エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究

文献情報

文献番号
200200653A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
五島 真理為(特定非営利活動法人 HIVと人権・情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 新庄文明(長崎大学大学院)
  • 山本 勉(岡山県立大学)
  • 佐甲 隆(三重県松坂保健福祉事務所)
  • 中瀬克己(岡山市保健所)
  • クリスティン・ピルカヴェージ(HIVと人権・情報センター国際部)
  • 伊藤葉子(中京大学社会学部)
  • 前川 勲(市立旭川病院、WITH)
  • 塩入 康(東北HIVコミュニケーションズ)
  • 太田裕治(ケアーズ)
  • 宮坂洋子(HIVかごしま情報局)
  • 平松 茂(HIVと人権・情報センター東京支部)
  • 池上正仁(同大阪支部)
  • 石川英二(同兵庫支部)
  • 白井良和(同和歌山支部)
  • 赤松悦子(同岡山支部)
  • 今井文一郎(同四国支部)
  • 土居武子(同長崎支部)
  • 吉田香月(同感染者会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染予防および人権に関する啓発を国民的レベルで進めるために、NGO(非政府組織)の活動、行政・教育機関等によるNGO活用の現状に即して、NGOの資質向上と行政とのパートナーシップの形成とともにNGO活用の促進をはかることを目的として実施した。
研究方法
今年度は3年度の最終年度として、これまでの研究成果を総合して、次の研究課題を設定し、実施した。
(1) 平成12年度および平成13年度に実施した全国のNGO活動ならびにGOによる活用と役割に関する実態調査の結果を分析した上で、NGOの行政・教育機関あるいは保健・医療機関との連携の方法論について検討し、NGO活用マニュアルを作成した。
(2) 国内の現地検討会、英国および諸外国におけるAIDS-NGOの活動実態や活用状況の分析を通じて、AIDS啓発活動におけるGOとNGOの連携事例集を作成した。
(3) HIVと人権・情報センターが2001年度に実施した若者相互の啓発プログラム(YSP:Young Sharing Program)の参加者2,044名についてプログラム実施前および一定期間後に無記名で回答を求め、知識、認識、態度、PWA/Hに対する態度、YSPに関する評価等につき分析した。
(4) HIV感染者にたいする訪問栄養支援ニーズ調査の結果と分析をもとに、告知直後からの生活の場における支援を進めるために、感染者の最も関心の高い食生活指針を作成、発行した。また、NGOを基盤としたHIV陽性者の口腔保健管理に関するニーズ調査の結果と分析をもとに、HIV陽性者の医療や健康管理の中でともすれば見過ごされやすい口腔保健管理をNGOの支援のもとに進めるための指針を作成した。
結果と考察
(1) AIDS-NGOの活用マニュアル
AIDS-NGO構成員を対象とする調査、およびNGO活動の現状とGOによる活用に関する調査により、AIDS-NGOが社会資源としての可能性を有しつつ十分に生かされていないこと、行政機関には情報の不足が、NGOには財政的な基盤の欠如が、それぞれ啓発活動の妨げとなっていること、双方の連携のためには情報提供と機会の確保が重要であることが、示唆された。また、保健所・自治体によるAIDS/NGOの社会資源としての認識と実際の活用には大きなずれがあり、AIDS/NGOに関する情報を持っている行政機関ほどAIDS啓発にも力をいれていること、またAIDS-NGOと行政機関とは活動の対象にも特性の差があり、行政との連携の度合に応じてNGO活動の内容も充実しているということが明らかとなった。これらの結果をもとに①連携の必要性、②阻害要因、③今後の方策、④評価方法、⑤指針を含むNGO活用のマニュアルを作成した。
(2) AIDS啓発事例集
国内・海外の現地検討会を通じてAIDS啓発に関連する新しい動きが明らかとなり、それらの事例研究を通じて得られた知見をNGO活用マニュアルの作成に生かした。国内のNGO活動が活発な地域では人材交流、連携を通じて事業の拡大がみられ、ある県ではNPO活用条例がGOとNGOの協同を促進させている。海外では、英国においてこれまで重要な役割と実績を示してきているVoluntary Sectorの経験を生かすため行政とNGOが共同で政策作成にかかわる傾向がみられ、カナダにおいてはGOとNGOが運営委員会を通じて共通の目標を設定し、現実性のある事業展開を図っている。双方に共通するのはNGO活動のほとんどがGOの委託事業として実施されている点である。国内ならびに海外のAIDS-NGO活用事例は、今後のNGO活動が行政の委託事業として進められることにより、GOとNGO相互の特性を生かした活動の展開が図れることを示唆している。
(3) 若者相互の啓発事業(YSP)
