エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究

文献情報

文献番号
200200652A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大石 敏寛(動くゲイとレズビアンの会)
研究分担者(所属機関)
  • 河口和也(広島修道大学)
  • 柏崎正雄(特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会)
  • 菅原智雄(特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
予防啓発介入を実施した札幌、東京近郊、松山の3地域における(1)NGO間およびNGOと行政の連携による試みを通して、NGOを活用した普及啓発を行うモデルを提示する。さらに、リスク・アセスメント調査に基づく男性同性愛者のHIV感染リスク行動要因を踏まえ、(2)予防啓発介入の手法を開発・実施し、(3)プログラムの啓発効果を評価する。
研究方法
(1)NGO連携では、H12年度に結成されたNGOネットワーク(プロジェクトOURS)による連携の経過を記録し、NGOを活用した普及啓発の成果と課題を整理した。(2)予防啓発手法では、リスク・アセスメントによって規定されたリスク行動要因を啓発介入領域とし、要因毎の啓発目的を整理した。さらに各々の啓発領域に適合する啓発形態を検討し、欧米においてHIV予防啓発介入において定型となっている「個人レベル」「小グループ・レベル」「コミュニティ・レベル」に整理し、最終的に①個人レベルとしてSTD情報ライン(電話相談)、STD情報ページ(ホームページ)、自己チェックシートを、②小グループ・レベルとしてワークショップ(LIFEGUARD)を、③コミュニティ・レベルとして情報パンフレット、メディア・キャンペーン広告を開発した。(3)予防啓発介入のプログラム評価では、①個人レベルの介入では、STD情報ラインで646件を対象に実施記録を分析し、STD情報ページでホームページ上のアンケートに回答のあった280名を対象に分析を行った。小グループ・レベルの介入では、2002年9月~2003年2月にかけて実施された予防介入プログラムの参加者に対し、開始前(227名)、終了直後(209名)、1ヵ月後(128名)の3回にわたってアンケート調査を行った。③コミュニティ・レベルの介入では、情報パンフレットの普及およびメディア・キャンペーン終了後に札幌、東京、松山の3地域でフォーカス・グループ・インタビューを実施(計24名)し、質的手法によってコミュニティでの受け止められかたを評価した。
結果と考察
(1)NGO連携の成果としては、H13年度のリスク・アセスメント調査で明らかになったリスク要因を実際の男性同性愛者向けプログラムに反映させるための介入手法の開発および実施、プログラムの効果評価、成果発表を共同で担ったことがあげられる。今後の課題は、啓発介入における各地の現場での担い手の重要性を鑑み、プログラム実施までの準備段階で、新しいボランティアのリクルートやスタッフの動機付けが必要であることが確認された。(2)予防啓発手法の開発 ①個人レベルでは、STD情報ライン、STD情報ページを継続・改良するとともに、自己チェック・シートを開発しインターネットやパンフレットに掲載した。チェック・シートの目的として、自分のリスク状況を振り返ることや行動変容の意図を持つ契機となることを目的とした。②小グループ・レベルでは、ワークショップを開催し、本介入で最も重要な啓発領域とされた「主張スキル」を正面から扱った。ワークショップが直接与える影響は1回あたり20人前後であったが、この参加者が地域コミュニティ内の友人にセイファーセックスを伝えるコア層となることを狙った。また、一方的な講義スタイルではなく、参加者間の相互作用を生かし、イラスト・パネルを使用するなどエンタテインメント色も加味した。③コミュニティ・レベルでは、3地域の情報を加味した情報パンフレットを配布した。また、ゲイ雑誌に掲載した啓発広告(4回シリーズ)では、既存の商業システムの流通を活用し、3地域を含む全国に発信した。今回の啓発広告は、コミックのストーリー表
