関節リウマチにおける内科的治療の検証に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200804A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチにおける内科的治療の検証に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
當間 重人(国立相模原病院)
研究分担者(所属機関)
  • 浅井富明(国立名古屋病院)
  • 安田正之(国立別府病院)
  • 千葉実行(国立療養所盛岡病院)
  • 松井利浩(国立相模原病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦における関節リウマチ(RA)の有病率はおよそ0.4~0.5%と考えられており、約60~70万人のRA患者がいることになる。疾患の原因については不明のままであるが、多発性関節炎に関わる物質的検索により、いわゆる病態形成因子については蛋白レベルで解明が進められてきている。実際、それらの知見に基づくRA治療薬としての生物製剤の登場およびその臨床効果はRAの炎症における物質的病態解明法の正しさを裏付けていると言える。しかしながら内科的RA治療戦略全般を考えるとき、「生物学的製剤」の位置づけについては慎重に検討する必要がある。高価な治療であることや感染症・悪性腫瘍発生等の副作用に関する情報収集が今後とも必要であるだけでなく、既存の治療法の効果・効率を踏まえた比較検討が重要な課題である。およそ15年~20年前から本邦においても抗リウマチ薬をより早期から用いる治療が主流となっていると考えられるが、このことがRA患者の身体的あるいは精神的予後に関してどのような改善効果をもたらしたのかを詳細に分析した研究はない。本申請研究の目的は、本邦における内科的RA治療の変遷による治療効果を検証することにより、既存の治療薬の再評価を行いつつ、今後本邦でも導入されるであろう新治療薬の縦断的評価も合わせて行うシステムを確立しようというものである。近年、アメリカリウマチ協会によりRA治療におけるガイドラインが提示されたが、内科的投与薬剤の選択基準については本邦独自のEBMに基づく基礎的データが必要である。すなわち、本邦における既存の抗リウマチ薬の有用性を客観的に評価することにより各種抗リウマチ薬の位置づけを明らかにする必要がある。本研究では新規参入薬を含めた抗リウマチ薬の有用性について比較検討を行うことにより、「関節リウマチ治療ガイドライン」の参考資料として提示できるレベルのエビデンスに基づく結果が得られるものと考えている。RAの内科的治療においてはより早期により適した抗リウマチ薬の投与が重要であるが、本研究により個々の症例においてより適切な薬剤の選択基準が明らかとなり、身体障害進行の阻止および患者QOL改善あるいは維持がもたらされるものと期待している。このことがRA診療の質的向上をもたらし、医療経済的にも社会経済的にも本邦の国益に直結する。
研究方法
研究計画を大きく次の2つに分けた。1)内科的治療法の変遷による治療効果の比較:研究班員所属施設および研究協力者所属施設において診療中の関節リウマチ(RA)患者に関する情報を収集する。主な内容は抗リウマチ薬を中心とした薬歴情報、手術歴、登録時のstage class分類である。登録患者数としては数千人以上になるものと考えている。情報の入力については膨大な作業となるため、OCR(optical character reader)の利用が不可欠である。集積された患者情報から、各種薬剤の使用頻度、有効率・無効率・副作用発現率およびその内容・外科的治療歴などを明らかにする。内科的治療効果の変遷について注目していることのひとつは、整形外科的治療を受けた患者の頻度、および手術時期とその時点までの罹病期間の関係である。発病時期ごとの解析を行うことにより、内科的治療の進歩およびそれに最も寄与した治療法を探る。さらに内科的治療の中心的役割を担っている抗リウマチ薬の有用性について、各薬剤間の比較検討を行うこととしている。2)抗リウマチ薬の有用性に関する前向き研究:研究班員所属施設および研究協力者所属施設を受診した新たな発病患者、あるいは未治療患者の登録を行っていく
。治療の経過を定期的に調査しデータを集積していく。主な項目は患者一般背景情報・薬歴・ACRコアセット(圧痛関節数、腫脹関節数、患者疼痛、患者総合評価、医師の総合評価、患者QOL、CRP及び血沈)・患者ADL等である。2年間の追跡調査から、新規参入薬を含めた抗リウマチ薬の有用性について、比較検討を行う。前向き縦断的研究であることから1)よりはるかに優れた知見が得られるはずである。3年間の研究成果を「関節リウマチ治療ガイドライン」の参考資料として提示できるレベルのエビデンスが得られるものと考えている。(倫理面への配慮)平成14年6月に示された厚生労働省、文部科学省による「疫学研究における倫理指針」を遵守しつつ研究を行っている。研究計画に関する倫理委員会の承認及びインフォームド・コンセント取得に基づいて多施設共同によるデータベース作成を行っており、倫理的に問題ない。なお各担当施設からの患者情報は連結可能匿名化情報として収集されている。
結果と考察
平成14年度、iR-netで開発したネットワーク支援システム用ソフト及びHOSPnet回線を用いて4施設から関節リウマチ患者約2,600人分のデータベースを作成した。送信されたコアデータは、国立相模原病院臨床研究センターに設置された統合サーバーで統計処理され、リアルタイムで各施設のHOSPnet端末から参照できるようになっている。平成14年度得られた関節リウマチデータベースに基づく統計結果から明らかになったことは、1)医師総合評価(VAS)、患者総合評価(VAS)は罹患年数とともに低下していた。2)平成2年度厚生科学研究(主任研究者:橋本 明)による調査結果と比較すると、NSAIDsの使用頻度は減少し、ステロイド及びDMARDsの使用頻度は増加していた。3)本邦における抗リウマチ薬の投与内訳は平成2年当時と比較して大きく変化しており、また本邦における関節リウマチ治療薬(抗リウマチ薬)投与状況は、米国・独逸と大きく異なることが明確になった、等である。平成15年度以降は免疫異常ネットワークを中心に20以上の関連施設が参加して、患者データベースを構築していく。およそ8000人規模のデータベースになると考えられる。施設単位において、より詳細なデータベース構築に寄与する「関節リウマチ診療支援システム(SACRA :Sagamihara Clinical Support System for Rheumatoid Arthritis and other rheumatic diseases)」もほぼ完成し、現在国立相模原病院で試用中である。このシステムに入力されたデータは各施設独自の臨床研究に利用でき、また全国統計用のコアデータのみを自動的に選択して送信できるようになっている。平成15年度以降、各施設にソフトの配信を行う。現在、これらの統計データは免疫異常ネットワーク施設のHOSPnet端末でしか閲覧できないが、平成15年度以降「関節リウマチ白書」としてさまざまな媒体を介して、広く情報発信する予定である。
結論
今回構築されたシステムを利用して、関節リウマチ患者のデータベースを作成していくことは、本邦における関節リウマチ診療の実状を明らかにするのみならず、疫学的解析により、様々な内科的治療の検証を通して関節リウマチ診療の質向上に資するものと考えている。平成15年度以降は、20を超える関係施設からのデータ収集を行い、関節リウマチにおける内科的治療の検証を横断的あるいは縦断的、後向きあるいは前向きに行っていく。

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