YSP参加者を対象とする調査により、プログラム実施を通してAIDS-NGOが関わる若者相互の活動により理解と態度の変化が得られることが示唆された。調査結果は、1)HIV感染に関する知識・理解の向上、2)AIDSを自分自身の問題と考える者の割合の増加、3)AIDSや性について友達と話したい者の割合の増加、4)PWAに対する姿勢の向上、などが得られることを示している。また、YSP講演実績を通じたGOとNGOの連携のひろがりも得られ、2000年度の全国22か所における延べ1450名を対象とした24回のYSPのうち18か所において事業への進展がみられた。全国組織のAIDS-NGOがGOと連携をとることにより、啓発だけに限らず、現任者研修、ケアサポートにおける連携など他の関連事業に発展/継続的なかかわりが可能であることも示唆された。
(4)訪問栄養支援マニュアル・口腔保健管理マニュアル
昨年度の調査結果をもとに、重要と把握された内容に関する情報やイラストを盛りこんだ感染者・患者用の冊子「栄養と滋養」と、同時に訪問栄養支援担当者用マニュアルを作成・発行した。2002年5月~6月に冊子を活用した49名の利用者全員から①プライバシーへの配慮、②ニーズに合った内容、使いやすさ、挿絵が多い、読みやすさ、③ 'HIV'や'AIDS'という言葉を一切使用していない、④(献立)を含み体調が悪い時に便利、などの指摘を得た。また、NGOを基盤としたHIV陽性者の口腔保健管理ニーズ調査の結果と分析をもとに、歯の基本的知識、検診の必要性、食べ物とむし歯、口腔清掃、健康と口、などの内容を含む感染者・患者のための冊子「健康は健口から」を作成した。栄養支援および口腔保健管理ニーズ調査の結果は、HIV陽性者の多くが栄養支援ならびに口腔衛生管理ニーズを有しており、告知後の未受療の最も援助を要する期間の感染者・患者の支援、ならびに医療を受けている場合にともすれば見過ごされやすい生活の場での支援の機会を提供する意味で、今後のHIV陽性者の健康管理、生活支援におけるNGOの新しい役割の発展につながるものと期待される。
UNAIDSのレポート(2001)は日本における若者の感染拡大についての危惧が表明され、エイズ国際会議(バルセロナ)において、予防法・治療法がありながら感染拡大がある現状に対して研究者・医療従事者・患者・感染者・NGOの連携が緊急の課題であることが確認されたが、わが国においてはGOとNGOの連携の確立がとりわけ急務であるといえる。とくにHIVと人権・情報センターが平成10年以来実施している若者相互の啓発プログラム(YSP)は、文部科学省が提唱する「生きる力」を育む格好のテーマである生命・人権・健康に深くかかわるAIDSについて、教育現場におけるNGO、保健所と学校との連携のあり方に大きな可能性を提供するものであるといえる。また、HIV感染者・家族にたいする訪問栄養支援と、NGOを基盤としたHIV陽性者の口腔保健管理のための冊子の作成は、行政とAIDS/NGOの相互の特性を活かした支援体制の構築にも資することが期待される。これらの、3カ年の研究成果全体を通じて、GOとNGOとの連携によるエイズに関する普及啓発に寄与すると期待され、3年度におけるNGOの活用指針の作成は、AIDSに関する予防啓発、人権意識の啓発を踏まえた社会資源としてのNGO活用の促進に資すると期待できる。
今後の研究課題としては、特定の個別施策層としての若者を対象とする啓発活動を進める上で不可欠なGOとNGOの連携のもとに進めるYSPの評価と展開をはかるための研究の発展が期待され、あわせて、HIV陽性者の健康管理、生活支援において見過ごされやすい生活の場における栄養支援・口腔保健管理の機会を普及させるための研究を進めることも重要である。
結論
本年度の研究の結果、以下の点が明らかとなった。
①NGOの活用の現状に関する調査結果は、行政機関におけるAIDS-NGO活動に関する情報の不足と、NGOにおける財政的な基盤の欠如が、社会資源としてのNGO活用の妨げとなっていることを示唆している。これらの結果を生かしてNGO活用マニュアルを作成した。
②海外のNGO活動はほとんどがGOの委託事業として実施されており、国内でもNGO活動が活発な地域では人材交流、連携を通じて事業の拡大がみられ、NPO活用条例がGOとNGOの協同を促進させている地域もある。国内外のAIDS-NGO活用事例は、今後のNGO活動が行政の委託事業として進められることにより、GOとNGO相互の特性を生かした活動の展開が図れることを示唆している。
③若者相互の啓発事業は知識・理解・認識やPWAに対する姿勢の向上に効果がある上に、GOとNGOの連携の拡大にも進展することが明らかとなった。
④栄養支援および口腔保健管理ニーズ調査の結果は、HIV陽性者の多くが栄養支援ならびに口腔衛生管理ニーズを有しており、NGOを基盤としたHIV陽性者の栄養支援ならびに口腔保健管理に必要な情報・イラストを盛りこむ冊子「栄養と滋養」、「健康は健口から」を作成した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-