のうち、市販化合物データベースであるACDに記載されていて構造が一意に決定され、かつ入手できる可能性のある化合物群に対してそのRBA(relative binding affinity)値予測を行った。RBA値既知の化合物群でRBAを予測したところ、予測値と実測値の相関は良好であった。その一方で、活性未知化合物については、予測値が上位となった化合物は現状の計算法で扱うには不具合のある化合物が多く、さらに検討が必要であると結論付けられた。また、これらの化学物質のうち入手可能なものについてはCOS-1細胞を用いて転写活性値の測定も行った。得られた情報を利用して、エストロゲン作用を有する物質が既に多く知られているフラボン類の市販化合物を対象としてバーチャルスクリーニングを実行し、21化合物を選び出した。これらの化合物の転写活性を測定したところ、11化合物に活性がみられた。
(2)ヒト由来培養細胞系を用いたハイスループットスクリーニング(HTPS)を利用した超高速分析は、(2)-1.レポーター遺伝子導入ヒト由来培養細胞株を用いた超高速分析法に関する試験研究 (主任研究者:(財)化学物質評価研究機構に対する委託業務)及び(2)-2. 超高速選別法の検証の評価に関する調査研究 (分担研究者 井上 達 国立医薬品食品衛生研究所)よりなり、前者委託研究では、現在、製造されている化学物質、数万種類を念頭において、これらの中でホルモン様作用を示す可能性のある物質を効率的に把握し、その有害性を評価するためのプレスクリーニング試験としてのレポーター遺伝子活性化試験の有用性を検討するため、本年度は既存の化学物質のうち、未測定の約66物質についてER αを介するアゴニスト活性及びアンタゴニスト活性について検討を行った。その結果、66物質の中で14物質が比較的強いアゴニスト活性を有する物質として選出されたが、ERαに対するアンタゴニスト活性を有する化合物は無いものと推察された(1検体が偽陽性)。後者(2)-2研究では、本年度はアジア太平洋生理学主催の国際会議における内分泌かく乱化学物質のシンポジウムに出席し、内分泌かく乱物質の低用量効果・複合効果を中心に現時点での試験法の問題点等について関係研究者と情報の交換を行い、さらに当方の研究成果を発表し、その内容に対する議論を行う等、国内外の当研究課題について調査を行なったところ、現状ではいずれの手法も完璧とはいえず、内分泌かく乱化学物物質問題解明のためには、引き続き最新の知見に基づく新規試験法開発の重要であると結論付けられた。
(3). 「表面プラズモン共鳴高速分析によるデータの高速取得技術及びHTPSに特化するための試験」 (主任研究者:ビアコア株式会社に対する委託業務、及び国立医薬品食品衛生研究所 小野敦)
SPRによる方法は生体分子間の相互作用をリアルタイム解析するシステムであり、これにより内分泌かく乱化学物質による受容体のDNA結合性、及び受容体と共役因子との相互作用への影響を、それぞれの結合・解離過程の変化を捕らえることにより解析するものである。本年度は内分泌かく乱性指標としての可能性を考慮しつつ引き続き本システムの精度向上および生物学的意義との関連づけの検討を進めた。即ち、本系は生体内でのホルモン作用機構を試験管内で再現した形での解析を特徴としており、個々の化合物に依存した生体内作用の差異について予測性の高い解析が可能である。すでにこれまでの3年間において、エストロゲン受容体に作用する化学物質については、アゴニストとアンタゴニストそれぞれにおいて特徴的な変化を示すことが明らかとなった。本研究においては、3カ年でさらに約300物質の測定を行う予定であり、今年度はこれまで検討を進めてきた化学物質によるERα受容体の応答配列DNAに対する結合・解離過程への影響の計測、及び99種類の化学物質について共役因子結合配列LxxLLに対する受容体結合性の計測を実施し、このスクリーニング法の有用性を検証した(ビアコア社、委託事業)。また、エストロゲン様作用物質の間で異なる生体作用の報告されているものがあるが、その差異の原因は、個々の化合物によってERの構造が特異的に変化を受けるために、それによる遺伝子発現制御が変動する為であるという可能性が、今までの検討で示唆されている。本年度は、これまで測定が困難であったERβ測定系を構築した。それを用いて、代表的リガンドについて相互作用を検討したところ、測定を行ったいずれのERαアゴニストでもERβのERE及びLxxLL相互作用アフィニティーの増加が認められた。また、アンタゴニストもまた、ERE相互作用を増加させる一方で、ERαと同様LxxLL相互作用は示さなかった。ER-ERE相互作用結合解離パターンにおいてERαでは、アゴニスト結合型とアンタゴニスト結合型で大きな差が示されるが、ERβではアゴニストとアンタゴニスとで相互作用パターンに明確な差は認められず、またさらに、E2を含むすべての化合物でERαアンタゴニスト結合型に近い相互作用パターンを示した。いくつかの化合物について化合物濃度依存性の検討を行った結果、植物エストロゲンのゲニスタインは、ERαに比べて低い濃度範囲でERβ活性化作用を示した。
(1)内分泌かく乱化学物質の計算探索と評価(分担研究者 板井昭子 医薬分子設計研究所)
エストロゲン受容体α(ERα)とERαに結合する可能性のある化学物質各々の立体構造情報に基づいた理論的な結合様式の推定及び解析として、EPAのHTS候補化合物のうち、市販化合物データベースであるACDに記載されていて構造が一意に決定され、かつ入手できる可能性のある化合物群に対してそのRBA(relative binding affinity)値予測を行った。RBA値既知の化合物群でRBAを予測したところ、予測値と実測値の相関は良好であった。その一方で、活性未知化合物については、予測値が上位となった化合物は現状の計算法で扱うには不具合のある化合物が多く、さらに検討が必要であると結論付けられた。また、これらの化学物質のうち入手可能なものについてはCOS-1細胞を用いて転写活性値の測定も行った。得られた情報を利用して、エストロゲン作用を有する物質が既に多く知られているフラボン類の市販化合物を対象としてバーチャルスクリーニングを実行し、21化合物を選び出した。これらの化合物の転写活性を測定したところ、11化合物に活性がみられた。
