進行性腎障害に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200725A
報告書区分
総括
研究課題名
進行性腎障害に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
富野 康日己(順天堂大学)
研究分担者(所属機関)
  • 重松秀一(信州大学)
  • 川村哲也(東京慈恵会医科大学)
  • 小山哲夫(筑波大学)
  • 斉藤喬雄(福岡大学)
  • 東原英二(杏林大学)
  • 広瀬幸子(順天堂大学)
  • 遠藤正之(東海大学)
  • 山田研一(国立佐倉病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における末期腎不全による透析患者は20万人を超え、患者と家族の負担はもとより、医療経済上も大きな問題となっている。現時点で透析患者の原因疾患は慢性糸球体腎炎が1位を占め、新規透析導入患者の原因疾患でも糖尿病性腎症に次いで2位となっている。厚生労働省はこの事態を重視し、これまで進行性腎障害のなかで特に患者数が多いIgA腎症・急速進行性糸球体腎炎・難治性ネフローゼ症候群および多発性嚢胞腎の4疾患について、調査研究を行ってきた。これを受けて進行性腎障害に関する調査研究班は、これまでこの4つの疾患について全国調査を行い患者のデータベースを作成するとともに、わが国のエビデンスに基づいた重症度分類や治療指針を作成してきた。これらの診療指針は、広く全国の腎臓専門医と一般臨床医に有益な指針を提供することを目的としている。しかし、調査研究をさらに行い、エビデンスに基づいたup-dateな診療指針の改訂が望まれている。これらの活動に加えて本研究班では進行性腎障害の根本的治療を目標とする基礎的研究を難病特別研究として他の基礎的研究班と共同研究を行なっている。さらに、これら疾患の発症・進展に関与する因子を動物レベルで解明し、ヒトにおける疾患感受性遺伝子の同定とその機能解析にむすびつけたいと考えている。
研究方法
以下に各班における研究方法・計画について記す。
1、IgA腎症:IgA腎症診療指診の予後分類における腎病理所見の見直しと、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の腎保護作用に関する多施設共同研究を行い、IgA腎症診療指診第3版を刊行する。
2、急速進行性糸球体腎炎(RPGN):診療指針作成後のRPGN登録症例の集積を行い、診療指針のエビデンスレベルの向上を図る。また、治療指針に示された従来よりもマイルドな免疫抑制療法の効果を検証し、診療指針の改訂を行う。
3、難治性ネフローゼ症候群:膜性腎症・巣状糸球体硬化症のデータ・ベースの構築を行うとともに、ステロイド薬と免疫抑制薬の併用療法の効果について検討を加え、新たな治療指針の作成をおこなう。
4、多発性嚢胞腎:ADPKDにおけるアンジオテンシンII受容体拮抗薬の腎保護作用についてさらに検討を加え、診療指針に加える。
5、遺伝子研究:モデルマウスを用いて疾患感受性遺伝子の同定を行い、遺伝子治療へ応用する。
結果と考察
本年度は新研究班が発足して初年度であり、具体的な研究方法の立案や実験環境設定および基礎的研究を行った。よって、各班とも現在調査研究の最中であるが、これまでの結果と経過を報告する。
1、IgA腎症:アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の腎保護作用に関する多施設共同研究については、高血圧を伴うIgA腎症におけるARB(バルサルタン)の腎保護作用をACE阻害薬(エナラプリル)と比較検討する。スクリーニング期間の最終時点で患者はバルサルタン群もしくはエナラプリル群のいずれかに無作為に割付けられ、血圧、尿蛋白、腎機能の推移と安全性を3年間観察し2群間で比較する。現在登録症例を各施設に依頼し登録数を増やしている。また、IgA腎症診療指診の予後分類における腎病理所見の見直しについては、1995年の全国疫学調査で登録された5,436例のIgA腎症患者のうち、今年度に予定されている7年後の予後調査で腎機能予後が明らかにされる症例の中から、各研究協力者の施設に組織標本と臨床情報の供出を依頼し、病理総括の研究協力者を中心にワーキンググループを結成した。今後、各種腎病理所見と腎機能予後との関連を再検討していく。
2、急速進行性糸球体腎炎:前研究班RPGN分科会で作成した診療指針のエビデンスレベル向上のために、これまでに1082例を集積し、それぞれの症例の臨床症候、検査所見、治療内容、予後を解析した。また、MPO-ANCA型RPGNのうち腎病変と同時に肺病変を伴う重症例に対し、ステロイドパルス療法とその後の経口プレドニゾロン量を早期に減量し、シクロフォスファミドパルス療法を併用することにより、活動性の高いRPGNに対しても、日和見感染等をおこさず、腎機能が保持される症例のあることをレトロスペクティブに解析する。
3、難治性ネフローゼ症候群:既に報告されている免疫抑制薬の臨床研究を検討し、その問題点を明らかにし、副腎皮質ステロイドとして標準的なプレドニゾロンと免疫抑制薬としてシクロスポリン・ミゾリビンのそれぞれを併用する臨床研究計画を立案した。今後、プレドニゾロンによる治療後、完全寛解または不完全寛解・型に至らなかった膜性腎症と巣状糸球体硬化症の症例に対して、プレドニゾロンとシクロスポリン、またはミゾリビンとの併用療法の効果について検討する。登録症例は、膜性腎症100例、巣状糸球体硬化症50例を目標とする。
4、多発性嚢胞腎:全国3085病院に、腎機能が正常(血清Cr値 2.0mg/dl以下)である多発性嚢胞腎患者の高血圧症に対してカルシウム拮抗薬(CaB)かアンジオテンシン・受容体拮抗薬(ARB)を投与する前向きの無作為化試験の意義を説明し、患者登録の参加を呼びかけた。これにより60名の患者が登録され、20名がCaB群に、17名がARB群に割り振られ、23名の非高血圧患者は降圧剤投与なしのNT群として経過観察となった。また、これとは別に本研究班研究協力者の施設より47名(NT群12名、CaB群 23名、ARB群12名)の多発性嚢胞腎患者の登録があった。患者は研究開始前に蓄尿と採血を施行し、クレアチニン・クリアランス(Ccr)、1日尿中蛋白排泄量(Uprot)、アルブミン排泄量(Ualb)を測定した。同様の検査を研究開始後6ヶ月ごとに施行し、経時的変化を観察した。その結果、ARBはADPKD患者において腎保護作用を有すると考えられた。また、PKD1欠損マウスは多発性嚢胞腎のモデル動物として適切であり、PPARγ発現異常が関与している可能性がある。今後、この動物モデルを用いて、PPARγアゴニストの有効性について検討を進める。
5、遺伝子研究:半月体形成性腎炎を自然発症するSCG/Kjマウスの腎炎発症機構を解析したところ、ヒトと同様に、末梢血顆粒球の異常な活性化とその膜表面上のFc_レセプターが重要な要因であることが示唆された。今後はマウスのゲノムの全領域を走査できる遺伝子マーカーにより連鎖解析を行い、MPO-ANCA産生感受性遺伝子を含む疾患感受性遺伝子を同定していく予定である。
結論
今後さらに調査研究をすすめ、データベースの拡充を行うことが寛容であり、そのためには、多施設共同研究も計画していく。

公開日・更新日

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