ひとり親家族の自立支援施策のあり方に関する実証的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200394A
報告書区分
総括
研究課題名
ひとり親家族の自立支援施策のあり方に関する実証的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
庄司 洋子(立教大学)
研究分担者(所属機関)
  • 下夷美幸(日本女子大学)
  • 藤原千沙(岩手大学)
  • 湯澤直美(立教大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,175,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、ひとり親家族の自立支援施策の実態を実証的に明らかにし、政策効果の検証と21世紀のひとり親家族施策のあり方を探るための総合的な実証研究である。離婚率の上昇、家族機能や家族意識の変容といった家族をめぐる現代的な変化、厚生行政と労働行政の一元化といった政策主体の変化、社会福祉基礎構造改革、地方分権、男女共同参画など、現代的な政策潮流を踏まえたうえで、わが国のひとり親家族問題に多面的にアプローチすることを特徴としている。そのことにより、現行のひとり親家族施策の実態と政策効果を検証し、施策再編成の方向性を探り、厚生労働行政における緊急課題のひとつである「ひとり親家族に対する総合的な支援制度」の政策提言を試みることが目的である。具体的には、平成12年度に実施した予備的研究をもとに、自治体・当事者組織・当事者の三者に対する実証的なアプローチとして量的調査・質的調査を行い、それぞれの観点を総合させた実態把握と政策分析を行うことを主眼とした3年間の調査計画を策定している。
【平成12年度(予備的研究)】自治体のひとり親施策主管課へのアンケート調査の実施
【平成13年度】・自治体の主管課に対するヒアリング調査の実施
・全国の母子寡婦福祉団体等、当事者団体に対するアンケート調査の実施
【平成14年度】・当事者への質問紙調査の実施
【平成15年度】・ひとり親家族へのグループインタビューの実施
平成14年度(本年度)は、ひとり親世帯の当事者の生活実態に焦点をあて、ひとり親家族問題を総合的に検証するために、住民基本台帳の抽出によるひとり親家族への質問紙調査を実施した。調査設計においては、母子・父子世帯の相違といった従来の視角からだけでなく、「親(子の祖父母)同居世帯」「非同居世帯」という視角を導入することにより、ひとり親家族の日本的特質を把握する手法を取り入れている。
研究方法
調査対象と方法
①地域  13大都市(12政令指定都市および東京23区)を除く全国の市50地点
②抽出法 住民基本台帳による単純無作為抽出法
③対象  20歳未満の子を養育するひとり親家族と推測される世帯
(母子・父子以外の世帯員のいる世帯も含む)
④標本数 2,500
⑤方法  郵送による配布・回収
主な調査項目
①回答者の基本属性・世帯構成  ②就労実態と家計の状況 ③子の養育と社会資源
④子の祖父母との同別居の背景と支援関係 ⑤別れた相手との関係 ⑥生活意識 等 
回収結果
配布数  2,500 
回収数  1,080
該当調査票 717 (母子世帯428,父子世帯276,母子・父子不詳世帯13)
非該当調査票 363
推定有効回収率 43.2% 推定最低有効回収率 33.6% 
結果と考察
本調査では対象を母子・父子のみの世帯に限定せず、子どもの祖父母等と同居している世帯も「ひとり親世帯」として把握した。そのようないわゆる「同居ひとり親世帯」は、児童扶養手当等、国や自治体のひとり親福祉施策の対象であるにもかかわらず、既存の統計・調査では母子・父子世帯として把握されていないことが多く(いわゆる「三世代世帯」や「その他の親族世帯」として扱われている)、その生活実態は先行研究では明らかにされてきていない。そのため、既存の調査からは、親(子の祖父母)同居世帯が、わが国ではどの程度の割合で存在するのか、また、同居型世帯と非同居型世帯の暮らし方の相違はどのような点にあるのか、という点も把握することはできない。
本調査結果では、ひとり親世帯の親(子の祖父母)同居率(母子・父子以外の世帯員のいる割合)は、母子世帯30.6%、父子世帯41.3%に及び、わが国のひとり親家族の生活のあり方として重要な特徴をなしていることが把握された。同居開始形態にも多様性があり、母子世帯では約半数、父子世帯では4割強が、ひとり親になったときに親(子の祖父母)との同居に移行している。その理由は、母子・父子では相違があるが、ひとり親移行時の生活激変期を乗り切るために、私的資源が重要な位置にあることが把握された。しかしながら、親(子の祖父母)の世話をする必要性から親同居に移行している世帯も母子世帯で約1割、父子世帯で5%あり、これらの世帯の生活課題はより複雑なものとなっている。また、親(子の祖父母)同居世帯であっても、積極的同居ではなく、「当分せざるをえない」「できれば別居したい」といった消極的同居層が一定数存在する。生活意識としても、親同居に負担を感じている層もあり、当事者にとっての私的資源の位置を多角的に検証する必要性が把握された。
親(子の祖父母)との同居の促進要因としては、①育児・家事面の援助、②家計や物品面での援助、のほか、無職の場合には生活の維持といった点があげられる。総体的に住宅面での援助を受けている比率は高く、わが国の住宅政策の不十分さが表れている。また、父子世帯の場合にも家計や物品面での援助を受けている世帯は一定数存在し、「父子世帯=経済的には問題ない」という枠組みでひと括りにはできない現状が把握された。一方、同居型世帯のうち、親(子の祖父母)に身辺の世話、金銭的援助、住宅提供などの援助を提供しているひとり親世帯も一定数存在していることも明らかとなった。また、就業率は親(子の祖父母)同居世帯と非同居世帯では大差はなく、このことは、わが国のひとり親世帯は私的資源の有無にかかわらず就労しているという現実を示す。しかし、就業形態という面でみると、親(子の祖父母)同居型世帯のほうが若干、正規就労の割合が高く、わが国のひとり親世帯が正規就労で働くことができる条件を整えるには、生活面での総合的な支援が必要であることが示唆されている。
結論
今後、ひとり親世帯における親(子の)同居世帯の比重の高さという日本的特質をふまえ、政策展開の方向性を検討することがわが国のひとり親家族施策においては重要な点であることが明らかとされた。とりわけ、親(子の祖父母)という私的資源は、ひとり親世帯への移行によって、ひとり親世帯自体が「親(子の祖父母)にとっての私的資源」という位置になる層が存在し、私的資源という意味では相補関係になるという傾向をふまえる必要がある。「少子高齢化時代のひとり親施策」という観点から、施策を組み立てていくことが重要である。

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