現を軸にリスク要因として上位を占めた「主張スキル」「周囲規範」を啓発領域として扱った。本介入を通じて、札幌および松山ではこれまで男性同性愛者等を対象とした本格的なエイズ予防啓発が行われてこなかったこともあり、今回のプロジェクトOURSによる啓発介入が大きな意味を持つことになった。東京近郊(関東)の大都市圏に関しては、作業量の点で一定の限界があり、コミュニティ規模での介入効果を把握するには、大都市圏における量的な普及そのものに関する方法論の研究が必要と考えられる。(3)プログラム評価 ①個人レベルの介入 STD情報ラインでは男性間の性行為およびそれに起因する症状・疾病に対応できる相談・医療機関への紹介ニーズの高さが明らかになった。STD情報ページではゲイ向けのHIV/STD情報を提供したことに対し高い満足度が示された。以上から、男性間の性行為およびそれに起因する症状に対応できる情報の蓄積と相談・医療機関への紹介体制を準備することの必要性が明らかになった。またチェック・シートには自分の性行動を考えるきっかけになったとの意見があった。②小グループ・レベルの介入では、プログラムで扱われた情報量は適切であり、内容についてはリスク回避のスキルが参加者にとって有益であることが示された。また、介入から1ヵ月後の調査の結果、体液、身体部位、感染行為についての知識、セイファーセックスおよびコンドームに対するイメージ、リスクを回避するスキルの認知およびリスクを避けられるという自己効力感が上昇し、これらの結果を踏まえ性行動で設定した全4項目においてリスク行動の減少が確認された。以上からリスク・アセスメントにもとづいて開発されたワークショップ型の介入の有効性が確認された。今後は、フォローアップ調査協力者を増加させる方法および介入の影響が1ヶ月以降どの程度継続するかを評価するための調査方法論の開発が課題である。③コミュニティ・レベルの介入におけるチラシ/広告に対してはワークショップの広報およびHIV啓発の両側面を担わせたが、今後はそれぞれの役割を相殺しないような工夫の必要性が明らかになった。情報パンフレットに対しては、男性同性間のHIV感染リスクに特化した情報提供および地域版の発行によってエイズを自分たちのコミュニティの問題として認識する契機になる点が確認された。また、コミックを用いることが有効な媒体となる一方で、その場面設定に対しては地域差や性行動の様式により生じる差異を反映することの必要性が明らかになった。
結論
H13年度に実施した男性同性愛者のHIV感染リスク要因を体系的に査定するリスク・アセスメント調査を踏まえ、本年度は共通の介入領域を設定した上で、地域別に違いのある固有の領域を加えた地域毎の介入計画を立案し、各地域で「個人レベル」「小グループ・レベル」「コミュニティ・レベル」の定型3類に則り本介入を実施した。3地域において本介入を実施するうえでは、3年間を通してその実施母体となった各地域のNGO間のネットワーク(プロジェクトOURS)が、介入手法の開発・実施、効果評価、行政との連携を共同で担う役割を果たした。予防啓発手法の開発にあたっては、個人レベルにおいて、STD情報ライン(電話相談)、STD情報ページ(ホームページ)を継続・改良するとともに、新規にセルフ・チェック・シートを開発し、インターネットやパンフレットに掲載した。小グループ・レベルにおいては、ワークショップ型介入プログラムを開発し、今回の本介入で最も重要な啓発領域とされた「主張スキル」を正面から扱った。コミュニティ・レベルでは、3地域ごとの情報を加味した情報パンフレットを配布した。また、啓発広告によって全国メディアであるゲイ雑誌を活用し、3地域を含む全国にコミックのストーリー表現を軸とする「周囲規範」および「主張スキル」のアドバイスを発信した。プログラムの評価では、個人レベル介入におけるSTD情報ラインおよびSTD情報ページの評価から、男性間の性行為およびそれに起因する症状に対応できる情報の蓄積と相談・医療機関への紹介体制を準備することの必要性が明らかにな
った。小グループ・レベルの介入では、知識、セイファーセックスのイメージ、リスクを回避するスキルの認知およびリスクを避けられるという自己効力感のいずれにおいても、介入による効果が1ヵ月後まで持続したことが確認された。これらの結果を踏まえ、性行動においても1ヵ月後のリスク行動の減少が明らかになった。以上からリスク・アセスメントにもとづいて開発されたワークショップ型の介入の有効性が確認された。コミュニティ・レベルの介入では、男性同性間のHIV感染リスクに特化した情報提供、情報提供手法としてのコミック手法の採用、地域差や性行動様式を踏まえた啓発メッセージの必要性が、質的手法にもとづく介入効果の検証により明らかになった。以上を踏まえ、本研究におけるNGO連携-リスク・アセスメント-介入実施・効果評価という一連のプロセスを、他地域においても実践可能な男性同性愛者向けのエイズ予防啓発介入モデルとして提示した。

公開日・更新日

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