ライソゾーム病の病態の解明及び治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200200749A
報告書区分
総括
研究課題名
ライソゾーム病の病態の解明及び治療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
桜川 宣男(東邦大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 御子柴克彦(東京大学医化学研究所)
  • 浅島 誠(東京大学大学院)
  • 青木継稔(東邦大学)
  • 古谷博和(九州大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ライソゾーム病の概念は水酸化酵素の先天的欠損による疾患群から、最近はライソゾーム膜の先天異常に関する概念も含まれるようになってきた。一方臨床診断、酵素診断、遺伝子診断が進歩し、最近は若年?成人発症する症例が知られるようになった。また酵素補充療法により内臓型のGaucher病などは寛解するようになり、患者さんの生活の質(QOL)が問題になってきている。そこで本研究班を(1)基礎研究、治療法開発、(2)病態解明、(3)臨床研究の3グループの構成とした。そしてライソゾーム病の病態を解明し、新しい治療法を開発することにより、患者さんのQOLの改善に資することを目的としている。
研究方法
基礎研究・治療法開発研究グループ:桜川は胎盤より調整した羊膜間葉細胞から細胞分離解析装置を用いて、SP (side population)細胞(幹細胞)の分離、培養を行なった。免疫組織染色により、文献的に報告されている骨髄由来SP細胞などのPhenotypeの比較検討を行った。そして未分化細胞維持に重要なOct 4遺伝子などの発現をRT-PCRにて調べた。御子柴は脳内の神経細胞に位置異常が見られる様々な突然変異マウスを利用し、発生過程で各神経細胞がいかにしてそれぞれ特異的に配置されるのかを分子生物学・細胞生物学・形態学・構造生物学的手法を駆使して明らかにした。浅島は両生類胚のアニマルキャップは未分化細胞の塊であり、そこから試験管内で様々な臓器や組織をつくり出すことを独自に開発してきた。今回はアクチビン処理細胞と未処理細胞を混合することによって新規に血管系のみを作り、また未分化細胞から軟骨をつくる実験を行なった。奥山は神経幹細胞を用いたムコ多糖症VII型マウスの中枢神経病変に対する細胞治療法の基礎的研究を行なった。病態解明グループ:古谷はKrabbe病の原因酵素であるgalactosylceramidase (GALC)活性の測定用の基質について検討した。合成基質HMU-s-Galを用いたGALC活性を天然基質とRIを用いたこれまでの方法とで比較検討した。桜庭はProtein Data Bankに登録されている細菌由来のヘキソサミニダーゼおよびキトビアーゼの構造情報を基に、ホモロジーモデリング法により、ヒト由来ヘキソサミニダーゼのアルファサブユニットの?次元構造を構築し、本症の病因となる?種類の遺伝子変異によって生じる構造変化を解析した。伊藤は?-ヘキソサミニダーゼ(?-Hex)の?-サブユニットの遺伝子破壊により作製されたSandhoff病モデルマウスを用い、糖脂質蓄積症の発症機構について研究を行った。西野はLAMP-2変異を認めたDanon病 8家系10人の男性患者について筋病理学的に検討した。臨床研究グループ:青木はライソゾーム病の臨床統計の結果をもとに,本症のマススクリーニング・システム構築に関する検討を行った.磯貝はムコ多糖症の新生児期マススクリーニングに関する研究を行なった。横山はライソゾーム病患者認定のため、診断方法の統一と標準化について検討した。そして本年度はムコ多糖症の尿スクリーニング検査と酵素測定の実施体制を構築した。倫理面への配慮については、予定帝王切開の妊婦に研究の目的と胎盤の使用について説明してから、胎盤の提供の許可を得た。このようにインフォームドコンセントを施行してから、帝王切開分娩時に胎盤を入手した。診断確定に必要な血液採取や皮膚繊維芽細胞の培養に必要な皮膚生検は、同様にインフォームドコンセントを施行してから行なった。動物実験は、各施設内倫理委員会で許可を得て行なわれている。
結果と考察
結果=基礎研究、治療法開発グループ:桜川はヒト羊膜間葉細胞由来の幹細胞(SP細胞)の分離・培