(2)ヒト由来培養細胞系を用いたハイスループットスクリーニング(HTPS)を利用した超高速分析は、(2)-1.レポーター遺伝子導入ヒト由来培養細胞株を用いた超高速分析法に関する試験研究 (主任研究者:(財)化学物質評価研究機構に対する委託業務)及び(2)-2. 超高速選別法の検証の評価に関する調査研究 (分担研究者 井上 達 国立医薬品食品衛生研究所)よりなり、前者委託研究では、現在、製造されている化学物質、数万種類を念頭において、これらの中でホルモン様作用を示す可能性のある物質を効率的に把握し、その有害性を評価するためのプレスクリーニング試験としてのレポーター遺伝子活性化試験の有用性を検討するため、本年度は既存の化学物質のうち、未測定の約66物質についてER αを介するアゴニスト活性及びアンタゴニスト活性について検討を行った。その結果、66物質の中で14物質が比較的強いアゴニスト活性を有する物質として選出されたが、ERαに対するアンタゴニスト活性を有する化合物は無いものと推察された(1検体が偽陽性)。後者(2)-2研究では、本年度はアジア太平洋生理学主催の国際会議における内分泌かく乱化学物質のシンポジウムに出席し、内分泌かく乱物質の低用量効果・複合効果を中心に現時点での試験法の問題点等について関係研究者と情報の交換を行い、さらに当方の研究成果を発表し、その内容に対する議論を行う等、国内外の当研究課題について調査を行なったところ、現状ではいずれの手法も完璧とはいえず、内分泌かく乱化学物物質問題解明のためには、引き続き最新の知見に基づく新規試験法開発の重要であると結論付けられた。
(3). 「表面プラズモン共鳴高速分析によるデータの高速取得技術及びHTPSに特化するための試験」 (主任研究者:ビアコア株式会社に対する委託業務、及び国立医薬品食品衛生研究所 小野敦)
SPRによる方法は生体分子間の相互作用をリアルタイム解析するシステムであり、これにより内分泌かく乱化学物質による受容体のDNA結合性、及び受容体と共役因子との相互作用への影響を、それぞれの結合・解離過程の変化を捕らえることにより解析するものである。本年度は内分泌かく乱性指標としての可能性を考慮しつつ引き続き本システムの精度向上および生物学的意義との関連づけの検討を進めた。即ち、本系は生体内でのホルモン作用機構を試験管内で再現した形での解析を特徴としており、個々の化合物に依存した生体内作用の差異について予測性の高い解析が可能である。すでにこれまでの3年間において、エストロゲン受容体に作用する化学物質については、アゴニストとアンタゴニストそれぞれにおいて特徴的な変化を示すことが明らかとなった。本研究においては、3カ年でさらに約300物質の測定を行う予定であり、今年度はこれまで検討を進めてきた化学物質によるERα受容体の応答配列DNAに対する結合・解離過程への影響の計測、及び99種類の化学物質について共役因子結合配列LxxLLに対する受容体結合性の計測を実施し、このスクリーニング法の有用性を検証した(ビアコア社、委託事業)。また、エストロゲン様作用物質の間で異なる生体作用の報告されているものがあるが、その差異の原因は、個々の化合物によってERの構造が特異的に変化を受けるために、それによる遺伝子発現制御が変動する為であるという可能性が、今までの検討で示唆されている。本年度は、これまで測定が困難であったERβ測定系を構築した。それを用いて、代表的リガンドについて相互作用を検討したところ、測定を行ったいずれのERαアゴニストでもERβのERE及びLxxLL相互作用アフィニティーの増加が認められた。また、アンタゴニストもまた、ERE相互作用を増加させる一方で、ERαと同様LxxLL相互作用は示さなかった。ER-ERE相互作用結合解離パターンにおいてERαでは、アゴニスト結合型とアンタゴニスト結合型で大きな差が示されるが、ERβではアゴニストとアンタゴニスとで相互作用パターンに明確な差は認められず、またさらに、E2を含むすべての化合物でERαアンタゴニスト結合型に近い相互作用パターンを示した。いくつかの化合物について化合物濃度依存性の検討を行った結果、植物エストロゲンのゲニスタインは、ERαに比べて低い濃度範囲でERβ活性化作用を示した。
結論
ホルモン様作用を有する化学物質が野生生物の内分泌系をかく乱し、その性分化、行動、生殖等に影響を及ぼすことが明らかにされ、ヒトにおいてもその懸念が指摘されている。一方、我々の現代生活においては膨大な種類の化学物質が利用されており、これらの化学物質の内分泌かく乱性を緊急に再評価する必要がある。本研究班において構築された、in silico、cell free、in vitroスクリーニング手法により、対象の化学物質について、それぞれ特異的な情報を得ることが可能である。これらを組み合わせることで、次の段階として詳細試験に供する化学物質の科学的根拠に基づく、より正確な優先化合物の抽出が期待される。このリストにより、内分泌かく乱化学物質問題の効率的な解決への一つの道筋ができるものと考えられる。さらに、ここで得られる受容体、応答DNA配列、共役因子等の相互作用に関するデータと細胞、個体レベルでの作用データが有機的に組み合わされることにより、内分泌かく乱化学物質の作用メカニズムの解明への貢献が期待される。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-