先天異常モニタリング等に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200369A
報告書区分
総括
研究課題名
先天異常モニタリング等に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
住吉 好雄(横浜市立大学客員教授、神奈川県労働衛生福祉協会理事)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天異常モニタリングの目的は、1958年西ドイツで製造発売されたサリドマイド薬害により先天異常児が数多く誕生し、全世界を震撼させ、二度とそのような悲劇を起こさないよう、常時同じ条件下で先天異常児出生状況の監視を続け、特定の異常児が多発した際、直ちにその原因を調査、確定除去する事によりそれ以上の出生を予防することにある。わが国においては1972年より全国規模の病院ベースで行っている日本産婦人科医会(日母)のモニタリング、1981年から厚生省心身障害研究として始められた県単位のモニタリングのうち現在も続けられている石川県、神奈川県、及び口唇・口蓋裂について行われてきた東海3県のモニタリングがあり、これらが現在わが国における先天異常児発生の監視機構の役割を果たしており、それを続けるとともに、増加傾向の見られる異常に関する原因究明とその予防を行うのが本研究の目的である。
研究方法
上記4つのモニタリングシステムはいずれも20年以上の経験があり、夫々独自の方法で行ってきた。従って従来の方法で継続する。これらのうち日母のモニタリングは1988年から国際クリアリングハウス先天異常監視機構に正会員として加盟し、加盟先進20ヶ国と共に、四半期毎にローマにあるセンターに発生状況を報告し、加盟国と情報の交換を行い世界中の先天異常の発生報告を得ている。増加傾向のみられる先天異常のうち、葉酸を投与することによりその異常発生の70%が予防可能であることが明らかとなった神経管閉鎖障害(二分脊椎、無脳症、脳瘤など)について、2000年12月28日に厚生労働省から出された葉酸摂取による神経管閉鎖障害発生リスクの低減化への情報提供が二分脊椎の発生動向に及ぼす影響を検討するため、妊婦の妊娠時の食生活、栄養摂取状況の調査を行った。また葉酸代謝過程におけるメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)をエンコードする遺伝子の塩基対677におけるC→Tへの変異多型性の日本女性における頻度とそれに伴っておこる血中ホモシスティン濃度との関係及びそれに及ぼす葉酸摂取の関係についても検討した。
結果と考察
日産婦医会の2002年1月から12月までの成績では対象出産児数97,389人、先天異常児数1,651例で先天異常児出生頻度は1.70%、であり1位は心室中隔欠損、2位は口唇・口蓋裂、3位耳介低位、以下水頭症、ダウン症候群の順であり若干の順位の入れ替えはあるが上位高頻度異常はほぼ同様の傾向であった。神奈川県では2002年観察児総数28,632人、奇形児発生頻度は0.96%、で個々の奇形発生に統計的有意な変動は認められなかった。石川県では平成9年―13年の先天異常発生を平成2年までのベースラインとの比較をおこなったところダウン症候群、尿道下裂、小(無)眼球症、単前脳胞症の増加傾向が見られている。愛知・岐阜・三重3県の2001年の統計では3県の先天異常児の発生頻度は出産児1万人対70.44人、口唇・口蓋裂15.15人、ダウン症候群7.09、鎖肛3.54、以下口蓋裂、四肢奇形、臍帯ヘルニア、水頭症の順で、口唇・口蓋裂の発現率は有意に増加が見られている。葉酸に関する研究では、妊婦では葉酸摂取奨励を知っていたと答えたものは41.0%で昨年の11.7%に比べると大分情報が普及しつつある。しかし日母の調査では、二分脊椎児を出生した50名の母親、無脳症児を出生した12名の母親で葉酸を摂取した者は昨年と同じく皆無という残念な結果であった。女子大生150名の食事調査より算出した葉酸摂取量は341±155μg/日で、所要量200μgを充足していたもの131名(87.3%)と高い率を示している。葉酸血清濃度の平均は17.1±4.7nmol/1で摂取量充足者と不足者の血中濃度に有意差がみられ、血清葉酸濃度と摂取
量との間の相関は有意(r=0.177)であった。血清総ホモシステイン(tHcy)濃度の平均は6.6±2.1μmol/1で葉酸血清値と負の相関(r=-0.251)がみられた。MTHFR遺伝子多型(C677T)の頻度はCC型46名(30.7%)、CT型82名(54.7%)、TT型22名(14.7%)で森山らの報告とほぼ同様の値を示しており、日本人のC677T遺伝子多型の頻度と考えられる。血清葉酸値及びtHcy値を遺伝子型間で比較すると、所要量の充足にかかわらずTT型は葉酸値は低く、tHcy値は高値をしめした。しかし葉酸充足者ではtHcy値は不足者に比べて低く、Botto(1998)らの報告では葉酸を十分投与することによりCT, TT, 型によるMTHFRacitivityの低下を十分カバーし得るとされ、その添加葉酸の量を決めることが今後の課題と思われる。
結論
本年度の先天異常モニタリングの成績から、ダウン症候群、二分脊椎、水頭症、耳介低位、尿道下裂に有意の増加がみられた。日本人のMTHFR遺伝子多型(C677T)の頻度はCC型30.7%、CT型54.7%、TT型14.7%である。血中tHcy値と血中葉酸値は負の相関を示す。葉酸を十分与えることによりCT,TT型のMTHFRのactivityの低下は十分カバーし得ることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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