養に成功した。その成長は速やかであり、20継代目細胞のpopulation doublingsは40である。CK19+/vimentin+/nestin+の特徴をもっていた。HLA class IIは陰性であるが、HLA Class Ⅰには陽性細胞と陰性細胞が共存していた。RT-PCR解析は、Oct 4, Rex 1, nestin, Musashi-1にはいずれも当該バンドを検出した。この細胞はヒト体細胞由来の幹細胞であり、同種移植による急性拒絶を惹起しない細胞の樹立が可能となった。御子柴はリーリンシグナルとは無関係と考えられていたcdk5の系が脳内神経細胞の位置決定に関わり、しかもリーリングシグナルとクロストークしていることを明らかにした。一方IP3レセプターは細胞内からのカルシウム放出に重要であるが、IP3レセプターの構造・機能相関の解析を丹念に行うことにより、IP3結合領域内に天然のIP3レセプターよりも500倍高い配列を見いだした。浅島は両生類胚のアニマルキャップを用いて、アクチビン処理細胞と未処理細胞を混合することによって新規に血管系のみをつくることに成功した。また未分化細胞から軟骨をつくることも成功した。また、マウスのES細胞を用いて、新しいモルフォジェンによって、高率にかつ多数の心筋細胞分化が可能となった。病態解明グループ:古谷はKrabbe病の原因酵素であるgalactosylceramidase(GALC)活性について、人工合成基質を用いる測定法を検討し、Krabbe病の診断に特に問題はないことを証明した。
桜庭はTay-Sacks病の病因となる?種類の遺伝子変異によって生じる構造変化を解析した。野生型??サブユニットは、逆平行ベータシート構造をとる第1ドメインと活性ポケットを含む(ベータ/アルファ)8-バレル構造をとる第2ドメインから成る。今回の解析対象とした9種類の変異は5群に分類された。伊藤は、SDマウスの各種臓器のケモカインの発現量を測定したところ、MIP-1αの発現が特異的に増大していて、GM2ガングリオシドの蓄積の進行と平行していたことを証明した。西野はDanon病の筋病理学について検討した。リソソーム膜蛋白limp-1とdystrophinの二重染色では、空胞壁でdystrophinを発現する空胞と発現しない空胞の2種類を認めた。dystrophinで囲まれた自己貪食空胞は加齢で増加したが、limp-1を過剰発現した筋線維は加齢による増加は認めなかった。電顕的には細胞質崩壊産物を含む自己貪食空胞であり、この集合体を基底膜構造を持つ二重膜で囲まれる空胞と囲まれていない空胞を認め、免疫電顕で二重膜はdystrophinを発現していた。臨床研究グループ:青木はライソゾーム病各疾患における頻度を検討した。現時点においてはTay-Sachs病,GM1 ガングリオシドーシス,ムコ多糖症および異染性白質ジストロフィーなどがスクリーニング対象疾患の候補疾患になりうることが示唆された.磯貝は、KS抗体によるスクリーニング法を検討した。ケラタン硫酸への特異性が高かった。ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸の抗体を用いたELIZAサンドイッチ法で血漿中、尿中のムコ多糖を測定した。血漿中のケタラン硫酸は、MPS IV型に限らず、すべての型のMPS患者で高値となった。
考察=ヒト羊膜間葉細胞由来のSP細胞は体細胞由来の幹細胞であり、倫理的、供給面でも問題が少ない。また同種移植可能な細胞である。羊膜は臓器形成前の発生初期に形成されることより、神経発生の分子機構およびin vitroでの臓器形成などの技術応用により再生医療への応用が期待される。病態解明の研究では、新しい疾患概念であるDanon病の筋病理学的特長である筋線維内の自己貪食空胞病態を解析した。さらなる進展が期待される。またSandhoff病モデルマウスを用い、糖脂質蓄積症の発症機構にケモカインの一種であるMIP-1?の発現が関与していることが示唆された。発症機序に示唆的な所見である。臨床研究として、診断基準、重症度判定および個人調査票の見直しを行なった。更新用の個人調査票を新規作成した。そしてライソゾ?ム病のマススクリーニングについて検討し、ムコ多糖症および異染性白質ジストロフィーは尿検査,Tay-Sachs病およびGM1ガングリオシドーシスは濾紙血を用いた検査にてスクリーニングすることが可能であると示唆した。またKS抗体を用いてのムコ多糖症のスクリーニングは有用性が判明した。ムコ多糖症の診断に不可欠な尿中ムコ多糖の定性と定量、関連酵素活性の測定の一元化にむけてシステム作りを行なった。大学等の研究施設におけるこれらの技術を検査会社へ移転することは、研究者の移動などに伴ってこれらの検査が中断される危険性に対応するために行なうものである。
結論
ライソゾーム病の中枢神経症状の治療法として、同種移植可能なヒト羊膜間葉細胞由来の幹細胞研究を進めている。本細胞はレデイーメイド型再生医療のドナー細胞として有望である。病態解明が進んでいるSandhoff病やMPSⅦのモデル動物による治療研究を予定している。また臨床研究面ではマススクリーニングの研究が進展した。そして診断技術の一元化にむけて、大学より検査会社に技術移転を行なった。

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