被虐待児童の保護者への指導法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200387A
報告書区分
総括
研究課題名
被虐待児童の保護者への指導法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
庄司 順一(日本子ども家庭総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 武藤安子(横浜国立大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
12,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
児童虐待は、子どもの心身の発達にきわめて深刻な影響をもたらすものであり、虐待への対応は急務の課題といえる。とくに、虐待をする保護者への援助、指導については、具体的な援助のあり方、援助の進め方はまだシステム化されたものとなってはいない。言うまでもなく、保護者への適切な援助、指導がなされなければ、被虐待児童への対応も十分な意義をもちえない。昨年度の研究において、児童相談所および児童福祉施設等における保護者への援助の取り組みの課題として、入所(前)から退所(後)までの時系列にそったケースマネージメントと、節目の時期におけるアセスメントが重要であることが示唆された。そこで、被虐待児童の保護者への援助、指導の方法を開発することを目的に研究を行った。また、虐待が顕在化していないケースやリスクファクターを有しているケースの保護者に対する援助をも視野にいれ、これらの保護者を対象とした個人心理療法、グループ心理療法の参加者の分析を試み、虐待のリスク要因と対応のポイントを検討した。
研究方法
児童福祉、心理学、児童精神医学の研究者、児童相談所・児童福祉施設の職員などからなる2つの分担研究班を組織し、臨床事例の検討、調査、研究討議を行った。
結果と考察
分担研究1「児童福祉施設等における被虐待児童の保護者への指導法の開発に関する研究」では以下の課題について研究をすすめた。
第1に、保護者への援助の枠組みを明確にするために、総論的な検討を行った。今年度は、児童福祉施設、児童相談所、医療機関(児童精神科)、それぞれの立場から、事例検討をふまえて論述した。
第2に、昨年度、乳児院、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設を対象として実施した調査結果の再集計、および自由記述のまとめを行い、これら施設での被虐待児童の保護者への援助のあり方、課題を検討した。この結果からは、「援助の結果、家族の再統合に至ったケースがあった施設」では、保護者への具体的な援助および入所児童と保護者との関係調整を行っている割合が「家族再統合ケースなしの施設」に比べて高いことが示された。これは、施設において保護者への援助を行うことが家族再統合につながる可能性を高めることを示唆していると考えられた。
第3に、児童相談所における被虐待の保護者への援助の具体的取り組みとして、先駆的に行っている大阪府、北九州市での実践事例の検討を行った。
第4に、児童福祉施設、とくに乳児院と児童養護施設を対象とした、入所(前)から退所(後)までの時系列にそったケースマネージメントと、節目の時期におけるアセスメントを想定した、保護者への援助のガイドラインの素案を取りまとめた。
第5に、具体的な保護者援助プログラムとして、コモンセンス・ペアレンティングを紹介した。これは、アメリカのボーイズ・タウンで開発され、実施されているもので、6回のセッションからなるペアレント・トレーニングであり、行動療法の理論にもとづく教育プログラムといえる。これまでに実践された4例の分析をふまえ、わが国における施設での保護者援助のプログラムとしての適用可能性を検討した。また、児童相談所と協力して家庭復帰に至った乳児院の事例の検討を行った。
第6に、今年度、新たに、母子生活支援施設および婦人保護施設における利用者援助の実態と課題に関する調査を行った。これは、昨年度の児童福祉施設調査に関連して、虐待やDVを受けた利用者への援助の実態と課題を明らかにするために実施したものである。 分担研究2「虐待に対する援助のフォーマット作成に関する研究」では、虐待が表面化していないケースや虐待のリスクファクターを有する保護者への援助に関して、民間相談機関において実践してきた個人カウンセリング、グループカウンセリング、サイコドラマという異なる臨床的アプローチによる事例検討を行うとともに、虐待の発生にかかわる過程を明らかにするために、上記機関に来所したケースについて諸要因の分析を行った。
すなわち、第1に、民間相談機関に来所したクライエント1,173例を対象に、担当したカウンセラー(10名)にカウンセリング記録をもとに、所定の調査票に答えてもらった。被虐待体験があったのは全体の31.3%であり、被虐待体験は両親の不和、親の嗜癖問題、父親から母親への暴力、祖父母の嗜癖問題など、親の問題と何らかの関係があることが明らかとなった。
第2に、グループアプローチの実践経過と、そのグループのプロセス分析に関する報告を行った。すなわち心理劇およびバーバル・セッションを含む、1クール10回のクローズド・グループの進め方と、参加者の発話内容からその意識構造の分析を試みた。
これらの研究の結果、虐待を主訴として来所するケースは少ないこと、虐待は意図的発見者が不在の場合には、その子どもが成長して自らの記憶、経験が虐待という文脈で語られることでしか表面化しないこと、親子のみならず、家庭内暴力という包括的視点が必要とされることが示唆された。
結論
児童相談所および児童福祉施設における被虐待児童の保護者へのガイドラインの素案を提示した。また、施設における親子関係の再形成(ペアレンティング)に向けた、保護者への援助の具体的な一つのプログラムを提示した。また、わが子への虐待に悩み、自ら相談機関を訪れた保護者への相談援助のあり方についての実践的検討を行った。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-